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感情という錘  作者: 隆頭
第一章 幼馴染
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二話 傷口に塩

 昨日は嫌なことがあったけれど心機一転、元気にやっていこう!


 だなんて気にはなれず、重い足取りでいつもの場所に向かう。

 そこには珍しく、和雪(かずゆき)が先に来ていた。どこかソワソワと落ちかない様子。


(しずく)!……大丈夫か?」


 彼は俺を見つけるとすぐに駆け寄ってきた、心配してくれているのだろう。本当に良い奴だ。

 いつかその優しさに報いたい。


「大丈夫だ、気にするなよ」


 心配する和雪を安心させる為に笑いかけると、和雪は一瞬だけ悲しそうな表情をしながら、いつものように俺の肩に手を回した。


「じゃあ…行くか」


「おう」


 いつも通り和雪の呼び掛けで学校に向かう。

 ただ少し違うのは、あの女がここに居なくなっただけだ。ちょっとしたことさ……別になにも変わらないよ。


 学校に到着に席に着く。

 周りの連中はヘラヘラと俺の事を見てくるが、どうしたんだろうな?

 一瞬だけそんなことを考え、すぐにその事を忘れてボーっとしていると後ろから肩をトントンとされる。


「おはよう、寺川くん」


 少し元気のない声色で挨拶してきた米倉(よねくら)、どうしたのかな?その表情からは、どこか悲しみの情を感じとれた。


「おはよう米倉さん、今日もかわいいね」


 元気付けるために本当のことを言ってみるが、効果はいまひとつのようだ。もっと気の利いたことを言えればいいのだが、如何せん俺にはそんなセンスなどない。


「っ……ありがと、寺川くんは素敵な男の子だから、元気出してね」


 彼女は微笑みながらそう言って俺の頭を撫でてくれた。その温もりがとても優しい。


 今日は特に喋ることも無く、頬杖をついて前を向いているとクソカップルがやってきたようで、聞きたくもない声が右から聞こえてきた。忌々しい声だ。


「よぉー!おはよう皆ぁ!」


「おはよ…」


 デカデカとうるせぇ声で叫ぶ軽田(バカ)と、ボソボソと挨拶する結々美。

 談笑ついでにヤツらは、まるで見せつけるようにイチャイチャとしながら朝から教室で抱き合っている。キモッ!


「……ッチ」


 アイツらがベタベタとしている中、後ろから舌打ちが聞こえてきたのを俺は聞こえていないフリをした。


「結々美のやつ、どうして軽田なんかと……」


「好きだったんじゃねぇの?付き合ったくらいだしさ」


 そうじゃなければ説明がつかないと思い、不快感を露わにしながらこちらにやってきた和雪に言った。詳しい事情を知ったところで悲しい気持ちはなくならないし惨めなのは変わらない。

 家族にさえ疎まれているくらいだ、結々美だって腐れ縁で付き合っていただけなのだろう。俺が辛い思いをした分、それを踏み台にして俺の与り知らぬところで幸せになって欲しいね。

 もう俺の前に現れないで欲しいくらいだ。


「でもよ……いや、何でもねぇ」


 何かを言おうとした和雪であったが、しかし彼は口を噤んで目を逸らした。その表情はとてもバツの悪そうで、見ているこっちまで悲しい気持ちになる……いや元々そうだったか。


 もはやため息さえ出てこず、ただ不愉快な気持ちになりながらあの二人を意識の外に出すのだった。


 自分の心を偽りながら、何度も何度も追い出した。



 学校が終わり、家に帰ろうと廊下を歩く。そんな折に、後ろから気持ちの悪いほどに高い声が鼓膜を震わせた。

 吐き気を催しながらそちらを向く。


「あっ、やっと気付きましたか先輩?頭だけじゃなく耳まで悪くなったのかと思いましたよ」


 別に喋りたくもないのに、名も知らぬ後輩ソイツはヘラヘラと話しかけてきた。

 ってかいつからこんな口も性格も悪い女と知り合ったんだ?まったく不愉快な……


「あれれ?どうしたんですかいつもより陰気臭くなっちゃって……もしかして、彼女さんに振られたこと……気にしてます?」


 どうにも返事が思い付かずにいると、ソイツは面白いものでも見つけたように言った。

 人の不幸がそんなに面白いか?あぁもしかしてコイツも軽田と同じタイプか。


「まさか先輩なんかがいっちょ前にショック受けてんですか?あははっ、お笑いですね!どーせ彼女さんは先輩が可哀想だから付き合ってただけですって。まさか本気だと思ってました?」


 人の傷口に塩どころか劇薬でも塗りたくるように、ネチネチと嫌味を言い続けてくる。

 どうしてそうも人の心を傷付けるのが上手いんだコイツ。


「先輩のことを本気で愛してくれる人なんているんですかねぇ?まぁどこかにはいるかも知れないですけどね。ほら世の中には、結構な物好きとかいますし……ね?」


 さっきまで気味の悪いニタニタとした笑みを浮かべていたというのに、いきなり猫なで声のような音で言葉を紡ぎ始めたコイツがまるで妖怪のようだった。

 眉尻を下げ擦り寄ってくるこの女がどうしようもなく気持ち悪くて、思わず後ろに足が進む。


「私って実は結構モテたりするんですよねぇ。もし先輩がどうしてもって言うなら、私が付き合ってあげても──」


「気持ち悪いな、お前」


 俺の言葉を聞いたソイツは目を見開いてポカンとしている。すげぇアホ面だなあはは!って面白くねぇよ。

 俺はその先が何がなんでも聞きたくなくて被せるようにそう言ったんだ。肌が栗立ち、胃に込み上げるような感覚さえあるほどの、凄まじい不快感。

 一体どうしたら笑えるというのか。


「いつもいつも顔を合わせるたびにグチグチとよくもまぁ飽きずに悪口が出てくるもんだ。そんなお前と口を聞くだけでも不快だってのにそれ以上先なんぞ聞きたくもない」


「えっ……あぇっと、せっせんぱ」


「しかも悪口だけじゃ飽き足らず、人の傷口に塩塗り込んで引っ掻き回して、最低だぞお前」


 相当驚いたのか言葉が出てこないソイツだが、それでも俺は止まらない。



 この際はっきり言ってやるよ、全部。

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