第377話 イケる、イケるって・・・あっ、お願いします。
久しぶりの二千字です。
土を掘り起こし続け、やっと目的物を引っこ抜けるくらい露呈させれた。
ランタンの暖色光を鈍く反射させる金属製の鎧は、何処までも冷たく思えた。
少し前まで、確かに人がいた、という事実がそう思わせたのだろう。
「レイ、ちょっと手伝って下さい」
「まだ掘るんですか?」
少し嫌気が差したような声に、
(そこまで重労働じゃないだろ)
不思議に思いつつ、
「いえ、引っこ抜くんです」
と補足をした。
「・・・えっ?」
「引っこ抜きます」
「力業、なんですか?」
「これ以上掘り続けるのは、土の硬度の問題で難しいので」
理由の説明をしたのだが、未だ納得していない様子の彼女に、
「それに、道具の問題もありますし」
私が杖代わりに使っている木の棒、それと彼女がそこらで拾ったスコップ代わりの木の棒を示した。
「そうですけど、・・・他に方法は?」
「ないと思いますよ。私の魔力はカツカツですしね。まあ、レイが魔法を使う場合は、その限りではありませんが。それで、納得していただけました?」
「・・・はい」
不服そうな彼女に、確かに面倒だよなー、と少し賛同を覚えた。
私は事実として筋力がないですし、四肢の状態により、踏ん張ることもできませんからね。
でも、悲しいことにそれ以外には方法がないんですよ。
「それじゃあ、えーと、レイは右手を持って下さい。・・・あっ、やっぱり、違う、もうちょっとそっち側」
一応は納得していただけたので、驚くほど適当な指示を出し、
「さあ、行きますよ」
オーエス、とおふざけで声を出しながら、冷たい鎧を引っ張った。
そして、
「あっ、やべっ、ちょっ! まっ!」
金属部分を握っていた手が滑り、穴の中心部へと転がり落ちた。
「イッてぇ! あっ、クッソ! 待って!」
ナニカに掴まろう、と必死に手を伸ばした。
だが、不幸かな、この穴は先程の鎧という例外を除き、綺麗に抉られているのだ。
(ああ、終わったー)
ゴロゴロ転がりながら思い、諦めていると、中心に落ちきり、無事に止まることができた。
多少打ち付けたために痛いところはあるが、特に外傷はなかった。
「くっ、くそぅ」
少々身体の不便さを呪いつつ、
「レイ! そこの木の棒をこっちに投げて下さい!」
助ける約束をしているのにも関わらず、一切助ける様子がなかった者に声を張った。
「あっ、はい」
と小さく聞こえ、その数秒後にカラン、カランと音を立てながら、棒が転がってきた。
結構な速度で。
「うわっ」
驚き声が漏れた。
だが、一応は無事に取ることができた。
棒を床に刺し、上を見上げた。
ランタンの温かい光は、結構な上方にあった。
「・・・これ、また登るのか」
少々嫌気が差しつつも、立上がって頑張って登っていった。
「どうして助けてくれなかったんです」
無事登り終え、開口一番に問いかけた。
だいぶ疲れてしまって、問いかけたい、という知識欲が抑えられなかったのだ。
「えっと、急でありましたし、それに貴女に巻き込まれそうでしたし」
「・・・まあ、そうかも知れませんが、その努力、姿勢とかを見せたりとかは・・・」
「どうせやらないこと、無理なことなのですから、必要性が分かりかねます」
「たしかに必要性はないけど・・・」
(なんだか私が言いそうなことだなー)
私も同じようなことを言いそうだ、と考えつつも、
「まあ、良いです。引っこ抜きましょうか」
本来の目的に思考を戻した。
「再度、貴女が転がることになりそうですね」
「・・・無駄口は叩かないで下さい。落としますよ」
「ハハハ、できますかね?」
なんだか若干煽られているように感じられたが、
「さあ、やりますよ」
気分を切り替え、鎧を握り引っ張った。
現状はチェーンメイルの全体が露呈し、肩や身体の一部が露呈している。
最初の状態より発展はほぼしていないのだが、これ以外に方法は思いつかないのだから、やるしかないだろう。
・・・フルプレートではないとはいえ、小娘一人と闇の精霊一匹で鎧を引っ張り出せるものだろうか?
甚だ疑問ではあるが、取り敢えず行動を起こし、十数分が経ちました。
結果を言いましょう、やはり無理でした。
「・・・これは、難しいですね」
時間を掛ければ確実にイケる。
けれども、如何せん鎧が殆ど動かせていないのが、精神に来る。
一応は動いているのだ、動いているのだけど、数センチいってるか微妙なラインなのだ。
本当に、色々と辛い。
「無理、ですね。これは」
「言ったでしょう」
小言が少々癪に障った。
だが、彼女の発言を無視し、押し通した挙げ句、このような自体になっているため、甘んじて受けることにした。
そして、
「・・・レイ、魔法使って貰えます?」
恥を忍び、お願いをした。
「失敗しても良いのなら」
「言うわけないでしょう。別に、お金とか払ってないですし」
「そうですか、ならやります」
(あっ、やってくれるんだ)
若干の驚きを覚えつつ、現場から少し離れた。
失敗し、土が弾け飛んだりしたらだいぶ怖いから。
「やりますね。・・・どこ置けば良いですか?」
「えっと、穴の中心部、もしくは穴の外に落としていただければ」
「はい、えっと、穴の方に降ろします」
(さて、成功するかな)
心中で呟きつつ、鎧を見つめた。
数秒後、土を盛り上げ、成人男性程度の大きさの鎧が浮き上がってきた。
そして、鉄らしき金属の板、関節部のレザー、殆どを覆う鎖帷子を露わにして、
「あれは、引っ張るの無理があったな」
と感想を呟いていると、大きな音を立て、地面に落ちた。
「あっ、大丈夫ですか?」
大きく問いかけ、出来る限り早く近づくと、
「・・・魔力切れです。ちょっと、辛いです」
彼女はそう私に返し、気絶したのか意識を失っていた。
きっと、疲労に加え、魔力切れが襲いかかったのだろう。
私が気絶している間にも看病で起きていたようだし。
「ありがとうございます」
小さくお礼の言葉を言い、ランタンを片手に床に落ちた鎧の元へと近寄っていくのだった。
読み飛ばしても大丈夫の無駄話。
この話の存在意義あったか、と疑問に思う方がいるかも知れないので補足。
一応はレイは決して人間ではないし、仲間でもない、ということを認識させたいなー、と考えた話です。
追記
たぶん、次回、次次回から休載です。




