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感情という錘  作者: 隆頭
第一章 幼馴染
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十話 妹は知る

 それは昨日の夕方……学校が終わった後の時間に起きた出来事だった。


 家に帰ってきてゆっくりしていると、結々ゆゆみちゃんがやってきて、何やら憔悴してた様子でお兄ちゃんの居場所を聞いてきた。

 その時はお兄ちゃんは帰ってきてなくて、結々美ちゃんにそう答えたのだけれど、しばらくしてお兄ちゃんが帰宅して、また彼女が訪ねてきた。


 二人の話に聞き耳を立てるのは悪いと思って、できるだけ意識を向けないようにしたのだけど どうしても結々美ちゃんの声が聞こえてくる。

 内容までは分からないけど、それでも穏やかな雰囲気ではないことは、火を見るより明らかだった。


 ひとしきり話をした後は、随分と顔色を悪くしたお兄ちゃんが部屋に戻っていった。あまりにも緊張しきったその雰囲気に気圧されて、声をかけることすら憚られた。

 そもそもお兄ちゃんから嫌われている私は、何が起きたのかを聞く権利はない。

 数日前にも、学校から帰ってきたお兄ちゃんが涙を流していたけど、何も教えてはもらえなかった。



 お兄ちゃんの妹である私、寺川 瑞稀みずきは二人の間になにか起きたのか知らない。

 だから今日、結々美ちゃんに連絡をとって二人で話そうと、彼女の家に向かった。


 結々美ちゃんの家に着いた私は、その旨をメッセージアプリで伝えようとした……ところで、家の扉が開いて中から結々美ちゃんが出てきた。


「あっ、待たせちゃったかな?」


「ううん、今来たところだよ」


 出迎えに来てくれた結々美ちゃんだけれど、昨日の出来事が関係しているのか、元気がないどころか少しやつれているようにも見える。

 もちろん外見では分からないけど、纏う雰囲気からそう感じたのだ。


 今の結々美ちゃんの家には両親がいないそうで、そのまま家のリビングに案内された。お兄ちゃんの事で話をするために、過去に何回か見た間取りだ。

 向かい合ってテーブルを挟むように二人で座って、私からお兄ちゃんたちの間に何かあったのか

を尋ねてみた。


「昨日のこともそうだけど、お兄ちゃんと何があったの?」


 私はそこまでコミュニケーション能力が高いわけじゃない。だから変な前置きはせずに、単刀直入にそう行ってみると、結々美ちゃんがぴくりと肩を震わせる。

 ほんの僅かに余裕があった表情も、メッキが剥がれるようにみるみるうちに暗いものになった。


 今までも多少揉めることはあったけど、ここまで深刻な様子になることはなかった。

 その様子に感化され、私も強く緊張してくると同時に、何があったのかすごく気になってしまう。


 暫くの間俯いていた結々美ちゃんが、ふと顔を上げてこちらを見るものの、何を言うでもなくただ下唇を噛んで、酷く辛そうな表情をした。まるで後悔をしているように見える。


「私ね……自分からしずくのことを振っちゃったの。好きでもない人に乗り換えて、雫の気持ちを踏み躙ったんだ」


 目線を合わせずに語るその姿は、まるで独り言をしているようだった。しかしその内容は、私にとって衝撃的な話で、そうであればお兄ちゃんが泣いていたのも納得だ。

 その話が嘘でないことは、結々美ちゃんの様子を見れば明らかだ。彼女のしたことがそれだけお兄ちゃんを傷付けたということになる。


 あれだけ両想いであったというのに、どうして結々美ちゃんが好きでもない人に乗り換えてしまったのかが分からない。


「こんなこと、言い訳にもならないことだけど、ずっと不安だったんだ。雫が私のことを好きなのかって」


「それは……」


 それは間違いない、絶対に。いや、正確には間違いな " かった " と言うべきだろう。

 内緒の話だけど、私はたまにお兄ちゃんの部屋に勝手に入ることがある。大好きなお兄ちゃんを、どうしてもその身で感じたいから。


 その時にその部屋を見れば、結々美ちゃんとの思い出の写真や、彼女から貰ったプレゼントが大切そうに飾ってあるというのがやけに印象的だった。決して古い記憶ではないし、もしかしたら今でも部屋に置いてありそうだけど……話を聞いた今少し怖い気持ちもある。


 お兄ちゃんとは最低限のこと以外で話すことはないから、本人の口から直接聞いたわけでは無いけど、好きだったことは間違いないんだ。

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