『ペネトレイション・リリィの憂鬱』
私は斤熾 椛。
世間一般で言うところの『魔法少女』です。
魔法少女としての名前は『ペネトレイション・リリィ』。
魔法少女としての『力』は、『浸透』です。
魔法少女として頑張ってきたと思います。
でも、魔法少女と名乗りたくは無いんです。
だって・・私はもう、少女じゃないんです。
もう、23歳なんですよ?
時々、一緒に『黒』と戦う魔法少女達は、みんな10代。
小学生くらいの子から、中学生か高校生くらいの子が多いかな・・。
大学生くらいの魔法少女に会ったコトは無いし、三十代・四十代の魔法少女なんて、もはや少女じゃないでしょ・・!
いや、まぁ、会ったコトは無いんですけどね?
でも、そんな三十代の魔法少女に、自分がなってしまうかもしれない。
最悪だ。
かといって、少女じゃないと言えば魔法少女じゃなく魔女?
イメージわっる・・!
何で、魔法の使える女は『魔法少女』一択なの!!
おかしいでしょ!!
・・・・・・ごめんなさい。
少し、熱くなり過ぎました。
ただ、最近の私は焦ってるんです。
魔法少女としての活動をいつまで続けることになるのか。
魔法少女じゃなくなっていった歴代の『魔法少女』の先輩達は、どう魔法少女を卒業していったのか。
卒業で合ってるのかな・・脱退?いや、それも違うよね・・どう表現するのが正しいのかな・・。
■
「よし・・!」
かなり遠距離だったけど、狙撃は成功した。
強化された視界の先、2Kmくらい先では、今しがた私が頭を撃ち抜いた『黒』が崩れるように消滅していく姿が見える。
その前に倒れている魔法少女の子は、動く様子も無い。
完全に意識を失っているようだ。
『黒』の攻撃がクリーンヒットしてしまい、倒れて魔法少女装束が消えた段階で意識を失っていたのだろう。
その魔法少女の子が戦い始めた時から、遠距離で観察していた。
素質は有るのだろう。
たぶん小学生くらいだし、これからドンドンと成長していくのだろう。
ただ、今はまだ弱いだけだ。
可能性を護れた。
良かった。
「・・・椛、良いんだね・・?」
相棒の精霊シュルルが呆れた様に聞いてくる。
別に今回が初めてって訳ではないのに。
こうして隠れて他の魔法少女を助けるのは、もう何回目かも覚えて無いくらいなのに。
別に数えてた訳じゃないけど、たぶん、100回には届いてないと思うんだけど・・。
シュルル的には、他の魔法少女達と親交を育んで欲しいらしい。
でもムリだ。
あんな、若さ溢れる10代のピチピチの若い女の子達の中に、20代の女が入って行ける訳ない。
「おばさん」とか言われたら泣いてしまうかもしれない。
だから、誰かに見られない様に魔法少女活動するし、他の魔法少女を助ける際には、さっきみたいに遠距離から支援攻撃して助ける。
そして名乗り出たりなんかしない。決してだ。
「・・・椛〜・・」
シュルルが首の辺りでグルグル動いてるけど、シュルルの身体だと首に巻き付くのはムリだと思う。
ヘビ型精霊らしいけど、ヘビというよりツチノコにしか見えない。
ツチノコをデフォルメした様な感じで可愛いけどね。
「さ、帰ろ?明日も仕事だから早く寝たいし、お風呂でゆっくりしたいし」
「仕事休んじゃえば?」
「大学と違って簡単に休めないの〜」
「人間って大変だね・・」
■
そして、「魔法少女を辞めたい!」と鬱屈とした思いを抱え続けていた私の願いは、数年後に叶うコトになる。
自分の望んだ形とは全く違っていたけれど、でも、私はやっと・・・。