第7話 自称深淵の神様
とてつもなく暗い世界を見渡し、考える。
此処は何処だろう。死んだのだろうか。まさか、享年7年って言うのは止めてくれよ。嘘だよな。生きているよな。魔法を使っただけで私、死んでないよね。
疑問への解答などあるはずもなく、延々と反芻するだけだった。
この世界に生まれ落ちた時、その時と同じ光景だよね……。もしかしたら、本当に死んでしまったのかもしれない、などと勘ぐりながら。
不安が腹の底から湯水のように沸いてきて、身体を満たしていった。
すると突然、不思議な存在が沸いてきた。
まるで、人のようにも見えるし、それ以外にも見える不定型の泥。それが私の目と鼻の先に現れたのだ。
一歩後退りをしたが私は、ヌメヌメとした足に纏わり付く、泥のような陰に引きづられるようにして尻餅をついてしまった。
転ぶとそれは徐々に近づいてきた。
その闇に、いや闇より暗い深淵に不思議と畏怖のようなもの、それと憎悪のような物を感じた。
視界を逸らし、急いで気持ち悪く纏わり付く陰を払い退け、立ち上がる。視線を戻すとそれは目の前にいた。
「やばい。やばい。やばいやばいやばいやばいやばいやばい」
同じ言葉が私の頭の中を支配し、警鐘を鳴らした。
そして本能のままに逃げようとした。
だが、その不定型な物は、逃走を許さず、私の腕を力強く掴み引き寄せた。
これは、駄目だ。終わった。
その言葉が次々に私の頭を支配していた。
そいつが口のような物を開けた。
喰われる、そう思ったがそいつは、不思議な声のような物を発した。
「お前は、なんだ」
不思議な話だが、そういう風に問いかけられているような気がし、名前を言わなければ殺される予感がした。
「エミリー、です」
出来るだけ恐怖を打ち消し、毅然とした声で言い放つ。
名前を言うとそれの口角が一気に上がった。
ニタァこの言葉が合うような感じだ。
だが、不思議とその笑い方に対し、何も感じることは無かった。
笑ったそれは、こう名乗った。
「私は、深淵の神だ」
唖然としているとそれは、興味深そうに私を観察していた。
不思議だ。不思議だ。これは何だ、という様に。
私も気になり、観察をしかえす。
そうしていると、それは更に口角を上げ、私の方に近づいてきた。
驚いた私が「あっ」と声を出す。
するとそれを待っていたかのように、黒い黒い影は、私の口の中に入り込んできた。
その瞬間、頭の中に情報が入り込んできた。
どうやら、私は神に気に入られたらしい。
……ていうか、人の口に何かを入れるコミュニケーションって終わってる。気持ちが悪くて仕方がない。
はあ、こう言うチートテンプレ展開は良いけどもっと、ラノベっぽくて良いじゃん。
頭の中で憤慨していると、意識が段々と浮上していく感覚を覚えた。
現に周りの闇が光に貫かれてるしね。
よし目を開けよう。さぁ目を開けよう。
何度も呟きながら、目を見開く。
すると、視界は暗かった。
頭を上げる。
すると、暗い理由、それが直ぐに分かった。
本に頭から突っ込んで寝ていただけだった。
馬鹿みたい。
驚いていた自分に漏らしつつ、微妙に痛い頭を抑える。
鈍痛が頭で木霊している。
魔力とやらを使い切るとこうなるのか。こりゃ辛いな。
まぁ、これで魔力が多くなるんだったら。
俺つえーの為に頑張るしか無いな。
幾度も深呼吸をしている内に冷静になり、今は何時だろうかと廊下に出る。此処には不思議な事に時計がないのである。
外は既に日が沈んでいるようで、暗かった。
えぇぇ、私何時間寝てたんだよ。いや、気を失ってたから仕方ないか……。
どうしようかな、頭痛いし休むか。よし、決めた。早速寝よう。
自分の部屋に歩を進めようとした。
ところが、何故か私の身体が宙に浮いた。
「きゃぁぁあ」
この身体で発したことの無いような声で思いっ切り叫んだ。
(えっ、何々誰だ。お父様か、それとも侵入者か)
何故か不思議なことに頭は冷静沈着だった。
振り返ろうとすると、頬に髭のような物が当たる感触が有った。
どうやら、お父様だったようだ。
危なかった。男の象徴を蹴飛ばす所だった。
「やめてください。お父様」
頭の痛みがお父様にばれないよう、冷静な声で話しかけた。
嘘に気付いたのかお父様が、
「どうしたんだい。エミリー顔色が悪いし、ちょっと声が震えているよ。大丈夫かい」
心配をする声で言われた。
(お願いだから、その声で私に話しかけないで)と、心配されるのは嫌なので思いつつ応える。極めて冷静な声で。
「大丈夫です。お父様」
「本当に大丈夫かい」と、お父様は更に心配したような声で問いかけた。
多分これ以上、話したらボロを出す。
と予感がしたため私は、走って逃げようとした。
ところが私は、平衡感覚が狂っていたのだろう。
立っているのすらきつかった。
このままではやばいそう思い、歩いてでも逃げよう。
だが、逃亡は叶うことなく、過呼吸だろうか、分らないが、
「ハァ、ハァ、ハァ」
自分の口から浅い息が、何度も、何度も繰り返されていた。
そうして、歩き出そうとしたところ、視界が段々と黒のような、紫のような色に浸食され、身体の感覚を失った。
____別視点(お父様)____
私の娘はきっと変人だった。
今よりももっと幼いときからの筋金入りの。
物事をよく考えて、そして行動をする。
時折大人と間違うようでもあった。
私はそんな娘が少しばかり恐ろしかったといえよう。
子供らしさの欠けた子供、それはきっと恐ろしいものだ。
躊躇いによって自分らしさを失ってしまう。
それで成長した子供が、生きていけるのだろうか?
そう常日頃恐れていたからこそ、娘からのお強請りは嬉しかった。
「本が読みたい」と子供らしくはなかったが、それでも嬉しい。
だからこそ、彼女の願いを叶えた。
しかし、幾時間も図書室の中に籠もる彼女が、酷く心配だった。
そうしてやっと部屋から出て来た彼女は、酷く衰弱していた。
その後、直ぐに倒れてしまった。
医者に聞けば、知恵熱だという。
何か一つのことに集中するのは良い。
しかし、それで体調を崩すのは以上だ。
娘がその異常性を有したのはどうしてだったろうか?
やはり、あれが原因なのだろうか。
私は娘が産まれた時、その時の悪夢のような時間を思い出した。
推敲完了2024/12/31