第360話 色々と終わってしまいますね、はい
「どうかしましたか?」
起きて少ししたところで、部屋に入ってきたアリアさんに声を掛けた。
「お嬢様にお客様が来ているのですが、・・・体調は大丈夫でしょうか?」
「ええ、はい、大丈夫です。頭痛もしませんし、咳も出来ません」
「そうでしたか、良かったです」
「それで、お客様というのは?」
「皇帝陛下の使いだそうです。曰く、代価の支払いと」
「だいか、・・・代価?」
よく分らず言葉を反芻し、
(昨日の奴だよな、何か代価を貰う約束・・・あっ、思い出した。お金か)
思い出すことに成功した。
「あっ、そういえば、いらしてる使者様は誰ですか?」
聞く必要性はないのだが、一応は聞いておこうの精神で問うと、
「セバスティアン、カイル皇子殿下の執事と名乗っておりました」
と返された。
(どっかで聞いたことがあるな。・・・ああ、思い出した。奴だな)
引っかかりを感じ、少し記憶を探ると直ぐに見つかった。
昔、皇子殿下と初めて会ったときにいた公爵の爺さんだ。
「準備します。手伝ってください」
寝間着に手を掛けながらお願いし、数十分の後、私は公爵の爺さんが待機している部屋の前で立っていた。
(なんだかデジャブを感じる)
だいぶ前もこんなことあったな、と思い出しながら、
「お待たせ致しました、公爵閣下」
セバスティアンの顔を見た。
最後にあったときよりもだいぶ老けていた。
厳しいだったり、怒っているように見えた外見が、如何にも老人という容貌だった。
腰が曲がり、顔にはたくさんの皺を携え、なんというか、だいぶ終わりが近そうな雰囲気をしていた。
「おお、貴公は?」
「ルイ・フォン・ブランドー侯爵の娘、エミリー・ブランドーと申します」
「ほう、おお。・・・貴公か、この度の忠義には畏敬の念を抱く、と褒めてつかわす」
「っ、ありがたき幸せでございます、閣下」
突如として呆けた声から変化したことに、少しだけ圧巻しつつも返事をすると、
「貴公に対し、皇帝陛下よりお言葉を授かっておる。天上のお言葉である、と留意したまえ」
との命令が下され、返事をしようとしたところで、
「『今般の協力、感謝する。褒美として、一千万ほど用意した。通例的に領土、宝石を与えるべきであったが、貴公の望み通りにそれに準ずる報酬を用意した。エリー、貴殿の今後を期待する』だそうだ」
遮られてしまった。
「・・・はっ?」
小さく漏らしながら考える。
(なんだか高くないか?一千万?マジで一千万?銅貨で表すと一千万枚、銀貨で表すと十枚、金貨で表すと一枚!・・・金貨高くね?)
少々あほ面を晒していると、
「貴公、聞こえておったか?」
と問われた。
「もっ、勿論ですが、宜しいのですか?一千万も・・・」
気になり問いかけたのだが、
「知らぬ」
返答は短いものであった。
「えっ?」
「だが、陛下が仰るのならその通りである」
「えっ?」
(この人、可笑しい人なのかも知れない)
何となく思っていると、
「それに、他者であれば土地、もしくは新たな爵位を望んだことであろう故、貴公の報酬には異常性があるとはいえぬ。現金で支払われた点を除けば」
との補足がなされた。
「そうでありましたか、それではありがたく頂戴致します」
「そうしたまえ」
彼はそう言うと、
「それでは、邪魔をした」
と言い残し、部屋を去って行った。
そして、
「すまないが、玄関はどこにあったか?」
と質問しに帰ってきた。
「申し訳ありません、配慮に欠けました」
「いや、こちらこそすまぬ」
「いえいえ」
適当に返事をして、
「アリアさん、お願いできます?」
という風に任せて、去って行くところで、
「忘れておった」
ふざけたことを言いながら戻ってきた。
「えっ?」
「貴公に報酬を渡し忘れていた」
「あっ、はい、そうでしたね」
「これをやろう」
ということでズッスリとお金の詰まった袋を手に入れました。
重さ的に考え、金貨であると考えづらいので、たぶん銀貨と銅貨が入っているのだと思います。
「ありがとうございます」
お礼を言い、去って行く背中が見えなくなったところで、自室に帰った。
そして、
「うん、えーと、どうしようかな、・・・しまうか」
自分の影に落とし、闇魔法の倉庫に仕舞った。
盗まれたりしたら困るので。
「はあ、さて、これでこの件は終わりかな」
溜息交じりに呟き、靴を脱いで、椅子の上で両膝を両腕で抱える姿勢、所謂体育座りをして、
「現状出来る保険は終わりかな。・・・はあ、さて、どうなったものかな」
ブランドー侯爵家が、正教会、皇室どちらに傾くかが分からず、恐怖感を抱くのだった。
…………
報酬を貰った翌日、手紙が一通届いた。
内容としては、
『突然のことですまなく思うが、本題を記す。一つに、正教との交渉は決裂する可能性が大きい。故に、周囲に気を付けてくれ、暗殺される可能性が否めない。出来ることならば、護衛を連れて欲しい。二つ目に休学をすることも可能だが、君はどうしたい?三つ目に、このようになってしまってすまなく思う』
のように乱雑で尚且つ、字も汚いものだった。
「・・・うーん、はあ、そうか」
少々呟きつつ、返事の手紙を記した。
内容を端的に纏めるならば、
『残念に思うが、しょうがなくも思う。私的には、正教を恐れ、屈服したと思われるのはどうかと思いますので、学院への登校は続けます』
というものとなった。




