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魔法少女 ノーブル・リリィ 短編集  作者: 散桜


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16/16

『「最悪」の魔法』

「ね、夏樹ちゃん」

「ん?」

「魔法少女同士の戦い・・とか、になる、場合、も、やっぱり、ある、ん、だよね・・?」

「・・」


夏樹が「どうして、そんなことを?」と言いたげな顔で裕子を見る。


「ほら、これから会いに行く子のこと、話したでしょ?私達は戦わずに済んだけど、やっぱり、戦いになっちゃう場合もあるのかなー・・って思って」



今、裕子と夏樹は端愛(はまな)市内を循環している市営バスに乗っていた。

裕子の紹介で、魔法少女【ディスガイス・リリィ】こと三枝(さえぐさ)克奈(かな)に会いに行く途中なのだった。


裕子と克奈がレインでやり取りし、端愛市内南部にある端成(はたなり)城跡公園で会うことになったのだ。


端成(はたなり)城は、端愛市の前身である端成(はたなり)郡の頃に県令役所が置かれていた場所で、城跡と名が付いてはいるが、『城』と言える場所が実在していたのは安土桃山時代頃までだ。

その頃の城主は、傭兵の様に、あっちに付いたかと思えば、次はこっち、と、短期間に入れ替わり激しく雇用主を替えていたそうで、

それを疎ましく思っていたらしい近隣の武将に攻め滅ぼされてしまったらしい。


現在は、元天守の石垣跡の近くに元県令役所が市の有形文化財として残っているだけだ。


工業都市としては市の規模が小さく、誘致に乗る大企業がある訳もない端愛(はまな)市は、

逆に歴史的な史跡が充実している訳でもなく、むしろ あまり残っていないくらいだ。


端成(はたなり)城跡公園は端愛市にとって、数少ない大きめな観光地のひとつであり、端愛駅周辺についで飲食店が近隣に集まっている場所だったりする。

店に入るも良し、テイクアウトして食べ歩きも良しの場所として、今回の顔合わせの場に選ばれた訳だ。



「・・・場合による、としか言えないかも」

「夏樹ちゃんは魔法少女同士の戦いの経験って・・?」

「・・あるよ」


夏樹が僅かに眉間に皺を寄せて、少し低い声で答えた。


「・・あれは最悪だった」

「・・・そっかー・・」


何があったのか聞いてみたいけど聞けない、そんな雰囲気があり、裕子は聞かずに終わらせようと思っ


「まさか、あんな魔法使ってくるなんて・・!」


聞くしかない。

ていうか、聞いて大丈夫なやつだ、これ。


裕子は聞いてみることにした。


「どんな魔法使われたの?」

「魔力を透明にしちゃう魔法」

「・・・?」


どうして夏樹が「忌々しいったらない!」と言わんばかりの顔をしているのか分からなかった。


「・・ぁー・・攻撃が避けにくいとか?」


考えてみれば、魔力を使った攻撃は、魔法少女ごとに違う固有魔力色のハズだ。

それが無色透明なら、避けにくいとかの問題はありそうだ。

裕子はそう思った。


「・・それも無くはないけど、そうじゃないの」

「?」

「アレは使っちゃダメ。生み出されちゃダメな魔法・・決して存在しちゃいけない魔法なの・・っ!」


夏樹にしては珍しく、ほんとうに珍しく、かなり強めの『嫌悪』という感情がハッキリと現れていた。


「・・・」


少し眉をしかめる、とかじゃなく。

「存在することが生理的にムリ!」と顔に書いてあるような気がしたくらいだ。

