第366話 見覚えは・・・何者なのだろうか?
輝く月を見上げ、小さく漏らした。
「ああ、堅ぇ」
と。
「フフフ、ハハハ。何してんだか」
暗い公園のベンチに横たわり、夜空を見上げる自分を嗤いつつ、
(寝よ、ちゃんと)
風情だなんだ、と考えていた自分を呪い、瞼を閉じた。
そして、数分後、
「・・・寝れねぇ」
一切眠気が訪れず、声を漏らした。
「すぅー、辛ぇ」
文句を漏らしながら上体を起こし、
「うん、どうしよ」
と悩み始めた。
(もう夜更けだし宿はムズいよな、てか、だいぶ前言ったときですら満室でダメやったし)
ベンチから降り、悩みながら中央に置かれている噴水に近づき、
「うーん、こんな時間に出歩いている奴は、ヤバい奴だろうし」
偏見を声に出しつつ、縁に腰を下ろした。
(ヤバい奴だとしたら不味いよな。私、寝ている状況で魔法撃てないし。それに、寝ている間にナニカされても起きない自信がある)
顎に手をつけ、小さく唸り声を上げた。
「諦めるか」
やはりどう足掻いても無理そうなので、諦めることにした。
うん、しょうがないよね。うん。
諦観を漂わせていると、赤色の光が徐々に近づいてくるのが見えた。
(はっ? えっ? 人魂?)
疑問を呈していると、『カタカタ』といおうか、難しいのだが、金属と金属が当たる音が響き始めた。
(えっ? 怖、まってクッソ怖いんだけど!)
恐怖に駆られ、脱兎の如く逃げだそうとしたところで、足がもつれ、大きな音を立てながら跪くことになった。
「イッた」
反射的に声を出していると、光は近づき、正体を露わにした。
「君、大丈夫か?」
「えっ、ええ、はい、大丈夫です」
適当な返事をしつつ、
(ただの老人で良かった)
ランタン、もしくはカンテラの光により、髪色は分からないが、顔に拵えた皺、それと声の質から判断していると、
「君、親はどこだい?」
と温和な声で質問をされた。
「えっ、えーと」
(どうやって返すべきか)
少々頭を悩ませていると、彼の表情が曇り、
「・・・泊まる場所はあるかい?」
孤児、棄児であると思われたようだ。
「あーと・・・」
言訳に難儀していると、
「ついてきなさい、泊まる場所を貸そう」
憐れまれてしまった。
「いえ、だっ、大丈夫です!野宿しますので」
「それは許せない。大人として、君のような子供を見て見ぬ振りをするなど」
「えっ?」
(私、何歳だと勘違いされてるんだ?)
少々の疑問を漏らしていると、
「ついてきなさい」
と彼は私の手を優しく掴み、歩き出した。
(いやっ、まあ、うん、私、身長は百五十センチ台だけど、確かに小柄ではあるけど)
悲しみを感じつつ、
(まあ、ついていっても大丈夫か。暴力を振るわれる可能性は否めないが、性的に襲われる可能性は少ないだろうし)
相手の年齢のことを考え、足を動かした。
「腹は空いているか?」
「お腹ですか・・・」
(ああ、忘れてた。まだ夜ご飯食ってないわ)
食事を忘れていた事実を思い出し、
「ええ、はい」
と返事をした。
「嫌いなものはあるか?」
「いえ、特にはありません」
「そうか、良い子だな」
(・・・私、本当に小さい子だと思われてる気がしてきた)
不満というか、心配というか、そう言った類の視線を向けていると、
「ここだ」
その老人は一つの家の前で止まった。
月光による光のみで薄暗く、確かではないが、周りに見える建物と大体同じ大きさで、煉瓦らしき石材とたぶん漆喰、それと木材で形成された平凡な家に見える。
「さあ、入りなさい」
「あっ、はい、ありがとうございます」
扉を開けてくれたお礼を言い、暖かみのある光が漏れる家の中へ足を踏み入れた。
そして、温かい、と感想を抱いた。
暖色光に属すであろう光の視覚効果に加え、単純に室内の温度が高い。
ものが弾ける音が聞こえることから、暖炉があるのだろう。
(・・・たしか記憶が正しければ、暖炉って高級品だよな?こっちの方は知らんけど、帝都の方では税金あるし、煙突と本体両方に)
あの老人が金持ちの可能性が高い、と考察をしていると、
「大丈夫か?」
背後から声を掛けられた。
「はっ、はい、大丈夫です」
立ち往生していたことで、心配を掛けたのだろう、外套を脱いでいる彼に返したところで、
(・・・あっ、なんか見たことある顔だ)
彼の顔を見て既視感を抱いた。
(見たことがある、何処だ?何処で見た?・・・ここ三、四年ではないはず。それ以上前だ)
過去の記憶を呼び覚ますが、
「こっちに来なさい」
と私を呼ぶ声に思考が遮られてしまった。
そして、勧められた椅子に腰を下ろすと、
「そのパンを食べなさい。スープもいるか?」
と卓上に置いてあるパンを示された。
「ありがとうございます。出来れば貰いたいです」
固そうなパンである為、お願いをすると、
「少し食べて待っていてくれ」
と言いながら彼は部屋を去った。
(・・・暖炉はやっぱりあったか)
食卓に着く前、リビングらしき部屋で見たものを思い出し、今いる部屋を見渡した。
如何にも高そう、というものは少なく思えるが、少し暗めの落着いた色で統一され、どのものも荘厳な印象を抱かせた。
(やはり、金持ちの商人と考えるのが妥当か?いや、貴族の可能性も否めない。没落ならば金はないはずだから、隠居か?それとも、平民の生活を体験する酔狂か?)
相手の身分に当たりをつけていると、
「待たせた、ぬるかったら言ってくれ」
と彼は言い、私の目の前に陶器の皿が置かれるのだった。
『高等部編』の名称を『高等部 編 (1)』に変更します。
理由に関しましては、一月からの休載後、たぶん復活するはずなので、その復活後に感覚を思い出すため、また文章の練習のために、『閑話 革命的世直し』を数話つかってやろうと思うので。




