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魔法少女 ノーブル・リリィ 短編集  作者: 散桜


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14/16

『悪気は・・なかったんだよ・・?』

下校途中にコンビニで買ったお弁当と、スーパーで買った御惣菜の袋をリビングのテーブルの上に置き、裕子は窓の外を見た。


今日はクラスに転校生が来た。

短期間だけらしいけど、それでも新しい仲間だ。

席もお隣りになったわけだし、仲良く出来たらと思っている。


ただ、気になることがあった。

転校生の女の子の名前は、逢庭(あいば)ミト。


逢庭(あいば)』という苗字が裕子は とても気になった。

現在、魔法少女活動をしている裕子だが、魔法少女の手助けをしてくれる一族という人々と少なからず関わっている。

その一族が『逢庭』だ。


タイツを脱いでレギンスに替えた裕子は、ソファに座り、買ってきた夕ご飯を食べる。

スカートも履き替えた方が気楽かもしれないが、夜に夏樹と会って街の見回りに飛び出ることもあるし、尋ねて来た夏樹と9時くらいまで話したりすることもある。

気の抜けた格好で居ても夏樹がイヤミを言ったりはしないと分かっていても、夏樹が可愛いオシャレな感じなので、恥ずかしい格好は出来なかった。


「・・ごちそうさまでした」


少しお腹を撫でながら、ベランダに出た。


「ん」


近付いてくる魔力を感じる。

顔を見なくても分かるくらいに慣れ親しんだ魔力の感覚に、誰なのか分かった。

夏樹だ。


何故か、夏樹の通う山上(やまがみ)小学生の方向からではなく、裕子の通う平原(ひらはら)小学生の方向から近付いて来る。

もしかしたら、行き違いになってしまったのかもしれない。

これはお迎えしなければ。

ベランダで待つ裕子の視界に、だんだんと近付いてくる姿が見えた。

飛んで来たアーカーシャ・リリィが、ベランダの前で滑らかな挙動で停止する。

強風に揺れるミニスカートもしっかりと押さえられていて、同じ女子の裕子が見ても絵になる姿だった。


「裕子、こんにちは」

「うんっ♪アーシャちゃん、こんにちはっ♪」

「裕子、入っても大丈夫?」

「うん♪入って入って♪」

「お邪魔します」


ベランダの外から滑らかな飛行でベランダに入って来たアーカーシャ・リリィが、室内に踏み込む。

床に足が着く前に、アーカーシャ・リリィの魔法少女装束のハーフブーツが光の粒子に変わり消える。


「アーシャちゃん、ジュース飲む?」

「・・ぅん、ありがとう」


楽しそうにキッチンに向かう裕子の後ろ姿を見送りながら、アーカーシャ・リリィがソファに座る。


「お待たせっ♪」

「ありがとう」


ジュースの注がれたガラスコップが2つ、テーブルの上に置かれた。


「今日はニャニャン居ないんだね」

「ぅん。用事」

「そっか。アーシャちゃん、美味しいから飲んでみて♪」

「ぅん。いただきます」


コクリコクリと、アーカーシャ・リリィの細いノドが動く。


「・・美味しい」

「でしょっ♪このアップルジュース、最近ハマってるんだ〜・・♪」

「・・裕子、これ、お土産」


空間収納を開けたアーカーシャ・リリィが、少し大きめの白い紙箱を出してテーブルに置いた。


「ウチの近所に出来たスイーツショップで人気なんだって」

「わ・・ありがとうっ♪」


少し大きめの紙箱を開いた裕子は、中に入っていた10種のカットケーキを見て驚く。


「こんなにいっぱい・・良いの?」

「ぅん。食べて」

「ありがとう。あ、アーシャちゃん、ちょっと待っててねっ」


裕子がソファから立ち上がって自室に入っていく。

部屋に入った裕子は、クローゼットを開けて、クローゼットの中の、ピッタリ収まるサイズの小型冷蔵庫を開けた。


この小型冷蔵庫は、加茂鴨(かもがも)ちゃんの性別が変わる事態で逢庭(あいば)の人達が用意してくれたアリバイに魔法少女として名前を貸す契約で逢庭の人がくれた契約金というお金で買ったものだった。


