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第352話 裏切り者は出て行け!

「さて、名乗りも終わったところで、まだ諸君の中に、この裁判の不義を訴えるものはいるかね?」

 私は現在、議会で行われた裁判にて、闖入者が起こってしまい、ついでに色々と疑惑が巻き起こり、続行ができないために、騒ぎを納めるため闖入者となった私が声を上げる。


 すると、

「貴方様が、蹴飛ばした時、ヤツは声一つあげなかっただろう」

「そうだ、そうだ」

 のように、聞こえなかった人が声をあげた。


(流石に小さくて、二階までは無理があったか)

 少々後悔しながら、

「君、少年よ、君は聞こえたかね」

 一番近くにいた兵士に声をかける。


「もっ、勿論であります!」

「声を聞いた、だそうだ諸君」

「そいつが嘘を吐いてる!」

「ほう、信じられないか」


 疑心を抱いた民衆は恐ろしいな、と思いつつも、

「少年、君の腰に掛かるそれを貸してはくれないか?」

 直剣を指しながら言うと、

「もっ、勿論であります!」

 先程と同じ回答がなされ、

「ありがとう」

 抜き身の剣を手に入れた。


「では、諸君、コヤツの最期を見届けてもらおうか」

 聞かせるために声を張り、そして剣を振り上げ、力の限り首の辺りに振り下ろし、

「やっ、やめ!狂ってる!」

 叫び声が聞こえたところで、そのまま振り下ろし、ヤツの首の皮膚をほんの少し斬り裂き、地面を抉った。


「ひっ、おまっ」

 怯えた声が発せられ、それが静まり返った議会に響くのを聞き届け、

「さて、諸君、これでも不義を疑うかね?」

 剣を床に突き付け問いかけた。


 だが、特に返事が返されることはなかったため、

「君、そこの君、君に問おう、君はどう思うかね?」

 ギャラリーの最前列で、先程まで声を張っていた青年に指を指した。


「えっ、あっ、僕、ですか?」

「ああ、君だとも、君はこの裁判が公平公正さに欠ける、と思うかね?」

「えっ、・・・思いません」

「そうか、そうか、ありがとう。あーと、君は誰だね?」

「あっ、アランです」

「そうか、ありがとうアラン。皆、勇気ある青年に拍手を」


 パチパチと断続的であった拍手が大きくなり、静まり始めたところで、

「さて、・・・それでは、君はどう思う?そこの厳つい大男よ」

 入口から見て右手の方に居る髭面の男を指差した。


「おっ、俺か?」

「その通りだ。君はどう思うかね?」

「オラァ、少々怪しいように思えます」

「どうしてだね?」

「それは・・・」

「理由はないのかね?」


 ゆっくりと顔を背けられた。

(欲しい意見が手に入った)

 少し喜びつつ、

「ああと、名前はなんだね?」

 と問いかけた。


「デニス、です」

「ありがとうデニス。皆、勇敢な大男に盛大な拍手を」


 煩いと感じる音圧に少し驚きつつ、

「さて、先のデニスのように不義、不正を勘ぐる者は手を挙げて欲しい」

 議長を背にし、右から左、左から右へと視線を移す。


「ふむ、なるほど」

 数えてないので詳しい数は分からぬが、相当数の手の数に声を漏らした後、

「さて、諸君らはどうして不義を疑うのだね?」

 問いかけたのだが、声はあがらずただ沈黙が流れた。


「では、理由はないのだね。君と君、それと君も同じか?同じならば、ハンカチでも振ってくれ」

 適当に人を指すと、おずおずと気まずそうにハンカチが振られた。


「そうか、・・・君達が高潔な裁判を疑うのはしょうがないだろう。だが、だがだよ、さきの闖入者は何者かね?君、兵役の君は分かるか?」

「ヒルビア正教の者であります!」

「そうか、ありがとう。では、何故に正教の者であるといえる?」

「鎧であります」

「鎧か、ではそれ以外には?」

「えっと」

「ありがとう。君は?」

「イジーであります!」

「そうか、ありがとうイジー。この者に拍手を」


 拍手をする人達の顔を見る。

 彼らは『何を言っているんだ?』と言いたげな顔をしていた。


「さて、それではさきの闖入者は信用に値するのだろうか?こう言っては失礼かも知れぬが、彼らが盗賊、追い剥ぎの類である可能性は捨てきれない。何故か、それは鎧などと言う薄い物証しかないからだ。顔を晒しては居るが、奴らは所詮は身元が知れぬ闖入者であるのだ」

 少しだけ顔に微笑みを浮かべて続ける。


「それに、賢明な帝国臣民の諸君は分かると思うが、公正と公平、高潔と潔癖、清純と純潔を司る我らの、いや、君達の、『臣民』の代表である庶民院の議長がそのようなことをし得るだろうか?臣民の権利を守るため、君達の身体を護るため、国家を導く代表の一人とし責務を尽くし、過去には不当な元老議会の設置に徹底的に反抗した君達の代表、君達の信託により、陛下の信託により任じられた議長を、信託した君達が裏切るのか?」

 少し深呼吸をして続けた。

 シンッと静まりかえった空気が痛かった。


「今一度言おう。君達は、祖国のため、陛下のため、君達自身のため、粉骨砕身で尽くした君達の代表を、名を、ましてや所属する組織すら名乗りことのなかった者達の言葉だけで、君達の為に尽くした君達の代表を君達のただの疑心だけで” 裏切る ”のか?」

 空気が凍ったように冷たく感じた。

 沢山言葉を発した喉が、肺が痛み、心臓は大きく慟哭した。


「今、君達に問う。君達は、君達の代表を裏切るのか?はたまた君達の代表を信じ、再び従うのか?裏切り者の痴れ者は ”今” この瞬間、この議会から出て行け!信ずる賢人は、声を挙げろ!」

 言いたいことを言い切り、緊張の糸が途切れるのを感じると、『ウワァー』のような声が庶民議会に響き分かった。


 そして、寝不足での無理がたったのか、少しだけくらっとした。

「君、イジーと言ったか?席を借りても良いか?」

 目眩を少し感じながら、手短な先程名前を聞いた人に声を掛ける。


「もっ、勿論であります!ブランドー様」

「ありがとう、イジー」


 声を発していた時よりも心臓が大きく慟哭した。

 何故かはよく分らないが、たぶんアドレナリンとかのホルモンが薄まったんだと思う。


「ハア、良かった」

 椅子に腰を下ろし、イジー青年が離れていったところで、声を漏らすと、

「頑張ってましたね。お嬢様」

 アースベルトの声が聞こえてきた。


「頑張りましたよ。凄く」

「大丈夫ですか?」

「緊張で吐きそうです」

「そっちの方も心配ですが、立眩みの方です」

「そっちの方は、まあ大丈夫ですよ」


 彼に微笑みながら返すと、彼の背後から近づいてくる人が見えた。

(あっ、立たないと)

 急いで立ち上がろうとすると、

「そのままで構わぬ」

 制止の言葉を掛けられるのだった。

今回の演説の参考は、映画『ウィンストン・チャーチル』です。

アレはマジで神映画で、演説の大きな参考になる部分がありました。地下鉄の部分。

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