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感情という錘  作者: 隆頭
第一章 幼馴染
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十三話 妹の過去(3/3)

 私がお兄ちゃんを拒絶し始めて三ヶ月と経った頃、私は学校生活を満喫していた。

 いじめの主犯だった彼女は姿を見せなくなったし、彼女に逆らえなかった子たちは私と仲良くするようになった。既に謝罪をしてくれていたから、私も少しずつ心を開くことができたのだけれどね。


 それでも家に帰ったあと、お兄ちゃんの前では目を合わせることもできなくて、ロクに言葉を交わすこともなかった。



 その頃から、家の中でお兄ちゃんが完全に孤立し始めてきたように思う。元々お母さんは仕事ばかりでお兄ちゃんとあまり関わることはなく、対する私に対しては積極的に声をかけたり、一緒に出かけたりしてくれた。

 それだけじゃなく、私はお母さんに言って、お兄ちゃんには一人でご飯を食べるようにしてもらい、私はお母さんと一緒にとお願いした。

 お兄ちゃんの気持ちも考えずに。



 そんなある日、お兄ちゃんから声をかけられることはパッタリとなくなり、それからお兄ちゃんが笑いかけてくれることも一切なくなった。

 あの優しい声を聞くことはできなくなったし、その腕に抱き締めてもらうことも撫でてもらうことも、勉強を教えてもらうこともなくなって、家族という関係性が血縁だけに変わっていった。


 家族だから一緒に住んでいるだけで、このままだったら完全に他人になってしまう勢い。

 でもそのことに私が気付いたのは、お兄ちゃんが高校生になってからだった。


 結々美ちゃんから聞いたことだけど、お兄ちゃんの様子が今まで以上に暗くなったらしい。

 元来そこまで感情を出す性格ではなかったのだけれど、それとは全然違う。


 表情の動きが少なかったお兄ちゃんだけど、その雰囲気まで暗くはなかった。でも、その辺りから酷く沈痛な雰囲気となっていた。


 それを聞いてようやく私はお兄ちゃんに声をかけるようにした。あまりにも遅すぎるくらいに、やっと声をかけたんだ。

 当たり障りのない、ただの挨拶。


 朝になったから おはようと言うだけの、本来ならば普通のこと。礼儀と言ってもいい。

 それさえも拒絶し続けていた身で何を今更って話なのだれけど、それでももう一度お兄ちゃんと仲良くしたい気持ちはあって、それを取り戻すための一歩だと思ってかけた言葉だった。


 だけど、お兄ちゃんからの返事はなかった。



 それも当然だ。だって何ヶどらくらいの間お兄ちゃんと言葉を交わさなかっただろう。

 目が合えばそっぽを向いて、できるだけ顔も合わせることがないように、部屋から出るタイミングも避けていた。

 せっかくの気遣いも全て無下にして、お兄ちゃんとの関係は自分からずっと閉ざしていた。

 そう考えれば当然の結果であることは明白だった。



 無視が続けば例え家族であっても不愉快だし、なにより辛いはずだ。私が無視をされても文句は言えなかった。

 それからも何度か声をかけて、ようやく少しだけ喋れるようにはなったけど、それでも必要最低限の会話ばかりで、世間話や雑談なんてあまりに程遠いものとなっていた。


 ちょっとしたスキンシップもなくなって、お兄ちゃんがあまりに恋しくなった私がとった行動は、お兄ちゃんの部屋に入ってそのベッドに潜り込んで、大好きな匂いに包まれるというもの。


 お父さんはいなくて、そしてお母さんが仕事ばかりの私にとって甘えられるのはお兄ちゃんだけ。幼かった時から私が拒絶するまでずっと、お兄ちゃんの胸の中は安心できる場所だった。

 それを疑似体験できるのはお兄ちゃんのベッドの中だけで、それでも足りないと思うことは日常茶飯事だった。



 ではお兄ちゃんは、どれだけ寂しかったんだろう?家の中なのに孤立させられてしまった気持ちを、遅まきながらに考える。

 加えて結々美ちゃんからも拒絶されたと考えれば、お兄ちゃんはずっと追い詰められている気がする……というか、気のせいではないだろう。

 私もその片棒を担いでいるのだから。


 思えば、お兄ちゃんとお母さんがあまり仲良くしているところを見たことがない。

 私に見せてくれるような笑顔を、果たしてお兄ちゃんに見せることはあったんだろうか?

 考えれば考えるほどに、自分のした事の罪深さに胸が苦しくなってくる。罪悪感が胸を締め上げるように。


 帰宅した私は、その苦しさから逃れるためにお兄ちゃんの部屋に向かう。幸いなことに、まだお兄ちゃんの靴がなかったので、家には私だけだ。

 ゆっくりと階段を登り、お兄ちゃんの部屋の前に立つ。頭によぎるのは、部屋に飾ってある結々美ちゃんとの思い出の数々。そういえば、結々美ちゃんと別れた後はどうなったんだろう……


 少しだけ嫌なものを感じながら、私はドアノブを握って扉を開けた。

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