宇津馬(うづめ)宅にも当然ながら冷蔵庫は存在している。

家族4人分くらいなら余裕で収納できるサイズの冷蔵庫だが、ここ数年は裕子と母親が少しばかり入れているだけだ。

さらにここ最近は、甘いモノをちょくちょくお土産でくれる夏樹からのスイーツが収納されたりしていたが、夏樹からの贈り物を間違っても両親に食べられたりしたくなかった裕子は、ついに自室に隠せるサイズの冷蔵庫を購入するに至ってしまっていた。


この冷蔵庫を購入して以来、裕子の冷蔵庫は自身の『空間収納』と、この小型冷蔵庫になっていた。

宇津馬宅の冷蔵庫は、申し訳程度の食材が収められただけのものに成り果てていた。

その事態に気付いてすらいない裕子の母親は、母親としては到底、失格なのだろう。


「お待たせ、アーシャちゃんっ」

「ぅぅん」

「はい、これ。食べてみたけど、けっこう美味しかったよ♪」


自室の冷蔵庫から出して来たモノを、裕子がテーブルの上に置く。


「・・これは?」

「コンビニとかスーパーで色々探してみたんだよねっ」


裕子も気付いてはいた。

裕子に甘いスイーツをお土産で差し入れてくれたり、甘いジュースを飲んでいたりはするけれど、何故か夏樹は『甘いお菓子』を敬遠している。

甘いお菓子に七味唐辛子をかけたり、タバスコをかけたりしている様子も目にしていた。

やっぱり、何か食べながら友達とするお喋りするのは楽しくて堪らない。

だから、夏樹にも、気遣わず楽しく過ごして欲しかった。

だから頑張って探した。

店員さんに「甘いものが苦手な小学生でも食べられるお菓子はないですか?」と尋ねてみたりもした。

その結果行き着いたのが、辛い系のお菓子やお酒のおつまみなどだった。


いま裕子が夏樹の前に並べたモノも、ひとくちサイズの『お酒のおつまみ』に近かった。


スイーツショップの人気ケーキを前にする裕子と、

様々な種類のお酒のおつまみが盛られた小皿のアーカーシャ・リリィ。

違和感しかない光景だった。

しかし、「ありがとう」と笑ったアーカーシャ・リリィは小皿に手を伸ばすと、ひとくちサイズのサラミを開けて噛みしめて味わった。

向かいに座る裕子も、小さくカットしたケーキを食べて味わっていた。


まったりとした空気だったが、それをアーカーシャ・リリィがザックリ斬り裂いた。


「ね、裕子」

「ん?なぁに?」

「裕子のクラスに、精霊みたいな魔力を放ってる女子居ない?」

「っ!」


ビックゥッ!!と裕子が震えた。

さらに、小刻みにプルプルと震え出す。


「こないだの運動会の日に頭撫でてくれた・・ほら、あのシュッとしたスレンダーな感じで、男装も似合いそうなカッコいい系の女の子」

「・・」


正確には、『この上なく女装が女子以上に似合う男子・でした』が正解なのだが、

自分の魔力が影響を与えてしまったと説明しずらかった。


「・・・裕子・・?」


何故か青ざめてプルプルと震え出す裕子に、

アーカーシャ・リリィは別方向の勘違いをした。


裕子がまた変な特訓をして、その結果、裕子の真後ろの席の女子に何かある様な勘違いをしたのではないか、と。

まぁ、裕子からの魔力放出が影響を及ぼしたのには間違いないのだが、悲しいかな、『やらかし』に定評のある裕子だ。

アーカーシャ・リリィに疑われたのも無理のない話ではあった。



これは・・・何か隠してる。


怪しい・・。


「・・・・裕子」

「んっ!ん、ん、ぅん?なっ、なにかなっ」


・・・怪しさしかない。

これは・・たぶん・・また、隠れて無茶な特訓してるとみた。


「・・裕子」

「ぁ、えっと、何か飲むっ?用意するねっ?」


目を泳がせまくった裕子がキッチンの方に向かおうとする。

自分ちでもないのに間取りを把握してるのはどうかとも思うけど、今はどうでもいい。

最初に出されたアップルジュースは2人共、半分以上残ってるのに・・何か焦っている裕子の頭からスポーンッと抜けてしまっている様だ。


裕子がどんな無茶を隠してるのか吐かせねば・・!

そして、止めなくっちゃ・・!



