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感情という錘  作者: 隆頭
第一章 幼馴染
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十二話 妹の過去(2/3)

 事が起きたのは、お兄ちゃんが私を心配して声をかけてから三日後のことだった。

 調子が悪いと言ったものの、それから改善の見られない私に何かあったのではないかと感じたのだろう。

 正直に悩みというか、苦しい状況を打ち明けない私に気付かないようにそっと様子を見ようとしたんだと思う。


 ある休み時間の度に相も変わらず嫌がらせをしに来る元友人たち。

 早くこの嫌な時間が終わって欲しいと願いながら、彼女たちから目を逸らして俯く私に小突いたり、髪を引っ張ったりの行為を我慢していたそんな時。


 教室に轟くように、聞き覚えのある聞き馴染みのない声響いた。



『何やってんだコラァ!』


 その怒号が聞こえて一拍、それから私を含めた教室にいる全員がそちらを向いた。

 そこにいたのは、まるで鬼の形相をしたお兄ちゃんと、一緒に着いてきたであろう結々美ちゃんたち。


『てっ寺川先輩じゃないですかぁ!瑞稀ちゃんとは仲良くさせて、もらっ、て……』


 イジメの発端であり中心人物であった女の子が猫なで声でお兄ちゃんに擦り寄ろうとするも、凄まじい表情でツカツカと歩いてくるお兄ちゃんに、顔を引き攣らせて言葉を詰まらせる。


『何してるのか聞いてんだろ、答えろ』


『えっ、とぉ……』


 仇敵を睨むように問いかけるお兄ちゃんと、蛇に睨まれた蛙のように硬直する彼女。

 何かを言おうとするも声すら出ない彼女だが、そんな沈黙に苛立ちを強くしたお兄ちゃんの怒号が再び教室に響く。


『何したか言ってみろ!許されると思ってるのかテメェら!』


 今までに聞いた事のないような、ドスの聞いた声で激しく空気を震わせるお兄ちゃんに、その場にいた誰もが硬直する。

 優しい人ほど怒った時は怖いというけれど、その時のお兄ちゃんはまるで別人に見えるほどだった。ホラー作品に登場するお化け役なんて取るに足らない。


 さながら殺人鬼に凶器を突き付けられたような恐怖で誰もが動けない中、渦中のその子はなんとか声を発した。伊達に " 年上 " ではないということだろうか?


『いやそのっ瑞稀ちゃんはその、友達が好きな人になんて言うか、色仕掛けみたいなことをしてですね、それは良くないって話で……えっと』


『は?それでイチイチ手ェ出すのかテメェは、しかもそんなに連れてよ。そんなに血の気が多いなら俺が相手になるけど?オラ、来いよホラかかって来い。女だろうが容赦しねぇぞ、イジメなんて下らねぇことしやがって』


 ポケットに両の手を突っ込んだままのお兄ちゃんはまるで不良のようだった。だけど制服はきちんと着ているし、変に格好つけてもいない。でもそれがよりアンバランスに見えて、そこから生まれた不気味さが恐怖をより強くする。

 対する女の子はいつの間にか涙を流し、何も言えなくなっていた。


『俺の家族に手ェだすんなら許さねぇからな』


 そう言ったお兄ちゃんは一歩、二歩と歩みを進める。眼前に迫るお兄ちゃんに動けなくなった女の子は、逃げることさえも叶わない。

 そして手を振り上げるお兄ちゃんを見た結々美ちゃんたちが、急いでその手を掴んで止める。


『待て雫!それはマズい!』


『ダメだよ!落ち着いて!ね?』


 そんな二人の声にハッとしたお兄ちゃんが、振り上げていた手を下ろしてすぐに私に駆け寄った。


『大丈夫か瑞希!守れなくてごめん、もう大丈夫だからな……』


 目線を合わせるように腰を下ろしたお兄ちゃんが、私の頭を撫でようとしたその時、咄嗟に私の身体が動いた。

 パシッと小さな音が、教室に響く。お兄ちゃんの手を私の手がはたいた音だ。


 お兄ちゃんの剣幕にすっかり怯えた私は、完全に苦手意識を持ってしまっていた。

 私のおこなった突然の拒絶にお兄ちゃんは驚き固まった。対する私は、目を逸らしてポツリと言った。


『────いや……』


 すっかり怯えてしまった私にお兄ちゃんは苦しそうな表情をしたものの、すぐに立ち去って行った。私をおもんぱかってそっとしておいてくれたということだろう。


 しかし、私は家に帰ってからもずっとお兄ちゃんを拒絶した。


『瑞稀、大丈夫か?』


『ひっ……!』


 家に帰ってきたお兄ちゃんはすぐに私を気にかけてくれたけれど、当時の私は激昂したお兄ちゃんを思い出して、そのことにずっと怯えていた。

 一週間経っても二週間経ってもそれは変わらないままで、いじめられていた私を守るように怒ってくれたことを感謝するでもなく、ただただ拒絶し続けた。


 お兄ちゃんのおかげで私はいじめられることは無くなったし、三ヶ月も経つ頃には少しずつ友達もできた。それなのに私はお兄ちゃんにお礼のひとつさえ言うことはなかった。




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