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感情という錘  作者: 隆頭
第一章 幼馴染
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十九話 一人暮らし

 人が寝静まった時間……つまり夜中に俺は目が覚めた。

 なんとなく違和感を感じて横を見ると、そこには瑞稀がいた。ベッドに腕を乗せ、その腕に頭を乗せて寝ていた。しんどく見えるぞその体勢は。


 むくりと上体を起こし、その肩に手を置いてゆさゆさと揺らす。起きろー。


「んぅ……お兄ちゃん……?」


「あぁ、お兄ちゃんだぞー」


 名ばかりだけどな。しかし、そんな冗談が出るくらいには俺も寝ぼけていた。

 揺らされて目を覚ました瑞稀が顔を上げて、細い目のままこちらを見る。部屋が暗いためハッキリとは分からないが、その目は泣き腫らしたように赤く見えた。


「お兄ちゃん……大好き」


「え……ちょ、待ておい」


 完全に寝ぼけた瑞稀が変なことを言って抱き着いてきた。寝ぼけた頭が混乱に包まれる。

 瑞稀の勢いのままに押し倒され、俺はされるがままだが、俺の手は無意識に瑞稀の背中を撫でていた。


「どうせ行っちゃうんだし……それまではずっと……一緒に寝よぉ……お兄ちゃん」


 むにゅむにゅと瑞稀が言う。いったいどういうつもりなのかと疑問を抱くが、だからと言ってあれこれ詮索する気力もない。

 俺はただ眠気に流されるまま、ソレに身を委ねるのだった。


 ずっと瑞稀を撫で続ける手に気付かないままに。



 ─数日後─



「そういや、引越しがどうとか言ってたけどどうなったんだ?」


 下校中、隣を歩く和雪(かずゆき)がそう問いかけてきた。


「もう終わったよ。おかげで土日はバイトも休みがちだったから、そろそろ戻りたいとこだな」


 先日、バイト先の先輩方と話をしてから二週間ほど経過して、ゆっくりながら引越しを終わらせた。家具も概ね揃ってきたので、だいぶ落ち着きを取り戻したというところだろう。


「じゃあ私、寺川くん()に遊びに行っちゃおっかな?」


「良いよ。と言っても、そこまでなにがある訳でもないから退屈させるかもだけど」


 楽しそうに言ったのは米倉だ。彼女や和雪なら大歓迎だ。もちろん先輩方もね。

 今は三人で下校中だ。俺を挟んで和雪と米倉が一緒にいる。


「ううん、私は寺川くんと話ができるだけで充分だよ!でも、ホントにいいの?本気にしちゃうよ?」


「え、別に大丈夫だけど……」


 念を押してくる米倉に首を傾げてしまう。自分で遊びに行くって言ったのに、どうしたのだろうか?


「そっ、そっか!じゃあその、明日とか明後日とか、お邪魔してもいい?」


「明後日なら、用事がないから大丈夫だよ」


 俺がそう返すと、米倉は やった!と言って喜んだ。どうせなら和雪もどうかなと思い、彼を見遣るも手を振った。つまり米倉と二人きりである。


「俺はその日、用事あって行けねぇから。米倉は楽しんで来いよ」


「うん!」


 なんてこった、年頃の男女がひとつ屋根の下だぞ。間違いがあったらどうする。

 まぁそんなことはないだろうから、特に気にしなくても良いか。



 そんなやり取りを終えてバイトに向かった俺は、いつも通り先輩方と一緒にシフトを終えた。


「じゃあね寺川くん!高畠くん!佐藤さん!」


「お疲れ様でした」


「お疲れ様っす」


「お疲れ様でーす!」


 店長の声かけに返事をして店を出た俺たちは、いつもの配置で道を歩く。広がって歩くのは邪魔だろうが、そこは臨機応変に道を開けながら歩くよ。

 とはいえ、時間はそれなりに遅いため、人が通ることはあんまりないけどね。


「最近少しだけ調子良くなってきた?なんとなく明るくなったように見えるね」


「そうですか?」


「だな。調子が戻ってきたのか、前より元気に見えるな。引越したから環境が変わったんだろ」


 あんまり自覚はないが、二人が言うのならきっとそうなのだろう。言われてみれば、たしかに瑞稀や母さんがいた時に比べて、だいぶ気持ちは楽になったという自覚がある。


「たしかに、言われてみると一人暮らしを始めてからだいぶ、気分が楽になりました」


 俺がそういうと、二人は少しだけ気まずそうな表情を一瞬だけ浮かべたが、すぐに ニコッと笑って撫でてくれた。

 いつもの優しさをくれる大切な人たちだ。



 帰宅した俺は荷物を置いて、米を炊飯器に入れたあとにシャワーを浴びる。

 炊けるまでの間に夕飯の用意をしながら、先日の出来事を反芻していた。



 引越しが決まったあと、ある日の夜中に瑞稀が俺の部屋に来た。寝ぼけているのか、俺に抱きついたりして。

 それから引越すまでの間も、毎日必ずベッドに入ってきた。その時に瑞稀から出る言葉は決まって " 大好き " とか " ごめんなさい " だ。


 きっと、瑞稀なりに後悔しているのだろうとは思う。離れていても、嫌ってはいなかった。


 そんなこと、もっと早く知りたかったよ。


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