第372話 ヨシッ、やったるで! ・・・まずい、まずい、まずい
(一体何なんだ?)
男達の方より発された大きな魔力に、恐怖と疑問を呈し、魔法が飛んでくるのを警戒していたのだが、
「大丈夫か?」
その魔力の塊は、蒸発したかのように跡形もなく消えていった。
そう、本当に跡形もなく、魔力の残滓も残さず、広がっていた私の魔力に、虫食いを開けるように。
(・・・勘違い、なわけないよな)
少し心配になり、
「レイ、魔力感じました」
と問いかけると、
「はっ、はい、凄く大きいのが」
やはり間違いではなかったことが分かった。
「何もなかったかのように霧散しましたよね」
「しっ、しましたね」
「原因、分かります?」
「分かりません」
「そうですよね。私も分かりません」
(ていうか、まず魔法を残滓も残さず消し飛ばす方法を知らん)
残った魔力から身元を特定されなくなる、というものも存在しはするのだが、まず魔力から身元を特定するような馬鹿はいないと思う。
魔力、という感覚的な物であるために、データベースとして残すことも叶わないし。
「さて、何ででしょうかね。本当に」
一切意味が分からず、探知魔法を広げ直し、意識を割いた。
そして、
「・・・何処だ?」
そこにいた男達が見えず、地面も抉れ飛んでいることが分かった。
「・・・魔力が辺りのものを巻き込み、消し飛んだのか? 一体どうやって?」
探知魔法に開いていた虫食い、それと現場の状況から考え、
「暴走か? いや、暴走でそんな事にはならないか」
原因をよくよく考えた。
(何らかの魔法を使用した男達が、ミスまたは失敗を犯し、自分たちごと辺りを消し飛ばした、っていう線かな)
と可能性を思い浮かべ、
「レイ、魔力の発生源に行きます。貴方は、ついてきます?」
目もくれずに問いかけた。
「貴女の指示に従います」
「そうですね、ならば、・・・ついてきて下さい」
おじさんの方に返すべきでは、と逡巡したのだが、もし何らかの戦闘行為が発生した場合には、少し心配が残るために、彼女を追従させることにした。
それに、おじさんは魔法に写る限りでは無事であるし。
「ちょっと走りますか。行けます?」
「はい、勿論です」
辺りには、私が駆除をした影響で、魔物は存在しないし、視界を遮るような背丈の草もない、それに男達もいないが、余分なほどに警戒し、走って行き、そして大きな穴を見つけた。
大体半径は五十メートル程度だろうか、だいぶ大きい。
「・・・たぶん、此処ですよね」
「はっ、はい、たぶん」
穴に水が落ちていくように、ほぼ魔力を見ることが出来ぬ穴の中に魔力が落ちている。
「何が原因なのですかね」
小さく呟き、綺麗にくり抜かれた円形の縁に立ち、下を見渡した。
大体十五か二十メートルほど下方に地面が見えた。
「えーと、ナニか、えーと」
そこら辺の拳大の石を手繰り寄せ、穴の中に投げた。
すると、ゴツッと鈍い音を鳴らし、中心と思われる場所から、十メートルほどで不自然に止まった。
目の前に広がる穴は、決して円柱状ではなく、球状くり抜かれているというのに、一番下方となる場所で止まるのでなく、まるでナニカに遮られたかのように、不自然に中腹で止まったのだ。
「・・・ナニカいますね。なんだと思います?」
「さあ、分からないです。けど、少し危なそうです」
「やっぱり?」
少しこちらにやって来たことを後悔し、
「戦闘行為が起こりそうですね」
久方ぶりの攻撃魔法の行使、これに不安を抱きつつも、探知魔法の索敵範囲を床の下まで広めた。
そして、
「レイ!」
叫びながら、直ぐ近くにいた彼女の手を掴み、目の前の穴に飛び込んだ。
「きゃっ! えっ、イダッ!」
掴んだ手の先から聞こえる声に、申し訳なさを感じつつ、先程まで私達がいたところを見た。
そこにはやはり、大きな魔物、いや化物がいた。
「止まります!」
叫び、球状の結界魔法で自由落下を止め、空から降ってくる石礫、それと岩を耐えた。
予感でしかなかったが、やはり地面を抉り飛ばしていたようだ。
「大丈夫ですか? レイ」
心配の声を掛けつつ、少し前に投げた石が不自然に止まった地点を確認する。
・・・どうやら、消えたように思えた男達はあそこにいたようだ。
「チッ」
舌打ちをし、
「レイ、覚悟して下さい。たぶん、結界が砕けます」
まるで飛び込むように、蹄を地面にすりあわせる、イノシシの魔物のようで、何処か決して違う、知性的で、狂気的な側面を感じさせる存在を見る。
警戒し、反撃の準備をしていると、奴は走り出した。
「三、二、一」
当たるまでの時間を声に出し、
「今!」
レイに報告するように叫び、奴が着弾したところの進行方向に魔法を設置し、結界魔法を解き、私達は自由落下を始めた。
目の前の石のような鱗がつき、多々茶色の毛を鱗より生やした化物が、用意された魔法を玉砕する光景を片目に、魔法の杖を取り出そうとした。
その時に、奴はその頭を振り回し、巨大な、当たったらひとたまりもない牙が私の腹をめがけ、飛んできた。
「マッズ!」
声を漏らし、結界魔法を展開した。
だが、まるで紙切れのように砕かれ、牙は留まることを知らなかった。
(まずい、まずい、まずい、まずい、不味い。不味いぞ。まずい)
同じ言葉を何度も反芻させ、対策を考える。
けれども、ただ無情に時は流れるのみだった。
次回、残酷表現あり
加減はしましたが、今までに比べてだいぶ残酷です。