ここまで夏樹が嫌悪する魔法というのが むしろ気になった。


「夏樹ちゃん。それって、そんなにマズい魔法なの?」

「裕子」


すっごく圧を感じる目で見られた。


「魔法少女は基本的に変身するよね」

「・・ぅん」

「・・・」


言葉にされなくても、「どうして気付かないかな」という目なのは分かった。


「・・・変身後の魔法少女が着ているモノは、(なに)で出来てるの」

「・・・。・・・ぁ」


裕子の顔が青ざめる。


「・・まさか・・!」

「そう。魔力で出来てるモノなら、何もかも透明にしちゃう魔法なの」

「・・ウソでしょ・・?」

「最悪の魔法・・魔法が使える使えない以前に、女同士であっても、踏み越えちゃダメなラインを踏み越えてたの」

「それ使った人って、女の人だよね」

「もちろん」


当然、『魔法少女』という時点で女性だ。


「その人は?」

「効果範囲に入ってた。信じられないけど」

「ぇ?・・?・・・どういう・・?・・ぇ?」


自分が効果範囲に入っている、というコトは・・当然ながら、その人自身も『透明に』というかスケスケにされてしまう訳で。


「その魔法の効果に気付いて悲鳴をあげながら逃げる魔法少女達の ど真ん中で、すでに全裸なのに、楽しそうに笑ってたよ・・どんどん被害範囲が広がって、裸に近くなったり、裸になっちゃったりしてる人が増え続けてたのに、ほんとうに楽しくて堪らないって顔で大笑いしてたよ・・」

「・・・」


信じられない、と顔が引き攣る裕子。


「たぶん・・自分も食らう、というか自分でも防げなくするコトで、防げない魔法に出来てたんだと思う」

「・・」

「自分だけは防げる、ってコトは、そこには何かの抜け道が用意されてるんだよ。その抜け道に侵入したりして勝手に使うことは不可能じゃない。でも、最初っからどこにも抜け道が無いんじゃ、どうしようもないじゃない・・?」

「・・」


青ざめた顔の裕子のノドがコクリと鳴る。


「・・まぁ、裕子なら防げるとは思うよ」

「ぇ?」

「今の裕子でも、『隔絶』でスパンって空間の繋がりを断ち切っちゃえば良いんだよ。そうすれば、魔力が自分に届かなくなって影響を受けなく出来るから」

「そっか・・!」

「それに、たぶん、強く意思を込めるだけでも、ある程度は防げると思うんだよね・・」

「どういうこと?」

「真っ裸になっちゃう子もいたけど、よく見回せば、ブラとパンツは残ってる子もチラホラ居たし、パンツだけは意地でも残す!って感じに魔力を放出して残してる子が多かったかな・・凄かったよ、格闘アニメの主人公みたく、全身から魔力が噴き出してて」

「・・」

「あと、個人差があったのは、たぶん、魔法少女装束に対しての見方も影響してたのかもしれない」

「・・?」

「魔法少女装束は服じゃない、魔力で出来てる、服の形してるだけのモノだけど、たぶん・・ブラやパンツは残せてた子は、魔法少女装束であっても、普通のブラやパンツと同じ意識でいたんじゃないかなって思うの」

「・・なるほど」


実際、その時にその場に居た魔法少女達に現れていた差には、使われた魔法の術式に仕込まれていた悪辣な条件付けにより、本人の私生活での交際遍歴や性体験も関係していたのだが、それは置いておこう。


「・・夏樹ちゃんはどうだったの?」

「最初の攻撃の時にインナー以外透明にされちゃってね。周り見たらどんどん裸にされてたから、宿の裏側に干されてたベッドシーツに飛びついたの。1分もしないうちに、シーツの下は全部透明で見えなくされちゃってたけどね」