「っ・・///」


キッチンに逃げつつ言い訳を考えるつもりだったのに、「お見通し」とばかりに行く手を塞がれてしまった。


ゆっくり一歩一歩近付かれて、自分は一歩一歩後ろに下がる。

そんな逃避行はあっという間に終わってしまった。

三歩も下がったら、リビングの壁に当たってしまった。


「・・ぇと・・夏樹ちゃん・・?」


自分はもう一歩も下がれないけれど、ゆっくり近付いて来る夏樹ちゃんは止まらない。


「・・///」


壁に当たり、もう後ろには下がれない自分を止める様に、夏樹ちゃんが顔の横くらいの壁に手を付ける。

反対側に逃れようと思うと同時くらいに、反対側の壁にも手が付けられた。


しゃがめば・・!


「っ!」


太ももと太ももの間に、夏樹ちゃんのヒザが差し込まれた。

顔の両サイドと脚の間を塞がれてしまい、もう逃げ道が無かった。


「っ・・夏樹ちゃんー・・」


泣きそうな か細い声しか出せなかった。


「裕子」


夏樹ちゃんがにっこりと微笑む。

物凄く可愛い。

クラスの男子がスマホで見てたジュニアアイドルとかいう子より、夏樹ちゃんの方が遥かに可愛いと思う。

でも、今はその笑顔が果てし無く怖い。


「裕子・・何か、隠してる、よね?」

「・・」


どうしよう。

素直に加茂鴨(かもがも)ちゃんのコトを白状して謝った方が良いかもしれない。


「裕子?」


息がかかりそうなくらい近くに夏樹ちゃんの顔があって、少し顔を近付けたらキスしてしまいそうな近さだ。


「夏樹ちゃん・・///」

「ぅん。裕子」

「・・実は・・」



「・・・・」


言葉が出ないとは、こういうコトなのか・・とイヤな理解をしてしまった。


「・・・男の子が・・?」


脳裏に、運動会の日に会ったとても綺麗で可愛い女の子の顔が浮かんだ。

いや、裕子に聞いた通りなら、あの容姿で男の子だったらしい。


「・・・女の子に・・?」


それに・・。


「・・・」


ふざけるニャニャンの姿が思い浮かんだ。


「・・・」


魔法少女だとバレていた上に、仕方ない状況だったのだろうとは思うけど、目の前で変身してしまったとか。


いや、とりあえず、裕子の授業を凄まじくジャマしていたらしいニャニャンには後でガッツリとお説教するのは確定として・・。

いや、えっと、んーと・・?


「裕子・・落ち着いて・・私も落ち着くよう頑張るから・・」

「・・・怒らない?」


床にへたり込んだまま上目遣いの涙目で見上げる裕子に手を差しだし、引っ張って立たせる。


「怒らないよ、裕子」

「・・」


ホッとしたように息を吐く裕子を見る。


「お説教はするけど」

「っ!?」


ビクッ!とした猫みたいな顔で見られた。


「・・結果的に、その子を救ったみたいだから良かったけど、逆の可能性もあったかもしれないでしょう?」

「・・・ぅん」


そんな泣きそうな顔をしないで欲しい。

というか、今にも大粒の涙がこぼれ落ちそうだ。

小型犬が怯えてプルプル震えている姿のようで、とても罪悪感に駆られる姿だ。



「とりあえず、裕子・・『逢庭(あいば)』からの依頼で、その子を逢庭の施設に連れていかないとならないの」

「逢庭の・・?」

「そう。一応、親睦も兼ねて、前に行った伊豆の旅館にしようと思ってるんだけど・・。裕子、改めて紹介して欲しいかも。ほら、私が会ったのって、運動会の日に違う姿でだったでしょう?」

「ぅん、そうだね・・」


「・・・」


さて・・、行く日はいつにしようか・・私たち2人だけじゃなく、その連れて行く子や家族にも話さないとならないし・・。


「・・・夏樹ちゃん」

「ん?」

「悪気は・・なかったんだよ・・?」

「分かってる」


泣きそうな顔の裕子の頭を優しく撫でながら、ほっぺたをさすった。



そして、裕子と夏樹と加茂鴨(かもがも)ちゃんの、魔法少女専用保養施設、逢庭(あいばの)湯宿(ゆやど) 伊豆・天城別館へのお出掛けが決まったのだった。

本編16話Bパートでアーカーシャ・リリィが裕子の自宅に向かった後の話です。

本編が『TVアニメ』放送形式『風』なので、この話は円盤収録の映像特典『風』ですね。

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