二十三話 お付き合い
目が覚めると、窓からは朝日が差し込んでおり、俺たちは同じ布団で寝ていた。しかも、一糸まとわぬ姿で。
別に酒を飲んだわけではないので、昨日 あれから何があったのかは鮮明に覚えている。
俺が風呂に入って身体を洗っていると、楓がバスタオル姿で現れたのだ。ちなみに米倉の下の名前が楓という。
背中を洗うという建前から始まり、あれよあれよという間に一線を越えていたのだ。何やってんだ俺は。
まぁ、健全な男女がそこにいたということだろうが、それにしたって急展開がすぎる。
でもさでもさ、だって仕方なくない?ずっと好きでしたとか言われてキスされたらさ、俺だって受け入れちゃうよ。
それから行為に及んだ俺たちは、風呂から上がっても行為を続けて、その余韻のままに睡魔に身を委ねた。その結果が今である、学校が休みでよかったー。
昨日のことを思い出していると、隣で寝ている米倉が んぅぅ……と声を出した。
起きるかなと思いそちらに目をやると、彼女は腕の力を強め、ゆっくりと目を開けた。
「……雫くんだぁ、おはよぉ♪」
寝ぼけた声でそう言いながら胸に顔を埋めてくる楓、あんまりにも可愛すぎる。とんでもない可愛さに内心驚きながらも、彼女に挨拶を返す。
ちなみに、俺が起きた時には既に抱きついてたよ。
「おはよう楓」
「んぇへへぇ、雫くん好き好きぃ♪」
胸に顔を埋めながら甘えてくる。反則級の可愛さだが、俺が何も言わない訳にはいかない。
こちらも好きだと返すと、彼女は更に甘えた声を出した。
晴れて楓と付き合うことになったわけだが、イマイチ実感が湧かない。というより、どこか夢見心地なのだ。
「なんかあれだね、ちょっとだけ変な感じ。雫くんと付き合たのはいいんだけど、夢みたいな感じする」
「同じこと考えてる」
「えっそう?えへへ、なんか恥ずかしいね!」
二人で朝食を食べながら、のんびりとした時間を過ごす。一足も二足も飛んでる感じがすごいが、まぁそれも良いだろう。
「こうしてると、完全に夫婦みたいだな」
ポツリと、漏れるような呟き。しかしそれが楓にも届いていたようで、彼女は驚きむせてしまい、ゲホゲホと咳をしている。
「ごめん変なこと言って、大丈夫?」
「だっ大丈びゅっ……けふけふっ」
その背中を撫でていると、段々と咳も落ち着いてきたようで けふけふ と可愛らしい音を立てている。
「ふぅ……こほんっ!夫婦って、いきなりそんなこと言ったら嬉しくて困っちゃうよ!」
落ち着いた楓は、一度 咳払いをしてから改めて言った。顔を真っ赤にしながらのその姿があんまりにも可愛い。
「なら、次は気を付けるね。という訳でまた後で改めて──」
「言わなくていいからっ!」
却下されてしまった。ただ単に言いたかっただけなので別に良いのだが、随分と照れているのでますます言いたくなってしまうぞ。
そんなこんなで朝食を食べ終わり、土曜日の朝からのんびりとした時間を過ごす。俺の上に楓が座っているのだが、めちゃめちゃ軽い。
しばらくスマホを触っていた楓なのだが、それを脇に置いて身体をこちらに向けた。
そして背中を腕を回し、ギューッと抱き締めてくる。当然俺も彼女を抱き締めてそれに応える。
何も言わずに、ただお互いを身体で感じる。そんな時間をしばらく続けていると、そのまま楓に押し倒されてしまった。そうして唇が塞がれる。
気が付けばあっという間に夕方だ、幸せな時間というのは随分と過ぎるのが早い。
荷物をまとめた楓を見て、玄関に向かう。
「忘れ物はない?」
「うんっ!」
元気の良い返事を受けて、俺も頷く。楓の荷物を手に取って、扉を開ける。
彼女は ありがとっ!と言って外に出たので、扉の鍵を閉めて楓の家へと向かう。二人で手を繋ぎながら。
「わざわざ持ってくれなくても良かったのに」
「いいんだよ、俺が勝手にそうしたいだけだからさ。彼女に良いところを見せたいの」
「雫くんの良いところなんて沢山見てるけどね。でもありがとっ!」
掌を合わせるように繋がれた手、その握る力がほんの少し強くなる。とても上機嫌な楓を見ていると、こちらまで心が弾んでくる。
こんな気持ちになったのは久しぶりだな。




