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感情という錘  作者: 隆頭
第一章 幼馴染
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十八話 頼れる先輩

 お兄ちゃんから完全に拒絶された私は、その事実だけでなく部屋の様相にも胸が苦しくなっていた。

 予想してはいた。でも、まさか本当に結々美ちゃんとの思い出を全部処分しただなんて……


 もしかしたらという微かな希望もなく、ただ途方に暮れるしかなかった。

 結々美ちゃんにこの事実を伝えるべきか悩んでしまう。言わない方が良いのかもしれないけど……


 徹底的にお兄ちゃんの心を傷付けた結果が、こんなことになってしまった。知らなかったでは済まされないことは分かっているけど、やっぱり辛い。

 でも、お兄ちゃんからほんの少しだけ語られた言葉が、人知れず苦しんでいたお兄ちゃんのことを映し出していた。

 今更ごめんなさいなんて、通用しないんだ。


「お兄ちゃん……」


 後悔に苛まれながら、その部屋の扉に そっと手を触れて、お兄ちゃんを呼ぶ。多分この声は聞こえていないであろうほどに、微かな声で。

 ずっとずっと大好きだったお兄ちゃん。いや、今でもずっと大好きだ。誰よりも格好良くて優しくて、頼りになるお兄ちゃん。

 よく見かける " カッコいい " 男の子はいるけれど、皆が頬を朱に染めている中、私はいつもお兄ちゃんの方が素敵だと、なにも響かないでいた。

 唯一無二の存在なのに、私はずっと突き放していた。


 涙が止まらない。せめて同じ家で一緒だったことだけが救いだったのに、それさえなくなってしまったらと考えると、あまりに辛い。

 しばらくの間、私はその場所ですすり泣く声を響かせていた。



 ─────────────────────



 あれから一週間ほど経過して、土日に引越す場所を内見やらなんやらをした。新しい家までは目前だろう、楽しみというと変だが不思議な気持ちだ。これがワクワクというのだろうか?

 もともとの引越す理由が、家での居心地が悪くて逃げたいという消極的な理由だった訳だから、本来は何とも思わないハズなんだ。そう思ってた。


 しかし新しい家に住む……しかもそれが一人暮らしというのは、言ってしまえば新天地のようなものだ。自分では気付いていないが、内心浮かれていたということかもしれない。


 今日もバイトを終えて、いつもの先輩方と一緒に店を出る。


「そっか、寺川くん一人暮らしするんだ」


「はい、少しだけ楽しみです」


 こんな気持ちになるのも口にするのも、いったいいつぶりだろうか……だけど、明るい気持ちになれるのであれば、感情があるのも悪いものじゃないんだろう。

 少なくとも、和雪とこの先輩方(ふたり)と一緒にいる時はそう感じられる。というか、学校よりもバイト先の人間関係の方が充実してるというのは複雑な気持ちになるな。


「少しだけって、随分と淡白だな。もっと喜んでも良い気がすんだけどな」


「別にいいでしょそんなこと。寺川くんだって照れてるんだよ……多分?」


「まぁ、そうですね……」


 照れていると言われれば別にそういうわけでもないけれど、かといって自分でも詳しく説明できるわけでもないので、とりあえず頷いておく。

 大事なのはそこじゃないからね。


「まぁそんなことより、引越しの手伝いとかはいるか?もし言ってくれりゃ手は貸せるけど」


「荷物は少なめにしとくつもりなんで、今のところは大丈夫だと思います。引越してから家電を揃えるのがどうなるかって感じですね。今どきは通販とかありますし、そういうのを頼っても良いかもですけど」


 下調べをしたところ、幸い貯金には余裕がありそうだ。物を買うお金よりも運んだりする方が大変だというのが今のところの予想だ。

 まぁ別に無理に大きな物を買うつもりはないけどさ。


「なら、もし運びたいなら任せてくれよ。免許ならあるから、車を用意してもいいしな」


「ぺーパーなんだから無理しないでよ?」


「うっせ」


 なんとも心強いことを言ってくれる彼氏先輩だ。こうして手を貸そうとしてくれるのはこちらとしても本当に嬉しい。


「ありがとうございます。もし困ったら連絡しますね」


「あぁ、任せとけ!」


「まったく、調子良いんだから。でも、寺川くんのためだもんね!」


 二人して、そう言いながら俺の背中に手を添える。服越しのその感触が、妙に暖かく感じた。


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