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感情という錘  作者: 隆頭
第四章 胸の痛み

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百二話 あれから数日

 麻沼(あさぬま)と話して数日が経過した。

 相変わらず(かえで)とは付き合っていないままでいるものの、以前とはそう変わらない関係になったと思う。

 もちろん、手を繋いだりハグをしたり、ましてや身体を重ねることなどはないが、それでも互いに信頼し合った関係であることは間違いない。

 恋仲でなくとも支え合うという、彼女のおかけではあるものの素晴らしい関係を築けている。


 では美白(みしろ)さんはどうなのかというと、ずっと疎遠になったままだ。(かえで)も彼女に対し相当怒っているのか、話題に上げようとしない。

 美白(みしろ)さんはあれだけ麻沼(あさぬま)のことを嫌がっていたというのに、今になって仲良くしているんだろう?そのちくはぐな行動に理解が追い付かない。

 もしかしたら、彼女なりに反省をしていたがゆえに落ち込んでいて、そこに麻沼(あさぬま)が表れたから頼ってしまったということかもしれない。


 もちろんその結果に至るまでには、美白(みしろ)さんしか分からないなにかがあったのだろうが、俺や(かえで)にそれを知る由はない。

 あれから美白(みしろ)さんと麻沼(あさぬま)の関係がどれだけ進んだのかは知らないが、かなり複雑な気持ちだ。麻沼(あさぬま)を応援したい気持ちはあるものの、美白(みしろ)さんの行動には納得できないことも多く、手放しでは喜べないのが現状だ。


 可愛さ余ってというわけじゃないが、やはりそれなりに仲良くしていた相手にキツく言われた後では、不快感を抱かざるを得ない。

 思い返すのはやはり、瑞稀(みずき)結々美(結々美)の時のことだ。片や大切な妹で、片や恋人。そんな相手にいきなり突き放すような真似をされたときは、強いショックを抱いた。美白(みしろ)さんも、ほとんど同じ状況と言って良い。


 恋人の姉で、更にだいぶ仲良くしていたその矢先にあったことなのだ。俺も麻沼(あさぬま)と仲良くしていたのは軽率だったのかもしれないが、それならせめて一言でも尋ねてくれれば、素直に答えたのだ。

 その機会を棒に振ったのは他ならぬ美白(みしろ)さんで、その非は彼女にもあるだろう。もちろん察せなかった俺も悪い。


 だとしても、それを盾に好き勝手して良いのかと言われると、素直に頷けないのが人間だ。もちろん好き勝手にしたところで、それを咎めることはできても止めることは不可能だ。

 大事なのは、それによって起きる不和や関係の歪みというのは、好き勝手にした本人が受け入れねばならないということ。


 例え怒られたとしても嫌われたとしても、自分の選択によってたどり着いた結果なのだ。それが嫌だというのなら、美白(みしろ)さんには反省してもらうしかない。そして、同じ結果にならないようにこれから改めるしかないのだ。

 それは俺も、例外ではない。



 ──────────



 まさか、ここまで自分の姉に軽蔑する時が来るとは思わなかった。多少なりとも変なところはある人だったけど、それでも根は真面目で、将来に向けて努力してい姿には尊敬さえしていたほどだ。


 それなのに、(しずく)くんを理不尽に傷付けて、不本意ながら別れる羽目になってしまった。当然納得はできないし、かといって彼の意思を無視はしたくない。

 それに、まだまだ傍にいたいと思う私の気持ちを、彼はまだ尊重してくれているのだ。触れ合うことはできなくても、付き合う以前の関係には戻れている。


 変な人たちが近付かないように、そしていつかもう一度、(しずく)くんの恋人になれるように彼の傍にずっといるのだけれど、ふとしたときに抱き締めたくなる。

 それを拒絶するような人じゃないことは良く理解しているけど、かといって甘える訳にはいかない。


 席替えで離れてしまった(しずく)くんをチラリと見ると、彼は頬杖をついて窓の外を眺めていた。そんな彼を尻目に私は教室を出て、御手洗いに向かう。

 用を済ませて教室に戻ると、その途中で麻沼(あさぬま)先輩に会った。


「あ、ども。米倉(よねくら)さん」


「はい、どうも」


 麻沼(あさぬま)先輩と軽い挨拶を交わし、教室に入ろうとしたところで彼から呼び止められた。


「ごめん、ちょっといいかな。寺川(てらかわ)くんのことなんだけどさ」


「え、はい……」


 麻沼(あさぬま)はチラリと周囲を見て、人が離れていることを確認すると、小さな声で話しかけてくる。


「彼、なにかあったのかい?」


 たったそれだけの言葉だけど、その意味はなんとなく分かった。(しずく)くんから、私たちが別れたことを麻沼(あさぬま)先輩に伝えたと聞いた。

 つまり、私たちが別れた理由を聞いたのだと理解できる。


「なにかもなにも、(しずく)くんはうちの姉に散々罵倒されて、深く傷付いたんです。だから自信なくしちゃって、別れちゃいました」


 それは正直な話だった。それを聞いた麻沼(あさぬま)先輩は、すぅっと目を鋭くした。


「その話、詳しく聞かせてもらえるかい?」


「今はあれなんで、お昼でも良いですか?」


「分かった。もし良ければ寺川(てらかわ)くんも連れてきてくれ」


 麻沼(あさぬま)先輩はそう言って、教室に戻っていった。だから私は、(しずく)くんがお姉ちゃんに言われたことを話すつもりだ。

 包み隠さず正直に。

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