騎士団、全員イケメン問題
異世界転移二日目。
朝起きたわたしの第一声は、これだった。
「……夢じゃ、なかったんだね……」
昨日、図書室から謎の本で異世界に飛ばされて、気がつけば聖女として騎士団の団長に任命され、個性豊かなイケメンたちに囲まれていた。
これ、普通の女子高生ならパニックで倒れてる案件じゃない?
——にもかかわらず、わたしはなぜか割と元気だった。
「順応性高いのかな……わたし」
軽く自己嫌悪しながら制服(というか、騎士団仕様の薄いピンク色のローブ)に着替え、重い扉を開けると、そこには。
「おはよう、さくら。今日も可愛いな」
「だっ……!?」
扉の向こうに立っていたのは、セス。昨日も軽いノリで話しかけてきた、例のチャラ系イケメンである。
「ちょうど朝食に誘おうと思ってたところなんだよね〜。一緒にどう?」
「い、いま起きたばっかで……! 顔も洗ってないし!」
「じゃ、洗顔のお水持ってくるよ? 髪もとかしてあげようか」
「えええ!? な、なんでそんなメイドさんみたいなことを!?」
「団長様のお世話は、当然でしょ?」
ウインクするセスに、なぜか心臓がドクンと鳴る。
あかん。この人、絶対女慣れしてるやつだ……!
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なんとか逃げ出して食堂に向かうと、そこにもまた、騎士たちがいた。
「おはようございます、団長」
「……あ、ユリウスさん」
銀髪の副団長。端正な顔立ち、整った礼儀作法、そして鋭い眼差し。あいかわらず、歩く王子様って感じだった。
「本日の予定ですが、午前中は騎士団の訓練を見学していただきます。その後は陛下へのご挨拶、そして夕刻からは戦術会議が予定されています」
「え、ええっ!? 会議って……わたし、何話せば……」
「何も。そこにいていただければ結構です。団長がそこにいることが、皆の士気に繋がるのですから」
「え、そ、そんな……」
顔が熱くなる。なんかもう、いろいろ重い。
でも。
「……あなたがいてくれると、皆が救われるのです」
真顔でそう言われると、ちょっとドキッとしちゃうじゃんか……!
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その後、騎士団の訓練場に連れて行かれたわたしは、ついに「全メンバー勢揃い」の場面に遭遇する。
——改めて言おう。全員、イケメンである。
金髪で熱血漢なレオンは剣を振るう姿が様になってるし、
読書家でちょっと眼鏡フェチくすぐるライルは、風魔法の集中練習中。
長身無口なディランは、斧を一撃で的に突き刺して、さりげなく「力自慢」をアピール。
双子のノエルとルカは、弓の競射で華麗な連携を見せていた。
そんな彼らが、訓練の合間合間に、ちょいちょいわたしに話しかけてくる。
「団長、剣術に興味は?」
「お手製のサンドイッチ、良かったら……」
「この花、団長の髪色に似てたから……」
「ちょ、ちょっと皆、近い近い近い!」
なにこの異世界逆ハーレム! 乙女ゲームのイベント画面か!?
しかも、ただの好意じゃない。なんとなく感じるんだけど——
「え? これ、全員、わたしに好意ある感じ?」
目の錯覚じゃないよね……?
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午後。王宮での挨拶も終え、わたしは騎士団本部の中庭でぼんやりしていた。
「ちょっとくらい、平和に過ごしたい……」
日向の芝生に座り、空を見上げる。
もうすぐ三日目。異世界の空にも少し慣れてきた。けど、心のどこかではまだ「帰れるかもしれない」という希望を捨てきれずにいる。
「はぁ……」
ため息とともに、少し横になると——
「団長。こんなところで寝転がると、風邪をひきますよ」
「ひゃっ……! ユリウスさん!?」
静かに現れた副団長は、そっとわたしの肩に上着をかけてくれた。
「団長は、もっと自分を大切にするべきです」
その声が優しくて、思わず胸がきゅんと鳴る。
でも、次の瞬間——
「聖女様を甘やかすなよ、ユリウス!」
「……レオン?」
そこには、少しむくれた様子のレオンが立っていた。
「団長は俺が守るんだ。副団長の出る幕じゃない」
「何を言っている。私は当然のことをしたまで」
「当然って、お前——!」
言い合いを始める二人。
「ちょ、ちょっと待って、ケンカしないで! っていうか、わたしのために揉めないで!」
——なにこれ、恋愛バトル始まってるの?
さすがに目眩がした。しかもこの後、セスも割り込んできて、
「ねえねえ、俺のことも入れてよ。団長に一番似合うのは、俺だと思うんだけどな〜」
と、輪をかき乱す。
最終的に、わたしは全力で叫んだ。
「もう! 少しは平和に暮らさせてえええええっ!!」
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夜、部屋に戻ると、布団の上に小さな紙袋が置かれていた。
中には、手作りのクッキーと、短い手紙。
『今日はお疲れ様。また明日も、団長の笑顔が見られますように。 —カイル』
不愛想そうに見えて、実は一番気遣ってくれるタイプ……か。
そっとクッキーを口にすると、ほのかな甘さが広がった。
「……まんざらでもない、かも」
異世界生活は、まだ始まったばかり。
そして、騎士たちとのラブコメも——