第5話 帝国騎士団元騎士団長
フラン先生の授業が始まり、幾月か過ぎ、我ながら慣れて大変に素晴らしくなってきた、と思うようになり始めた。力が付いたのか、だんだんと注意される回数が減ってきてもいる。
いやあ、きっと私が天才なのでしょう!
……たぶん真面目に考えれば、フラン先生の教えが良いのだと思う。
先に始めた剣含め運動は全然だからね。
さて、朝は剣の修行、昼はマナーの勉強を繰り返す生活はだいたい一年ほど続いた。
これで、やっと……あれ。今って、何歳だっけ? と頭を悩ませていると、タイミングよくお父様の声が聞こえます。
「エミリー。七歳の誕生日おめでとう!」
お父様は、手を広げながら近づいてきていたので、後ずさりをしながら、お礼を言います。一応祝われたからね。親しい仲にも礼儀あり、というヤツです。
「ありがとうございます。お父様」
大人ぶった口調で返し、思います。
(もう七歳なのか。時が経つのは早いな)
老人のようだなとふと思います。いまだに七歳児と若いのにね。
迫ってくるお父様から逃れつつ、感慨深い思いで一杯になっていれば、お父様は諦めて問いかけてきます。
「誕生日に何か欲しいものはあるかい」
(何時も思うんだけれど、この顔と声で悲しげだと、何だか気持ち悪いな……)と辛辣なことを考えつつ、少し考えて要求を口にします。
「図書室に入る許可が欲しいです」
貴族のお家なので、この邸宅には図書室がある。
そこまで大きくはないので、蔵書数は少ないと思うけどね。
でも、私の暇つぶしにもなるし、ついでに勉強にもなるのだ。まさに一石二鳥。
なので、図書室の入室許可が欲しいのだ。
今まで歴史、地理とかはほとんど学べていないしね。
さて、閑話休題、話を戻すが、お父様は少し悩んだように唸って言う。
「分かった、良いよ。でも、本当にそんなので良いの?」
これ以外欲しいものはなかったので、頷きながらも答えた。
「大丈夫です。本以外欲しいものは特にありません」
その時は、出来る限り知的そうな声を出した。
我ながら大して知性を感じられない声でしたがね。……いやあ、この年齢の声で知的さは無理があります。
くだらない事を考えながらも、許可も無事取れたので、一安心。
「それではお父様」と、比較的落着いた声を出しながら、小走りで部屋を出ようとした。
(えっと、図書館って何処だっけな)だのと、考えながら歩いていたからだろう、私は扉の辺りに立っていた知らないおじさんに止まれず突っ込んだ。
(やっば、お爺さん大丈夫か)
結構な勢いのだったために、心配になりながら、お爺さんを見上げる。
案外大丈夫そうにしていた。
ていうか、私の方が尻餅をついていた。
(・・・このお爺さん、何者)
驚きながら、呆然と見ていると背後より、声が聞こえます。
「あっ、お久しぶりです、騎士団長」
「お前は面白いことを言うな。今は騎士団長じゃなくて、エーゼフじゃよ」
爺さんは笑っていました。
「騎士団長は引退なされても、私としても騎士団長、という印象が拭えないのです」と、お父様は言い、困惑したように続けます。
「……気になるのですが、そんな語尾していましたか?」
すると、爺さんは笑ったまま返した。
「いんや、してないぞ」
その声音からは、好色爺的雰囲気が抜けて、普通に返していた。
(……えっ、口調じゃないの? それじゃあ、何の意味があってその口調を使ってたんだ? 意味が分からない)
疑問に思いながら、爺さんを見つめていると、彼はこちらに目を向けます。
「おっ、君が儂の教える生徒か、宜しくな。え~と、名前は何じゃたっけ」
(生徒? 何か教えられる話なんてあったっけ? 覚えてないな……)と、私が悩んでいれば、同様に唸り声を上げて悩んでいた爺さんは言った。
「え~と、確かあれじゃ」
分かったと、言わんばかりの声を出し、その名前を出した。
「確か君はエマだ。どうだ? 合っているだろう」
(えっ、違うくない。誰よ、その女)と、間違った名前を思い、心中でふざけていれば、お父様が訂正をしてくれた。
「騎士団長、エミリーです」
「そうか、エミリーか。分かっていたんじゃぞ、本当じゃぞ」
「その様には見えませんでしたが」
「お前、細かいと嫌われるぞ?」
少し冗談めかした話がなされていた。
(何か、くだらない会話だな)と、思っていれば唐突に声を掛けられた。
「これから宜しくな、エミリーちゃん」
(えっ、あっ、取りあえず、騎士団長とかいう結構ちゃんと高い地位の人みたいだし、フラン先生に教えて貰った挨拶しないとやばいよな。多分)
逡巡し、スカートの裾を少し持ち上げ、挨拶をした。
(地味に転生して、初めて知ったんだけど。これカーテシーって言うんだよね。前世で知ってて使っていた人、何人いるんだろう)と、全く以て関係がなく、その上とても無駄な疑問を抱きながら。
すると、彼は明るい声を出で話しかけてきた。
「ほ~う、ちゃんと挨拶も出来ているな。結構、結構」
なんかテンションの高い人だな、と若干ばかり思いながらも気になった事を問いかけた。
「そういえば、騎士団長様。授業はいつ頃から始めるんですか」
すると、ちょっと考えている色が浮かび、直ぐに答えた。
「授業は明後日からだ。宜しく頼むよ」
彼はそう言うと、髪がグシャグシャになりそうな。……いや訂正、グシャグシャになるなで方をして走り去っていった。
「それじゃ、儂は帰るよ。お前も頑張れよ」と、お父様に言葉を残して。
(嵐みたいな人だな)と感想を抱きながらも、扉を見つめていると頭をなでられた。
あれっ? どうして私はなでられているんだ、と疑問を抱きながら後方に視線を向け、お父様の方を見る。
すると笑顔で私の頭をなで続けていた。
「お父様、やめてください」
「どうして、騎士団長は良くてお父様は、駄目なの」
「お父様は何か、ちょっと理由は分かりませんが、嫌なんです」
(まぁ、本当は前世の自分より、若くて、イケメンなお父様になでられるのが、嫌なだけなんだけどね)
理不尽ながらも理由を思い浮かべ、怒ったような目を向け続けていると、お父様は拗ねたように言う。
「分かったよ。でも、少しくらいは良いじゃないか」
(無視だ。無視、関わったらまともな事にゃならん)と前世の私と今世の私が、強く主張していたので無視を続けるのだった。
推敲完了2024/12/01