最終決戦前夜と告白
王都フェルヴァリアの空は、不穏な紅に染まっていた。
魔王城へと続く黒の霧は、すでに城下町の端にまで迫りつつある。
明日は、最終決戦。
七星騎士団とさくらが力を合わせて、この世界の運命を決する時が来る。
だというのに――
「……眠れないや」
さくらは、天蓋付きのベッドからそっと抜け出し、バルコニーに出た。
夜風が、髪を優しく揺らす。見上げた空には、満月が静かに輝いていた。
「……明日、勝てるよね」
不安を紛らわせるように呟いたその時。
「さくら」
静かな声とともに、背後から足音。
振り返ると、そこにいたのは――レオン。
「やっぱり起きてたか。お前が寝る前に悩みごとするの、もう分かってるつもりだ」
「へぇ、いつからそんなに私のこと観察してたの?」
「いつからって……最初からかもな」
不器用に笑うレオン。その瞳はまっすぐだった。
「俺は、お前のことが好きだ」
一拍の間。
風が、音をさらっていく。
「レオン……」
「明日、もし俺が……」
「言わないでっ!」
さくらが、レオンの胸に飛び込む。
「絶対、無事に帰ってきて。それで……また、ちゃんと話そう?」
「ああ。約束だ」
レオンの腕が、そっとさくらを抱きしめた。
====
それから――
夜は、静かに進む。
一人、また一人と騎士たちがさくらの元を訪れた。
◆ユリウス◆
「君のことを想うと、心がざわつく。きっとこれが、恋というやつなんだろう」
「……でも、今は答えを求めない。ただ、戦いが終わるまで、君のそばにいたい」
◆セス◆
「……明日、死んだら困るんだ。まだ一緒に、作りたい料理があるから」
「それに、俺――さくらが好きだから」
◆カイル◆
「なんかさ、言っとかなきゃって思って……」
「俺、団長のこと、女の子として好きです」
「戦いが終わったら、デートしてくださいっ!」
◆ディラン◆
「この想い、ずっと胸にしまってきたけど……」
「やっぱり言うよ。俺も、さくらが好きだ」
皆が、それぞれの想いを伝えていく。
さくらの胸は、温かさと切なさでいっぱいになっていた。
(こんなにも……想ってくれる人がいる。私は、どうしたら――)
夜が更ける。
最後に訪れたのは、ゼノ。
◆ゼノ◆
「迷っているのか?」
「……うん。みんな大切で、選べない。そんなのずるいよね」
「いや、それでいい。明日、何が起きるか分からん。ならば、今は全てを受け止めて、前に進め」
「ゼノ元団長……」
「名はもう要らん。俺は一人の男として、伝えたい――お前が、好きだ」
静かに、でも確かな言葉が胸に響いた。
「……ありがとう」
さくらの目に、涙が滲む。
(明日、全部が終わったら。私は――)
「その時まで、皆で生き延びよう」
「うん……!」
そして、朝が来る。
七星騎士団と伝説の聖女は、運命の戦場へと歩み出す。




