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異世界転移、そして騎士団長!?

「ちょっと、嘘でしょ……」


わたし——天野さくら、17歳。ごく普通の高校二年生。恋愛経験ゼロ、趣味は読書とコンビニスイーツの新作チェック。そんなわたしが、今、金と白の荘厳な天井を見上げて呆然としている。


きっかけは、放課後の図書室だった。


誰もいない古書コーナー。なぜか惹かれるように手を伸ばしたその一冊の本は、表紙に古代文字のようなものが刻まれていた。ページをめくると、唐突に光があふれ——気づいた時には、ここにいた。


「……よくぞ目覚められました、聖女さま!」


そう叫んだのは、銀髪のイケメン騎士。瞳は澄んだ青、立ち姿も完璧。え、何これ、乙女ゲーム?


「えっ……?」


「貴女こそ、フェルヴァリア王国に伝わる伝説の聖女にして、七星騎士団を率いる唯一の存在。我が王国を救う、選ばれし者なのです!」


な、何言ってるのこの人。


でも、目の前の状況が夢でも幻でもないのは、肌寒い石造りの床の感触が証明していた。わたしは白いワンピースのような服に着替えさせられていて、周囲には見たこともない異国風の装飾が並んでいる。しかも目の前のイケメン、まばたき一つせずに真剣だ。


「えっと……その……わたし、ただの高校生なんですけど」


「いえ、貴女は選ばれたのです。この国を救う、奇跡の聖女として!」


——この時のわたしは、まだ知らなかった。


このあと待ち受ける騎士団とのドタバタラブコメ生活と、自分の中に眠る力のことを。


====


王宮に案内されて数時間後、状況はさらに意味不明な方向へ転がっていった。


「聖女さまには、七星騎士団の団長をお務めいただきます」


「ちょ、ちょっと待って!?」


真紅の絨毯の上、国王らしき威厳あるおじさまの言葉に、わたしは勢いよく立ち上がった。いやいやいや、何その展開!


「団長って……そもそも、騎士でもないし、剣なんて握ったこともないし、体育の持久走ですら最下位常連ですよ!?」


「ですが、聖女さまには、民を導く力がございます。騎士団の象徴として、そして心の支柱として、貴女が必要なのです」


国王がしみじみと語る。でも、必要って言われても!


「安心なされ。実務は副団長の私が取り仕切ります。貴女には、騎士たちと心を通わせていただければ」


隣でさらりと言ったのは、先ほどの銀髪騎士。名前はユリウス。騎士団副団長で、冷静沈着なタイプらしい。


「は、はぁ……」


わたしの困惑をよそに、その場は拍手で包まれ、あれよあれよという間に、団長就任が決定してしまった。


後に知ることになるけど、ここフェルヴァリア王国では「聖女は七星騎士団を率いる」という伝承が古くからあるらしい。その聖女の証が、わたしの肩に現れた星型の紋章だった。


いや、なんでそんなのあるの……?


====


翌日。わたしは騎士団の本部で、七星騎士団のメンバーと対面することになった。


「ようこそ、聖女さま。俺はレオン。騎士団の剣技担当だ」


金髪の熱血青年。ちょっと不器用だけど、まっすぐな瞳が印象的。体育会系で、声がでかい。


「セスです〜。主に調理係兼、医療班。よろしくね、さくらちゃん」


茶髪にピアス、ちょっとチャラめのイケメン。軽そうに見えて、やたら距離が近い。


「カイル。戦術担当。まあ……君が団長でも、問題はないさ」


黒髪のクール系男子。皮肉屋だけど、実は面倒見がいいらしい。


他にも、長身で無口なディラン、読書家のライル、双子の弓使いノエル&ルカなどなど、総勢七名——全員が何かしらの属性を持つ、イケメンぞろいだった。


「ちょ、ちょっと待ってください、皆さん……」


目の前の光景に、頭がくらくらする。


まるで乙女ゲームの攻略対象がずらりと並んでいるような状態。しかも、全員が好意的な眼差しを向けてきて——


「俺が全力でサポートする」


「困ったことがあれば、なんでも頼ってね」


「……俺の部屋、案内しようか?」


なにそれ、なにそのフラグ建築ラッシュ!


「ど、どうしてこうなったあああああ!」


叫びが響いた団本部の天井は、今日も高かった。


====


その晩、わたしは一人、自室のベッドで天井を見つめていた。


「異世界って、想像してたよりも全然落ち着かない……」


勇者に覚醒するでもなく、突然騎士団長にされ、イケメンたちに囲まれ——


「むしろ恋愛シミュレーションゲームのヒロイン?」


そう思ったら、ちょっとだけ、頬が熱くなった。


わたしは、元の世界に帰れるのかな。


そもそも、本当に聖女なんて役目を果たせるんだろうか。


でも——


「もう、ここに来ちゃったんだもんね」


ぽつりと呟いて、目を閉じる。


今はまだ、何も分からない。でも、この世界にいるからには、逃げたくない。


そう思ったのは、騎士たちのまっすぐな眼差しが、どこか懐かしくて、少しだけ温かかったからかもしれない。


こうして、わたしの異世界生活が始まった。


騎士団長として——そして、たぶん恋する乙女としても。


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