愛の力、覚醒!
「さくら様は、ここで終わりですわ」
冷たい声とともに、大地が裂けるような轟音が響いた。空を割るように飛来したのは、黒い翼をもつ女――魔王軍幹部の一人、〈血の魔公女・リリステラ〉だった。
「みんな、下がって!」
レオンの号令とともに、七星騎士団がさくらを囲むように前に出る。
「さくら様は渡さない。何があっても、守ると決めたんだ」
剣を構えるレオン。その背中は、何度見ても大きくて、温かい。
「ふふふ……甘いですわ。その守りたいという感情こそが、彼女の魔力を引き出す。すなわち――我が主の封印を解く鍵!」
リリステラが魔杖を振ると、無数の黒い刃が空中に現れる。
「来るぞッ!」
「全員、陣形通りに動け!」
ユリウスとカイルの怒号。だが、次の瞬間、黒い刃が一斉に降り注いだ。
――ズガァァァン!!!
「っ……レオン!?」
最前列にいたレオンが、吹き飛ばされた。地に伏した彼の身体から血が滲んでいる。
「さくら、逃げ――ぐっ……!」
さらに追撃を受けたレオンを見て、胸の奥が燃えるように熱くなった。
「やめて!やめてぇぇぇ!!」
その瞬間、眩い光がさくらの体から溢れた。
「こ、これは……!」
騎士たちが見守る中、彼女の背後に純白の光が渦を巻き、やがて光の剣――愛の聖剣がその手に現れる。
「……これは……私が……?」
剣を握る手が震えている。でも、不思議と怖くない。
「お前たちが、くれた想いが……力になってる」
セスが、ニッと笑う。
「行け、さくら。俺たちは、信じてるから」
「絶対、帰ってこいよ!」
ディランの言葉に背中を押され、さくらは前に進んだ。
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「へぇ、聖剣ですって? 面白い……!」
リリステラが黒い槍を構える。空中で激突する二人の魔力が、空気を震わせる。
「みんなの気持ち、返してあげる!」
剣を振る。光が弧を描き、黒い槍と激突。リリステラの表情が初めて歪んだ。
「なんなのよ、その力は……!」
「これが、愛の力――!」
さくらが全力で叫ぶと、剣が輝きを増し、リリステラの攻撃を打ち砕いた。
「う、嘘……ありえない……!」
爆光とともに、リリステラは、空へ吹き飛ばされていった。
戦場に静寂が戻る。
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「……さくら!」
駆け寄るレオン。その顔には、驚きと、誇りと、少しの照れが混じっていた。
「……すごかったな、団長」
「ほんと、まさか本気で覚醒するとは!」
「やっぱ、愛の力って最強なんじゃね?」
カイルとセスがニヤニヤしながら笑う。
「でも、最後の光……あれは一体……」
ユリウスが不安げに呟く。
さくらは、静かに首を振った。
「分からない。でも――皆が好きって言ってくれたから、私は……応えたかっただけ」
「……!」
その言葉に、皆の顔が一斉に赤くなる。
「おい……今さらそんな破壊力のあるセリフを……!」
「心臓に悪いっての……!」
それでも誰も否定しなかった。ただ、さくらの帰りを迎えたことが、何より嬉しかったのだ。
「おかえり、さくら」
レオンが、そっと呟くように言った。
「……ただいま」
さくらの目に、ひとしずくの涙が浮かんだ。