第369話 私、何かしたのかよ?してないよね・・・
「えーと、此処、ですか」
「はい、たしか」
原初の精霊を知っている、とされる人物の家屋とされる場所を指差す。
とても家屋には見えない、というか、この外観で『家屋』などという形容をしても良いのか、その疑問を呈してしまう。
・・・本当に此処であっているのだろうか?
「えっ、えーと、どれが扉ですか?」
殆ど樹木の外観である為、扉が分からずに問いかけると、
「たしかこれです」
彼女は数度木のうろの下を叩いた。
『コンコンコン』
と中で反響して、沈黙が訪れた。
そして、その数秒後、樹皮が少々浮き上がり、開き戸のように開け放たれた。
(えっ、すごっ)
完全に扉が周りに溶け込んでいたことと驚き、それと樹木の中に家を作ったことに驚いていると、
「おお、お前は、闇の小娘か! 何十年ぶりだ?」
陽気な跳ねるような声が放たれた。
(確か、ドワーフとエルフのハーフだっけ)
レイから聞いた話を思い出しつつ、恰幅は良いが、身長は小人と呼ばれそうな程小さく、床につくほどの髭を垂れさせたおじさんを見つめた。
「さあ? 十年以上ですかね?」
「ハハハ、もうそんなに経っておったか」
歓談をしているのを聞き、
(・・・この方々は一体何歳なのだろう?)
といらぬ疑問を膨らませていると、
「それで、どうしたのだ? 『最強の精霊になるまで、会いに来ない』と宣ってたが、もしやなれたのか?」
面白そうな話が聞こえてきた。
「いっ、いやあ、ちょっ、ちょーと・・・」
「おぉ! なれたのか!」
「えっ、そのぉ─────」
最後には何を言っているか分からなかったが、レイは俯き、
「・・・ごめんなさい」
小さく謝罪を口にした。
(何に対する謝罪なのだろうか)
と疑問を抱いていると、
「そうかあ、お前にも難しかったか・・・」
心苦しそうに呟く声が聞こえた。
すると、
「若気の至りであんなことを言っただけだから、そんなに、・・・えーと、そんなに残念がらないで」
のようにレイが慌てて、声を発した。
「そうなのか? 本気で言ってたんじゃないのか?」
「そんな訳ないでしょ! 私、弱いもん」
「そうだったのか? 昔、『最強だ』って言ってじゃないか」
『最強』その言葉が出されると、再度レイは顔を俯け、
「・・・しょうがないじゃん、─────若気の至りじゃん、─────言わなくても良いじゃん」
所々聞こえないが、ブツブツと恥ずかしさに耐えた声が聞こえて来た。
(ああ、なんというか、厨二病的な奴か)
若干の共感性羞恥とともに、同情をしていると、
「それで、どうしたんだ?」
と仕切り直すように言葉が発された。
「教えて貰いたいことがあって・・・」
「教えられることは少ないぞ? 戦闘も魔力のこともお前の方が詳しいだろ」
「そうですけど、原初の精霊様について教えて貰いたくて」
「はあ。どういう風の吹き回しかは分からないな。興味がない、って言ってなかったか?」
「はい、言いましたけど、知人に『知りたい』と言う方がいて」
レイはそこまで言ったところで、
「あっ」
何か思いだしたかのように声を漏らし、
「その知合いが、あちらの方です」
彼女は私の方を指し示した。
そして、指の動きに合わせ、動かされたおじさんの顔は、しかめっ面になった。
(はて、何かしただろか?)
疑問を口に出そうとしていると、
「あれ、ニンゲンか?」
「ええ、はい、そうです」
「はあ」
と会話が成された。
そして、悩むように空を見たおじさんは、
「あんたは、一体どうして知りたいんだ」
こっちを向き、問いかけてきた。
「単に気になってしまって」
「それだけか?」
怪訝な表情で問われてしまった。
本当に私は何かしてしまったのだろうか?
「何か答えたらどうだ? これだから今のニンゲンは・・・」
「あっ、ごめんなさい。えっと、それ以外ですと、強いて言うならば、昔存在したという『ヒルビアの理』ではない別の理の世界について知りたいな、というのも少しあります」
「・・・そうかい、教えてやっても良い。だが、代価は貰うぞ」
「ものによりますが、構いませんよ」
先程まで、絶対にやりたくない、という調子だったのに、突然に嫌々ながらではあるが、承諾したことに多少驚いた。
「それでは、早速教えて頂きたいのですが」
考えているような彼に言うと、
「せっかちな小娘め、まずは最初に代価を貰うぞ」
と返答されてしまった。
思考を邪魔したのが、癪に障ってしまったのだろう。
「どうして前払いを?」
「今のニンゲンは、乱暴で姑息で、どこまでも阿呆で信用できないからだ」
「はあ、そうですか」
(まあ、確かに乱暴で姑息だな。阿呆だったり、馬鹿も多いだろうし)
納得しつつ、
「それで、何を払えば良いのです? お金ですか?」
問いかけると、
「そうだな・・・ここらの雑草むしり、それと獣の駆除だ」
雑務をやれ、と言われてしまった。
「どれくらいの範囲ですか?」
「ハア、ここら辺だ。ここら辺」
「あの、だからその範囲を・・・」
「察しが悪い、これだからニンゲンは」
(うーん、なんだか、思い出す。前世を)
抽象的かつ不明瞭、愚かしい指示に溜息を漏らしそうになりつつ、
「はあ、分かりました。はい」
と適当に返事をし、草むしりだったりを始めるのだった。
ここら辺の話が終わり、帝都に帰ったところで、連載休止します。
理由としては、少々パソコンが不味いのと些事が複数個です。