「そっか・・。・・?・・ね、夏樹ちゃん」

「?」

「前、魔法少女は身体が魔力で出来てるって言ったよね」


夏樹が頷く。


「じゃ、なんで着てるモノだけが透明にされちゃうの?魔法少女の身体も透明にならないとおかしくない?」

「・・たぶん、意思があるか無いかの違いだと思う」

「・・意思・・?」

「そう。意思がある魔法少女本人は影響を受けなくて、意思がない着てるモノとかは他人からの魔力の干渉の影響を受けちゃったんだと思う、たぶん」

「・・じゃ、服も・・・・ぁ、ぅぅん、何でもない」


魔法少女装束にも意思を持たせれば、と言いかけて裕子はやめた。

以前に、基本的な形状から水着に近い形状に替えてみたことがあったが、その形状を保つだけでも、気になるくらいには魔力が減っていっている感覚があった。

意思を持たせる様な術式を使ったとして、かなりの魔力を食うのは確実だろう。


それに、いきなりジャケットやパンツがしゃべりだしたら、何かイヤだ。

スカートの中から声がしたり動きがあったりなんかしたら、集中なんか出来る訳がない。


それに、最後の防壁たる下着だけは残ったとしても、その姿で平然と出来るかと聞かれたら、ムリだ。


あと・・裕子の変身するアイソレイト・リリィは、かなりの厚着だ。

着膨れし過ぎと言ってもいいくらい、多重多層構造で、下着にあたる層から一番外の層まで、20層近くもある。

それら全てが魔力のストックでもある訳で、それらに強い意思を持たせたりしたら、ストック兼 消費役になってしまい、本末転倒だろう。


アーカーシャ・リリィの場合だと、スカート内のフリルやレースのパニエが何層にもなって魔力ストックをしている。

アイソレイト・リリィが厚手の生地の多層なら、アーカーシャ・リリィは極薄の生地の多層なのだ。



魔法少女全体で見ても、スカートで空を飛ぶ魔法少女がほとんどだし、夏の大規模救助作業の時を思い起こしてみると、何人も、スカートの中が見えていた。

厳密には『パンツに酷似した形をしている魔力の固まり』だし変身と同時に作られ変身を解けば消えてなくなる存在でしかないのだけれど、深く考えない方が良い気がしてきた裕子だった。



「そういえば、その人。まさか、近くで活動してる人?」

「たぶん違うと思う」

「そっか・・」

「会ったのは伊豆の逢庭(あいば)だったから、あそこに行ける範囲内だとは思うけど・・」

「・・会わないといいなぁ・・」


裕子が苦虫を噛み潰したような顔で呟く。


「名前は分からないけど、特徴だけ教えとくね」

「うん!教えてっ!」


遮音効果と隠蔽効果の高い術式を使っているから、真後ろや前の座席に座る乗客達には、裕子と夏樹の会話はほぼ聞こえていないし、聞こえても認識や理解は出来なくなっている。

ただ、恐ろしく小声で叫びつつ夏樹を見ている様に見える裕子の姿に、斜め後ろ側の席に座って裕子と夏樹にイヤな熱のこもった視線を向けていた男子が首を傾げたくらいの影響は出ていた。



「えっと・・常にニヤニヤしてたかな・・あと、『そうだよね、ね』とか、『そうでしょ、そう』とか、『分かるよー、分かるー』とか、そんな話し方だったかな・・」

「他は?」

「たぶん高校生くらいかな・・魔法少女装束も、身体のラインが出ててセクシーな感じだったかも・・・ぁ、あと、何故か小さなロボットみたいなのが近くに常に居た」

「ロボット?」

「そう。4体、かな・・赤い鳥と、青い龍、白い虎に、黒っぽい緑色の亀・・小型犬くらいのサイズの、デフォルメされた動物型のロボットに見えた。たぶん、魔力で作られた使い魔みたいなのだと思うけど」

「ふーん・・・ぁ、精霊は?」

「・・・。一緒には居なかったかな」

「そっかー・・」


夏樹は、意識してそのことを伏せた。

周囲に居る何人もの魔法少女ほぼ全てに影響をもたらす、それがどういうことなのか。

魔法少女一人一人、魔力量や魔力パターンや障壁密度は違う。

なのに、それら全てに影響をもたらしていた。

なのに、平然としていた。

かなりの魔力を食う魔法だったハズだろうに、何でもないかのように平然としていたのだ。

基礎魔力量が桁外れに多いか、魔力ストックが桁外れに多いか、他にも色んな可能性は考えられたが、あのあと、夏樹とニャニャンが泊まっている部屋で話して出た可能性は、裕子には言えないものだろう。


契約している精霊が近くに居なくて、魔力製に見える使い魔を4体従えていた。

魔力に困窮している様子もなかった。


『精霊と共にいない魔法少女』というのは、実は、そう珍しいものでは無いのだ。

『魔法少女』という在り方の認識の多くを、TV中継や魔法少女もののアニメやドラマから得ていたらしい裕子は精霊が居なくて知識の矯正がされず、コンプレックスにすらなっているが、

