第379話 さて、どうやって帰ろうか?
目の前に転がる鎧、あと私の足を持っていた魔物だったりと悩みに悩み、結局思いつかず、思考が行き詰まったところで、
(どうやって、家に帰ろうか)
と頭を大変に悩ませていた。
そして、
「魔力、回復させるか」
取り敢えず足掻くことにした。
無理な可能性が高いのだけども、回復させるだけ回復させて、ワープ魔法で帰ろう、と決めた。
「・・・寝れば回復するかな?」
普段回復させてる方法を声に出しつつ、
(果たして、こんな所で寝ても良いのだろうか?)
と疑問を呈した。
まず単純に結構寒い。
そして、一掃はしたものの魔物が怖い。
既に時間が経ちすぎていて、掃除した分の魔物が遠くからやってきている、という可能性が否めないのだ。
色々と危険で怖い、けれども、
「ここで眠ることになりそう」
と思わざる終えなかった。
現状、レイは寝ている。だいぶ深く。
そのため、彼女を担ぐことになるのだが、足の状態だったりで、まあ無理なわけだ。現実的に考えると。
単純に起こせば良い、という話ではあるのだが、少々申し訳ないというのもあるし、それに気絶するように寝ているため、起こすことができるのかが分からない。
「・・・寝るか」
悩んでいてもしょうがない、と開き直ったかのように呟き、
(寒さと魔物対策をしないと)
と考え始め、手にある物を思い出し、
「ランタンから取れないかな」
火を取り出すことにした。
「えーと、何か移すもの」
ガラスの奥で揺れる蝋燭の先から視線をずらし、何か燃えそうなものを探した。
けれど、何もなかった。
「はあ、取ってくるか」
面倒臭いがやらなくては、と地面に棒を叩きつけ、穴を登っていった。
そして、良い感じの棒だったり、枯葉だったりを集め、次から次へと穴へと放った。
(もう良いかな)
五、六分程度で飽きて、私も穴へと降りていった。
「うん、結構ある」
小さく声を漏らしつつ、散らばったものを出来る限り寄せ集め、ランタンのガラスを開いた。
(慎重に、慎重に)
焦らず、ゆっくりと蝋燭を消さぬように気を付け、火を無事に得ることに成功した。
「ヨシっ」
(いやあ、やっぱり私は凄いやー)
自画自賛をしつつ、細い枝や木の葉に突っ込み、火を大きくしていった。
そして、ようやっと焚き火が完成した。
「できた、・・・お休みなさい」
未だ怖くはあるのだが、獣ならば火には近寄っては来ないだろう、と我ながら恒常性バイアスの掛かった思考し、瞼を閉じた。
だが、一切眠気が訪れなかった。
色々と頭の中で消化不良の言葉達が渦巻いているのだ。
(うわー、眠れん)
頭の渦巻きが消えず、嘆いた。
けれど、何も行動を起こすことなく、・・・あの鎧の持ち主の正体、あと彼らの言う『神』だとか気になりはするが、一端忘れて寝よう、と努力をした。
そして、意識は暗い奔流に流されていった。
…………
「・・・目に染みる」
少し掠れた声に、
(酷いな)
と感想を抱きながら、上体をあげた。
「ふぁああぁ、遅刻確定かも」
太陽は既に高く登っていた。
焦燥に焼かれつつ、懐中時計を見た。
一時だった。午後の。
「あぁ、終わった」
まあ、先生がどうにかしてくれてるかな、と希望的観測をしつつ、
(魔力は足りるよな)
なんだか殆ど回復していないことに驚いていた。
「何でかな。・・・たぶん、足りるとは思うけど・・・」
再度魔力不足になるだろう、と予感がした。
(・・・レイは何処かな?)
取り敢えず怖い可能性からは目を背け、捜した。
そして、
「レイ、レーイ、起きて下さい」
身体を揺らした。
「うっ、えっあ」
変な声とともに、意識が覚醒したのを見た後、
(そういえば、あの鎧)
背後に転がったものを見た。
朝日を反射させるそれは、酷く虚しく見えた。
活気を感じさせる森に反し、陰気を感じさせたのだ。
昨日は気付かなかったところなのだが、複数箇所が黒い塗料で潰されているのも、陰気さを加速させているように思える。
「仕舞うか」
小さく呟き、立上がろうとしたところで、
(ああ、そうか。忘れてた)
自分の現状を思い出し、嗤いが漏れそうになった。
「えっと、足りるかな」
棒を叩きつけ、鎧を仕舞ったところで声を漏らした。
・・・一応は、まだ足りそうな気がする。
(ヨシ、イケるな)
本当は危ない賭けになってしまうので、やるべきではないだろうが、探知魔法を一瞬広げた。
水紋状のものを。
そして、
「見つけた」
複数の鎧を見つけることができた。
どうやら、あの鎧だけが残っていた、ということはないらしい。
(回収できるか)
逡巡したが、
「無理か」
これ以上は危険だと判断し、
「レイ、一人で帰れます?」
背後に立つ少女に問いかけた。
「お屋敷の方ですか?」
「その通りです」
「たぶん、でも、どうしてです?」
「いやあ、先程、少し回復した魔力の余裕がなくなったので、出来る限り頭数を減らしたいのです」
「分かりました」
「それじゃあ」
適当に声を出しつつ、魔法の行き先を探し出し、そして行使した。
ボンッ、と鈍い音が鳴った。
「イッてぇ」
声を漏らし、尾骨を抑えた。
一体どうして? 行き先を間違えたか?
さらに自信を喪失しそうになっていると、
「痛い、というのはこっちの方だよ」
という先生の声が聞こえてくるのだった。
たぶん、次話から休載。
色々な説明と新キャラとの顔合わせを・・・




