第350話 古い因縁の人
色々とお手伝いをしたかったのですが、断られ、色々とあって今はアースベルトを連れて、帝都を適当に散歩しています。
「・・・何か楽しいところ知りませんか?」
このまま特に何も考えず、適当に散策するだけでも良いのだが、なんだか時間を無駄に浪費しているような気がしてきたので、アースベルトに問いかける。
「賭場は知ってますよ」
「・・・聞いたの間違いでした」
少しだけ後悔をしながら、辺りを見渡した。
そして、黄ばんだ紙らしきものを回収してる人を見つけた。
「あれってなんですか?」
「手配書だと思いますよ」
「へえ、回収してるってことは捕まったんですかね」
「さあ?死体が見つかったという可能性もありますから、一概には言えません。それに、あの爺さんが賞金稼ぎ、もしくは手配書を剥がしてる賞金首ってこともありますから」
「あの人が賞金稼ぎはないと思いますよ?腰も曲がってますし」
「可能性の話、ですから」
(ないだろ現実的に考えて。大衆小説であるまいし)
少し馬鹿にしながらも、
「どんな手配書なのか気になりますね」
本当に気になってしまったので呟き、
「もし、少々宜しいですか?」
止められても嫌なので、逃げるように回収してる人に近づき、声を掛けた。
すると、少し驚いたような反応を見せたのち、
「やあ、お嬢さん。何用かな?」
優しき微笑みかけてきた。
「気になったのだけど、それはどうして回収してるの?」
一つめの質問をすると、
「手配書の忌々しい男が捕まったんだ」
との感情が籠もった返事がされた。
「忌々しい男ですか、その人は何を?」
「古今東西で悪逆の限りを尽くした大悪党だ」
(殺人とか強盗とかかな?)
詳しく聞くのは藪蛇になりそうだったので、推測だけで終わらせることにし、
「大悪党がどの様な面をしているのか、見てみたいものです」
話を終わらせようとすると、
「今日の午後だから、もう直ぐコイツの裁判が議会で開廷されるから、見に行くと良い」
と面白そうなことを教えてくれた。
「ありがとうございました」
回収していたおじさんにお礼を言い、
「さて、面白い事を聞きました。行きますよ」
とアースベルトに言いながら、
(そう言えば、どうして裁判を議会で行うんだ?)
少々の疑問を抱いた。
なので、帝国の庶民議会の方に歩きながら、
「どうして、裁判所で行わないんですかね。裁判」
アースベルトに問いかけた。
すると、
「・・・大きな声では言えないんですけど、ヒルビア正教会からの脱却のため、たしか裁判所が使えないんです。あっち運営なので」
と答えてくれた。
「それじゃあ、なんで新しいものを作らないんですか?」
「妨害工作のせいだったはずです」
「そんなものがあるんですか?」
「はい、放火だったり、毒が撒かれたりとか」
「それって、非を責めれないんですか?あっち側の」
「決定的な証拠もなければ、たしか知らぬ存ぜぬを通されてるので無理みたいです」
「へえ」
と適当に返事をしながら、議会に到着した。
そして、
「えっと、どれが庶民議会なんですか?」
疑問を呈した。
我らが祖国シャール帝国には、正式には議会が三つあります。
庶民院・議会、貴族院・議会と名前の通りの二つの議会、それと、庶民院の代表、伯爵以下の下級貴族による下院、それと侯爵または辺境伯以上の上級貴族、元老院による上院の二つにより形成される帝国議会で三つめ。
そして、最後に先程名前が出た非公式の、旧帝国議会と癒着で力を持った古狸達の元老院・議会、のように実質四つの議会と不思議な状態になっております。
なので、目の前には三つの建物があります。
さて、どれが庶民議会なのでしょうか?
「あの、分かりますか?アースベルト」
「・・・たぶん、一番左のものだと思います。昔聞いた話によると、左から庶民、帝国、貴族の順番だと聞いていたので」
そうなんだ、と少し驚きながら、
「そういえば、元老院って何処なのですか?」
気になった事を小声で問いかけた。
一応は正式には議会でないのに加え、庶民院と一部の貴族院議員からは敵視されているので、可能な限りの小声を出した。
「元老院は別の場所にありますね」
「どうしてですか?」
「あれは議会ではないですし、建てようとしたところ、庶民議会の議長が抗議活動したらしいので」
「へえ、そんなことがあったんですか。・・・その議長っていつの議長ですか?」
「現議長らしいです。昔のただの議員だった時代にやってたらしいですよ」
(あの爺さんってそんな事やってたんだ)
少し前の舞踏会で遠目に見た人を思い出そうとしたところで、
「あっ、そういえば」
裁判を忘れている、と思い出して左の建物に歩き出した。
そして、見つけた人の波に混ざり、罪人を見下ろせるギャラリーに腰を下ろした。
本来の用途としては、たぶん一階の議会の様子を観察、監視する為の場所だろう。
(良かったー。間に合ったー)
少し安堵しながら、口をつぐんだ。
入る前、『静粛に!声や拍手をしたら追い出すぞ!』と怒鳴っている人が居たので、独り言は控えよう、と思ったのです。
一階を見下ろしていると、
(そういえば、アースベルトってついてきてるよな?)
気になったので辺りを見渡した。
だが、驚きなことに彼はいなかった。
(マジか、撒いちゃったか)
少々不味い事になった、と思い始めていると罪人が下の議会に入り、そして、
「あっ」
短く声を漏らした。
議会に入場してきた手枷と足枷をされた男、奴には見覚えがあった。
古い因縁の相手であり、私を一度負かした男。奴は昔、奴隷として自由解放軍に会う経緯となったローブの男であったのだ。
ローブの男です。生きていて、扱いが大変だったキャラクターがやっと出せました。
少しネタバレだけど、処分に関しては、妥当なものにするつもり。死罪ではなく。