夏樹はニャニャンやミィミィから聞いて知っていた。


何かが起き、精霊と死別していたり、

消滅してしまうかもしれないほどの危機に陥った魔法少女を救う為に、精霊が自らを代償に極界魔法を行使し消滅していたり、

あまりにも仲が悪くなり、精霊の方が関係を断ち切り離れていってしまっていたり、

魔法少女が精霊を殺していたり、

自らの為だけに精霊を取り込んで糧にしてしまうことすらもあるのだと。


あの悪質な魔法を嬉々として使う魔法少女なら、精霊を害して取り込み、力の源としていてもおかしくはない、と夏樹とニャニャンは話していた。


まぁ、精霊も同質な性根をしていて魔精合体をしていた、という可能性もなくはないだろうけれど・・。


『魔精合体』は、

この星から生まれた星の端末にして『力』の出入口でもある精霊と、

厳密には この星どころか次元の位階レベルで遥かに高位の『神』から『力』をわずかに与えられた魔法少女と、

水と油どころでは無いほどに性質の異なる『力』同士を、一瞬単位で掛け合わせて、起きた反発の莫大な力を制御して攻防に用いる為の高等技術だ。

戦闘に用いるには途轍もない技量を要するが、ただ合体するだけなら未熟な魔法少女にだって可能ではあった。

その場合は、合体した精霊の特徴のミミやシッポが生えた、特定ジャンルにはウケる見た目の魔法少女が合体中限定で爆誕するわけだが。



「あ。いま思いついたけど、たぶん、裕子なら、空間を切り離すまでしなくっても、すぐに完全に無効化できるようになるかも・・?」

「?」

「なにかの『魔法の術式』ってことは、魔力で出来た攻撃手段ってコトだからね。その魔力が届かない様に空間を断絶するだけじゃなくって、裕子の増え続けてる魔力で、硬い防御膜を作っちゃえば良いんだよ。硬くなくっても、柔らかくて貫通できないとか、ベタベタして進まないとか、触れた魔力は吸収して分解しちゃうとか、魔力量に物を言わせてゴリ押ししちゃえば良いんだよ」

