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感情という錘  作者: 隆頭
第一章 幼馴染
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十一話 妹の過去(1/3)

 結々美ちゃんから滔々と語られる、とても衝撃的な話。なんとか相槌を打ってはいるけど、内容が内容だけに気の利いた事だって言えないし、擁護できる内容でもない。


 結々美ちゃんが、お兄ちゃんを目の(かたき)している男の子から告白されて、今まで抱えていた不安を確かめるためにその人と付き合って、それからハッとしてその人と別れた。

 そしてお兄ちゃんと話をしようとした矢先、クラスに蔓延していた、お兄ちゃんを悪者に仕立て上げる悪意ある噂のせいもあって話ができず、確実に対話ができる在宅時を狙ったのが昨日の訪問。

 しかしその結果は、あんまりにも悲しいものだった。


 お兄ちゃんと別れてから昨日までの話を終えた結々美ちゃんは、力無くため息を吐くように告げた。


「どうすればいいんだろ……」


 お兄ちゃんに嫌われている私にはできる事なんてない、それも結々美ちゃんだって分かっているはずだ。

 きっと今の言葉は誰に向けた物でもないのだろう。


 絞り出すように出てきたソレはきっと、" 諦めたくないという気持ちではどうしようもないほどに、ハッキリと突きつけられた現実(けっか) " に苛まれているからこそ出てきた言葉だと思う。

 ほとぼりが冷めないことには、関係修復の不可能なところまで来てしまったんだろう。


 そうして一分ほどの沈黙の後、結々美ちゃんが(おもむろ)に顔を上げて言った。


瑞稀(みずき)ちゃんから、何とかできないかな?」


 きっとそれは私がお兄ちゃんに、結々美ちゃんと寄りを戻すように働きかけられないかという内容だろう。

 だけど、私は首を横に振ることしかできない。


「だよね……ごめんね、変なこと聞いて」


「ううん。私こそ、力になってあげられなくてごめんね」


 本当ならなんとかしてあげたい気持ちはあるのだけれど、お兄ちゃんが私の言うことを聞いてくれるかといえば、その可能性は限りなく低い。

 よほどの気まぐれか、どうしても必要なことでもない限り。

 だから、私はただ謝ることしかできなかった。


 私が思うに、下手に人を挟んだり、頼ったりすればお兄ちゃんはもっと怒るかもしれない。私が介入すれば、更にややこしいことにもなる。

 だから結々美ちゃんには、ほとぼりが冷めてから話をするべきじゃないかと話した。



 それからしばらく時間が経って、私は結々美ちゃんの家を後にした。

 二人の間にはどうしようもない溝ができており、私も共感できてしまうからこそ同情してしまう。

 恩を仇で返すという最低なことをした私と、大切な人を裏切ってしまった結々美ちゃん。

 私たちは案外 似ているのかもしれないと、複雑な気持ちになる。




 それは私が中学一年生の時の出来事だった。

 コミュニケーション能力が今よりももっと低かった私は、周囲と馴染めないままに生きていた。

 ただ淡々と学校に通っているそんなある日、私はクラスメイトの男の子から告白された。


 もちろん私はお兄ちゃん一筋だし、私にとって数少ない友達が想いを寄せている人ということもあって、その告白は断った。

 でもそれが、いじめの発端となるのはすぐに知ることであった。


 その翌日に登校したとき、その男の子のことを好きな友達が中心となって、数人の女の子たちを連れ立ってきた。

 曰く、昨日私が告白してきた彼を振ったことを知り、どうして受け入れなかったのかということらしい。

 当然だけど私は好きではない人と付き合うなんて考えられなかったし、なによりその男の子の事が好きな人を尊重しようと思ったからだ。

 だけど、彼女は私が彼を振ったことが気に入らなかったらしく " 私の好きな人を横取りした上 振るというのは嫌味なのか " と怒られた。


 それから私への小さなイジメが始まり、辛い日々が続いた。

 ただでさえ仲の良い人が少なかった私はすぐに孤立してしまい、ただ隅で縮こまる日々。そんな私に気が付いて寄り添ってくれたのはお兄ちゃんたちだけだった。


 私の大好きなお兄ちゃんと、その恋人の結々美ちゃん、そしてそんな二人を見守る和雪さん。

 学校の中でも有名な三人で、私とは格の違う存在なのだけれど、それを繋いでいたのはお兄ちゃんとの血の繋がりだった。


 男女問わずに人を惹き寄せるお兄ちゃん、その人気の所以(ゆえん)は相手に寄り添うことの上手さだろう。

 見た目も良くて優しくて、勉強も運動もできるお兄ちゃん。そんなお兄ちゃんはイジメが始まって一週間と経たないうちに私の様子に気が付いた。


『瑞稀、何かあったのか?調子が悪そうだけど…』


 学校から帰ってきたお兄ちゃんが、私の傍に来てそっと背中を撫でながら言った。気付かれないようにしていたのに、いつ分かったのだろうかと驚く反面嬉しくもあった。

 その時はお兄ちゃんに抱き着いて、ちょっと調子が悪いだけと言って誤魔化したけど、それで簡単に納得する人ではなかった。


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