第364話 レッツゴー、ウィンズリー領!
「・・・久しぶりだな」
だいたい三年と少しぶりの故郷の空を見上げ、感想を漏らした。
帝都の空と違いはなく思えるが、なんだかこっちの空の方が良く思えます。
たぶん思い出補正とか、色々な要因があるんでしょうけどね。
(えーと、馬車はあるかなー)
路地裏から出て、辺りを見渡す。
街中だというのにほぼ人がおらず、出ている人は浮かない顔をしていた。
(・・・あっ、そうか。そう言えば、戦争が起きそうだったのか)
戦争と争いとは、ほど遠い帝都に居るため、若干忘れていた事に気付いた。
そして、
「馬車出てないかもな」
嫌な可能性を声に漏らした。
ブランドー領とホーグランデン帝国の領地は、直接繋がってはいる。
けれども、今現在は超がつくほどに仲が拗れている。
その為、関所も取り締まり強化されているだろうし、馬車が通ってるかが分からない。
ていうか、情報を売られたり、変なイチャモンをつけられないようにする為、絶対に通すことはないと思う。
「ヤバいな、どうしよう」
少し迷いながら、ホーグランデン帝国と陸続きであり、ブランドー侯爵家と敵対していない領地を思い浮かべた。
無理だろうな、という諦観を抱きつつ、記憶を探っていった。
だが、予想外のことに行けそうな所が思いついた。
「ウィンズリー子爵領、あそこから行けるよな。たぶん」
だいぶ前、奴隷として売られる前に入れられた牢、あそこで出会った水神の血を引いているらしい少女、アンリマの家の領地、あそこの所有権は、なあなあになっててよく分らない。
その為、所有者がヒルビア正教側かブランドー侯爵家側かが分からない!
だから、馬車も通ってるんじゃないか、うん、きっとそうだ。
「・・・ていうか、まずウィンズリー領行きの馬車って通ってるのか?」
ヨシ行こう、と決めたところで、生まれてきた疑問を吐露した。
ウィンズリー領はとても小さい。
どれくらいかというと、屋敷がある少し大きめの村とその周辺数キロ程度だ。
詳しい大きさは知らないが、ブランドー領に比べマジで小っこい。
故に、直通の馬車が通ってるかと聞かれると怪しい。
それに、今思いだしたのだが、治安維持が行われてるかも怪しい。
周辺領が治安維持活動を行っていた、とは聞いたことはあるのですけど、こんなご時世ですし、領地防衛のための戦力温存として、既に活動をやめている可能性を否めない。
「まっ、まあ、取り敢えず馬車乗場行くか」
考え続けるより、さっさと行って確認した方が早いな、と思ったため、記憶を頼りに馬車乗場まで走るのだった。
…………
五分後くらい後、数回迷いはしたが、何とか地図と睨めっこし、無事に辿り着くことが出来た。
さて、馬車についてだ。
まず、やはりホーグランデン帝国行きの馬車はなかった。
直通、ユーレン伯爵領経由そのどちらも休止していた。
次に、ウィンズリー領行き、コイツは存在していた。
まあ、今から二時間ほど待つ必要性があるのだが・・・。
(やはり、辺鄙な所に行くには色々と難しいものがあるな、前世と同じで)
少々嫌気が差しつつ、大人しく待つことにした。
「うーん」
(暇だなー、二時間かー。マジかぁ)
長椅子に腰を下ろし、快晴の空を見上げた。
そうしていると、
「おっ、嬢ちゃん、どうしたんだ?」
声が掛けられた。
(誰だ?)
疑問を抱きながら振り向くと、
「あっ、・・・久しぶりですね、おじさん」
昔、自由解放軍のカシワギ達と別れ、領地に帰還する際、馬車に乗せてくれた商人がいた。
少し、懐かしく思いつつ、
「馬車を待ってるんです」
質問に答えた。
「避難するのか?だったら、乗せていくぞ。勿論、金は頂くがな」
「いえ、避難はしませんよ。人を訪ねるため、ウィンズリー領行きの馬車待ち中です」
「ウィンズリーの方ってことは、学者様にでも会いに行くのか?・・・弟子入りか?」
「いや、そんな訳ありませんよ。ウィンズリー領からも乗り継ぐんです」
「それじゃあ、何処行くつもりなんだ?」
(大声では言えないよな。うん、きっと)
怖じ気づき、
「ちょっ、ちょっと寄ってください」
椅子から立上がってもまだ耳が遠いため、お願いをすると、素直に従ってくれた。
「えっと、ですね。ホーグランデン、隣国の方に話を伺いたいことがいるので」
小さく耳打ちをすると、
「ああと、あっちの方か、・・・ちっとばかし助言をしてやる。知合いのよしみだ今回だけ無料で良い」
と私に言ってきた。
(なんで突然?)
疑問に思っていると、
「あっちの方は人攫いだとか、政府公認の犯罪者集団だとか、こっちの常識とは違うから気を付けろ」
との助言をしてくれた。
(・・・政府公認って、マジ?)
少し疑り深く思っていると、
「まっ、知合いから聞いた話だから、確かではないがな」
という風に笑い、
「最後にあっちの方に行くのもありか」
意味ありげな意味のわからぬ言葉を漏らし、
「決めた、ウィンズリーの方に行くんだろ?乗せてってやる。馬車持ってくるから、待ってろよー」
有無を言わせず走り去ってしまった。
「・・・ぼったくられるかも」
悪い予感を感じつつ、
(二時間待ちからぼったくりか。・・・笑える)
笑いを漏らすのだった。