「なるほどね・・」


裕子が うんうんと頷く。


《次は端成(はたなり)城跡公園入口〜。端成城跡公園入口〜》


「ぁ。着くね」

「だね。降りよ」

「うんっ」


バスの運転手のアナウンスが聞こえ、裕子と夏樹が頷き合う。


裕子が近くの降車ボタンを押し、少ししてバスが停まった。

裕子と夏樹が料金を払い降車していく。

バスの前側から先に降りた裕子の後に居た夏樹が、バスの後方側の席に目を向ける。

夏樹と裕子が座っていた席の少し後ろには、不自然な角度でスマホを見る中学生くらいの少年が座っていた。

スマホのメインカメラは夏樹と裕子を盗撮しているのだろう。

もっとも、10分くらい前からは、欲望にまみれた視線に気付いた夏樹が展開した幻影しか撮影されていないハズだし、今現在も2人が降りたことすら気付いていないハズだ。

そんな間抜けな、思春期の暴走気味な欲望に呑まれている少年のスマホを、夏樹が睨みつける。



「さ、約束の場所に向かお」

「ぅん」


発車したバスの車内では、とある盗撮少年のスマホ画面が突如としてブツっと暗転し、煙を噴き始めていた。

少しすれば火を噴き燃え上がるだろう。

無断で撮影された写真や動画のデータ諸共に。



市内なけなしの観光地とはいえ、客足の落ち着き過ぎている露店は、どこの店も大して待たずに購入を済ませられた。

小腹を満たせそうな軽食を口にしつつ、裕子と夏樹は約束の場所に到着していた。

裕子が見回してみた感じ、まだ克奈(かな)は来ていないようだった。

約束の時間まで、あと15分くらいだ。


克奈(かな)ちゃん来るまで、話して待ってよっか」

「そうだね」


ベンチが並んでいるが、半分くらいはカップルや親子連れで埋まっていた。

空いているベンチは、どこも日陰にあり、座面は冷えていた。

少し見回すと、ベンチとベンチの間に程よい大きさの、座れそうな、表面の磨かれた岩があった。

きっと、公園のデザイナーが何らかの意味を込めて設置したのだろう。

ちょうど ひなたにあり、触れてみると人肌くらいの温度に暖められていた。

軽く表面を払い、スカートを整えつつ座った二人は、買った軽食を置いて食べながら話し始めた。


「ここ来たの、ずいぶん久しぶりかも・・」

「私も・・」



恋人同士や家族とだけでなく、端成(はたなり)城跡公園には様々な人々が訪れる。

周辺の幼稚園の散歩コースに入っていたり、近隣の小学校の遠足の目的地になったり、中学校や高校の部活動のランニングルートに組み込まれていたりもする。


夏樹と裕子が以前に訪れたのは遠足の時だった。

ちなみに、当時、お互いを知らずにすれ違っていたりしたのだが、二人とも気付いていない。




「それでね」

「・・・ぅん」


軽食をつまみながらの話は盛り上がり、あっという間に時間は過ぎていっていた。

今は、裕子が授業中に勉強そっちのけで魔法の使い方を試していた時のコトを話していた。

マジメに授業を受けている夏樹的には、素直に感心できなかったので、苦笑いしつつ聞いていたが・・。


「いや、ソレはソレでどうよ」


「・・・・ぇ?」

「・・」


集合場所に置かれていた『ちょうど座れそうな大きさの石』に座って話していた2人。

魔法少女の話題の為、当然ながら、周りに聞かれても大丈夫なように対策している。夏樹が。

裕子は、「このくらいの声量なら聞こえないよね」くらいにしか思わず、魔法的な対処自体行っていなかった。


急に割り込んできたツッコミ声に、裕子は少し驚き、夏樹は体を強張らせた。

きっちり対策していて聞かれていないハズのことに声を挟まれたのだ。

声を挟んできたのが一般人なわけは無い。


『認識阻害』の術式の範囲を、術式の発動者の自分と裕子を包む、極々せまい範囲だけにしていた夏樹が周囲を警戒する。

同時に、夏樹が認識阻害していた範囲の魔力密度が上げられた。


「ぁー・・警戒する前にさ。二人ともさ、ちょい、座ってる岩から立って?」


裕子と夏樹がサッと立ち上がる。

裕子は「どこから声がしてるのかな」と周りを見ていたが、

夏樹は座っていた岩に警戒の目を向けていた。


「はー・・よっと」


2人が腰掛けていた岩が、まるで布を取り払うかの様にバサっと取り払われた。


「えぇっ!?ぁ、・・ぇぇ?」


悲鳴の様なビックリした声をあげてから、周りに少なからず居る人達を意識して声をひそめた裕子。

夏樹は少し恥ずかしそうな顔でスカートのお尻に手を当てた。


「やー・・驚かせてやろって思ったのに、まさか座られるとは思わないじゃん?」

克奈(かな)ちゃん、ビックリしたよっ!?」


まだ声をひそめている裕子に、【ディスガイス・リリィ】がニヤリとしながら返す。


「だいじょーぶだって。認識阻害が防いでくれてるから、アタシの魔法少女姿も、アタシら3人の声も、周りにゃ聞こえてねーって。つーか、アタシが化けてた岩に座った辺りから、周りにゃ見えなくなってたろーよ。そっちの可愛いのが ちゃんと対策してたみたいだしな」


【ディスガイス・リリィ】が夏樹を見る。


「な。そーだよな」


夏樹が無言で小さく頷く。


「魔法少女に変身してて可愛い、素顔も可愛い、ちょっとした動きも可愛い。基本可愛いとかズルくね?」

「・・・そんなこと言われても」


【ディスガイス・リリィ】の理不尽な言いがかりに夏樹がムスッとする。

自分の容姿は、幼い頃に死別した母親にとても似ているそうだ。

自分の容姿に言い掛かりをつけられるというコトは、亡くなった母親を貶められたように感じられた。


「そんなコトより!なんで、そんなところに居たの・・!?」


お尻に手を当て顔を赤くした夏樹が、強めに問いただす。


「いや、アタシもまさか座られるとは思わなかったしさ?」



お、『結界』の切れ具合からして、もうすぐそこまで来たな?

さーて・・どう驚かせてやっかな〜・・♪


ズシッ!


「ぁ?」


え?

あ?

え!?

あ、そっか、座られたのか!?

