さよなら、そして…
空が――裂けた。
世界の果て、漆黒の魔王城の上空で、眩い光と闇が衝突する。
「みんな、無事……!?」
さくらは、震える足で立ち上がった。
七星騎士団。皆がボロボロの体で立ち尽くしていた。ディランは腕を負傷し、セスは息が荒い。ユリウスもレオンも、全身傷だらけだ。それでも、誰も退かない。
「……っ、聖女よ……なぜ、貴様のような小娘が……!」
魔王の呻き声が、崩れゆく玉座の奥から響いてきた。
「さくら……行け! 最後の封印を!」
ゼノの叫びに、さくらは頷いた。
その手に――再び、「愛の聖剣」が輝く。
皆の想いを受けて生まれた、その剣は、今こそ真の光を宿していた。
「私は、みんなと出会って強くなれた」
「この世界が、誰かを想うことで変わるなら……私は、この剣で――希望をつなぐ!」
剣を振り下ろす。
白銀の光が闇を裂き、魔王の咆哮をかき消した。
その瞬間、魔王の魔力は崩れ落ち、黒の霧は嘘のように晴れていった。
勝った――
しかし、その勝利の代償は、大きすぎた。
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「聖女様、急いでください! 封印が完全に閉じる前に!」
王国の賢者が叫ぶ。
崩壊しかけた魔王城の奥で、さくらだけが、異世界の魔法陣の中央にいた。
「封印には、あなたの本来の世界への帰還が必要です……この世界に残れば、封印は完成しません」
「……じゃあ、私が帰れば、もう二度と、みんなには……」
「……そうです」
涙が、こぼれた。
さくらの目の前に、騎士団の面々が駆けつけてきた。
「冗談だよな……こんなの……」
「さくら、帰っちゃうのか?」
「俺は……まだ、好きだって伝えたばっかりなのに!」
皆の声が、胸を締めつける。
「ねぇ……本当に、行かなきゃダメなの?」
さくらは、魔法陣の光の中で問う。
すると――レオンが、前に出て、言った。
「帰れ……お前には、帰るべき場所がある」
「レオン……」
「辛いけどさ、だからって、お前に犠牲になってほしくない」
「俺たちは、ここで生きていく。でもお前は――自分の世界で、自分らしく笑ってくれ」
ユリウスが続けた。
「……さようならとは言わない。またどこかで会えると信じてるから」
セスも、涙をこらえながら笑った。
「今度会う時は、絶対に世界の壁も料理も超えてみせるよ」
カイルは必死に泣くのをこらえ、
「俺……いつか、絶対会いに行きますからね! 団長っ!」
ディランは小さく呟いた。
「俺たち、君に出会えてよかったよ……」
そして、ゼノが一歩前へ。
「誇り高き聖女よ。お前が教えてくれたもの――信じる心と、愛の強さを忘れない」
さくらは、一人ひとりを見つめ、胸の奥に焼きつけた。
「……みんな、大好き」
そう言って、笑った。
魔法陣が強く輝く。
光に包まれながら、さくらは最後に小さく呟いた。
「ありがとう。さようなら、私の騎士団――」
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――そして、図書室。
机に突っ伏していたさくらが、ゆっくりと目を覚ました。
「……あれ? ここ学校?」
窓の外から、聞きなれたチャイムが聞こえる。
夢だったのかと疑いたくなるほど、当たり前の風景。
だが、さくらの目から、涙が止めどなく流れた。
(みんな……本当に、ありがとう)
ふと、手に違和感を感じて見下ろすと――
手首に、小さな銀のブレスレットが光っていた。
見覚えがある。
あの世界で、レオンが最後に握らせてくれたものと同じ。
「……ふふっ、また会えるよね」
さくらは、涙の中で微笑んだ。
窓の外には、いつもの青空が広がっていた。
彼女の新しい物語は、ここから再び始まる――