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感情という錘  作者: 隆頭
第一章 幼馴染

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二十一話 大胆

 一人暮らしを始めた俺の家に米倉がお泊まりにやってきた。彼女とのんびりとした時間を過ごし、先程夕飯を食べ終えて皿洗いをしているところだ。

 皿洗いを終えて、テーブルを挟んだ米倉の向かい側に座る。


「ありがとね寺川くん。美味しかったし片付けまでしてくれるし、なんていうか至れり尽くせりだね」


「そりゃどーも。これくらいしかできないから心置きなく」


「そんなこと気にしなくていいのに」


 そんな風に好きなように雑談を楽しんだ後は、風呂に入るということで、俺が先に入らせてもらう事になった。


「さすがに家主さんより先に入れないからさ、寺川くん入ってよ」


 ということらしいので、さっさと入ってしまおう。待たせすぎるのも趣味じゃないしな。



 思えば、変なことになったものだ。米倉とは高校に進学してからの間柄で、気付けば一年は経過しているだろう。

 ただの友達でありクラスメイトというだけの相手が、今は俺の家に泊まりにきている。

 ハッキリ言って、これでなにも起こらないというのは不思議だろう。他人が話を聞けば間違いなく邪推するはずだ。


 別に俺は手を出そうってんじゃないし、友人との楽しい時間が多ければ多いほど良いと思ってる。

 その時間を共有できるというのは、それだけで幸せなのだ。家族との時間が少なかったからこそよく分かる。


 俺の自意識過剰でなければ、間違いなく米倉は俺に気があるだろう。その可能性を除外して出てくる説などもはや疑心暗鬼の類に他ならない。

 気のない異性(おとこ)の家に、大人の目のないなかで泊まるということはあまりに無防備だ。

 余程の信頼と、相手との何かしらの繋がりがなければおかしい。

 例えば趣味といったところだが、俺たちの間にそういったものは無いし思い当たる節もない。


 好意的な可能性除外すれば、残るのは……あまり考えたくないし、米倉がそんなことは絶対にしないだろうが、俺に襲われたなどと周りに吹聴するためのお泊まりだ。

 既成事実を作った後に、無理やり押し倒されたと言えば充分。胸糞悪いほどに簡易的で、確実に相手を嵌めることができる。


 しかし米倉がそんなことをするメリットなどないし、かといって何も共有する事柄(しゅみ)などがないのであれば、やはりあるのは好意。



 身体を洗いながらグルグルと考え込んでいると、いきなりガラリと戸が開けられた。そこにいるのは、タオルを身体に巻いただけの米倉。


「??????」


「えへへ、来ちゃった♪」


 突如現れた米倉が、そう言って顔を赤くしながら微笑んだ。

 何が起きたのか理解できず、身体を硬直させながら米倉を呆然と見つめることしかできなかった。


「なっなんか恥ずかしいねっ!でも、寺川くんの背中を、なっ流したくてっ……ってあれ?おーい、てっ寺川くん?」


 一切予想していなかった事態が起き、驚きのあまり完全に硬直(フリーズ)してしまった俺である。そんな姿を見た米倉が、手をフリフリとして声をかけてきた。


「??????」


「だっ大丈夫?」


「はっ!」


 危なかった。呼吸まで止まってしまっていたため、強く息を吸うことで目を覚ますことができた。

 何が起きているのかを強く再認識した俺は、タオルを巻いただけの姿をした米倉を見て、あぁこりゃ間違いないなと察した。


「えっと、要するに背中を洗ってくれると」


「えっ、あっうん……邪魔だったかな?」


「そんなことはないよ。お願いします」


 俺は努めて冷静を装い、彼女に改めて背中を向けた。普通なら断るべきだったろうが、勇気を出した彼女にソレは酷だろう。


 それに、嬉しいのにわざわざ断るなんて、そんな勿体ないことはしない。



「寺川くんって、いい身体してるね。引き締まってるし格好良い……♪」


「ありがとう。でも、米倉さんもすごい綺麗だよ」


「ぇぅっ?……あっありがとぅ……」


 ゴシゴシと背中を擦ってくれる米倉が、唐突に褒めてくれるので、俺も正直なことを話す。自分で話を振っておいて、顔を真っ赤にしているとは、大胆なんだか初心なんだか分からんな。

 まぁ、それがいいんだけどね。


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