いや、何で見えんだ。

魔法少女以外には見えないくらいに『認識阻害』かけてんのに

って、あの2人かっ!?

気付かずに座った!?

いや、周りにベンチ並んでんのに、なんで吹き(さら)しの岩チョイスしてんだよっ!?

おいおいおいおいおいおい!!

話しだしてる?

何か良い匂いすんな!

何か食ってんな!?

マジか、こいつら!

待つ間に小腹満たしときましょってか?

いや、確かに集合時間まで まだ20分はあるけどさっ!

出てけねーじゃねーかっ!



「立つに立てず。話しかけられず。でも、ついツッコんじまったわ」


裕子が苦笑し、夏樹が複雑な顔をしていた。


「あ、ちょっとトイレ行ってくるわ。地面からジワジワ冷やされてさー」

「認識阻害使ったままなら、しちゃっても誰にもバレないでしょ」

「ぁん?」


夏樹がジト目で冷たく言い、【ディスガイス・リリィ】が「なに?ケンカ売ってんの?」と言わんばかりの返し方をした。

少なくとも、お互いに良い印象は皆無に見えた。


「・・・」


どうしよう、と裕子が必死になって打開策を探す。

なんとなく、良い出会いにはならないと予想してはいたが、かなり悪い印象での初対面になってしまったかもしれない。



「ぁ」


裕子が小さな声を漏らす。

もしかしたら、とても良い方法を思いついてしまったかもしれない、と裕子が内心で安堵の息を吐きながら快哉を叫ぶ。


「ぃゃー・・でも、ほんとビックリしたよー。『やせいの、まほうしょうじょが、あらわれた』って表示されてないかって思っちゃったもん〜」


裕子が両足を肩幅に広げ、中腰で微妙に揺れる動き方をした。

右手も、剣でも構えていそうなジェスチャーをして見せていた。

左手は盾でも構えていそうな感じだ。


ゲームとしてプレイしたコトのなかった夏樹や、シリーズ全クリしている【ディスガイス・リリィ】、2人とも分かるポーズだった。

有名な国民的ゲーム『ワイバーン・クエスト』シリーズのCMの定番シーンだからだった。


何種類もあるCMシリーズで、遭遇したモンスターによって『やせいの、すらいむが、あらわれた』や『やせいの、あそびにんが、あらわれて、おかねを、かしてほしそうにしている』、『やせいの、●●●●が、あらわれた』と話題の有名人が登場するバージョンもあったりもする。

ヨゴレの芸人だったり、清純派アイドルだったりもして、中々に見逃せないCMではあった。

裕子が真似したポーズは、CMに登場する勇者のポーズだった。


「いや、野生の魔法少女とか、ある意味、日本中に居んじゃん」


【ディスガイス・リリィ】がボソッと呟いたが、裕子には意味が分からなかったらしい。

「?」と可愛く首が傾げられていた。

隣に居る夏樹が「余計なことを言うな」とばかりに睨むような目を向けていたが。


「・・・ぁー、はーん・・?」


睨まれた【ディスガイス・リリィ】が察して、夏樹に呆れた様な目を向けた。


「わり。マジで漏れそだから、行ってくるわ」


【ディスガイス・リリィ】が夏樹の横を通るようにしながら、肩に触れた。


《言わないのが優しさとか思ってんの?》


夏樹には、触れられた肩から魔力伝導の声が直に届いていた。

口を動かさなくても、直に触れてナイショ話もできる、魔力で声を届かせる小技だ。

思考を即座に届けられる為、ノドを通して発声するのとは比べようもない程に早く遣り取りも可能で、瞬きの間に遣り取りは終わる。


《知らさずに恨まれてからじゃ遅いんじゃねーの?》

《・・・覚悟はしてる》


夏樹が裕子に知らせず伏せているコトは、かなり重大なコトですが、「知らずに済むなら、それに越したことはないから」伏せられています。


ニャニャンの方は、基本的に夏樹 最優先で夏樹の判断を何より優先。

それに比べたら裕子のコトは「夏樹と比べたら重要でもないし、そもそも夏樹と天秤にかける気もないから」言っていないだけです。


それぞれの その判断が、後に……裕子と夏樹を深く深く……

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