第348話 いやーはい。完敗ですね。・・・信用できません。
「・・・何故に騙すようなことを?」
馬鹿だ、と思うような演技をしていたフォルティナに質問をしつつ、
(はあ、欺かれた。完敗かなー。これは。・・・判断を下すのが早計だったか)
自分の敗因を少し分析していた。
「どうしてだと思うかしら?」
「ハハハ、そうですね。・・・快楽的だと嬉しいのですが、試金石ですか?」
「フフフ」
「肯定、として受取ります」
(・・・さて、どうしたものかな?軽んじたことを責め立てられるのか、それとも不敬だとして訴えられるか)
最悪の可能性を考えつつ、紅茶を少しだけ啜った。
つい先程まで熱々だったはずなのに、冷たいように思えた。
「・・・どうして試すような真似を?」
「どうしてだと思う?」
「分かりかねますが、・・・私を傘下にでも加えるつもりだったのですか?」
「フフフ、正解」
溜息を漏らしそうになりながらも、
「それに何か利益はあるのですか?」
との質問を投げかけた。
単純に物理的な距離が離れているのに加え、経済的な繋がりもなく、たいした利益を感じられなかったのだ。
私達ブランドー侯爵家は西方貴族、彼女たちファイアウェル大公家は東方貴族、とまず枠組みからしても違うのだし。
「利益はあるわ」
「どんなものです?」
「貿易は難しいかもだけど、貴方達が下ったとあれば、影響力は他の追随を許さないでしょう?」
「それは三大公でのお話ですか?」
「フフフ、どう思う?」
(皇室を含めて言っているなら不敬だな)
心中で思いながら、
「私が貴女の傘下に下ったとして、それでブランドー侯爵家全体が貴方達の仲間になった、とは決して言えないと思いますが?」
反駁をした。
「そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれないわ」
「何を言いたいんです?」
「貴女の主観だとそうかも知れないけど、周りはどう判断するかしら?」
「・・・ブランドー侯爵家が下ったように見せ、寄ってきた日和見主義者達を傘下に加え、影響力を伸ばそう、と考えていらっしゃるのですか?」
「フフフ、どうかしら?」
(・・・嗚呼、この人はダメだな。敵だ、国家の)
私の既得権益を害し、私の名に泥を塗る野心を持つ女だ、と気付いた。
「それを本気で仰っているのでしたら、私の一存でファイアウェル大公家との関係を断絶し、通報しますよ。本気ですか?」
危険ではあるかも知れないが、最後の確認を取るつもりで言うと、
「そんなこと出来るのかしら?皇帝陛っ」
少し噛み、咳払いをしたのち、
「・・・保守的なあのお方に貴女の言葉が信じられるかしら?」
続きが述べられた。
「そうですか、そうですか。分かりました。冗談ではないのですね」
相手の発言に少し違和感を抱きつつも、椅子から立ち去ろうとすると、
「フフフ、冗談よ」
予想通り、よっ・・・予想通り?
「・・・はっ?」
想定外の返答が帰ってきた。
先程までと異なり、ころころと笑う彼女に、
「あのっ、もう一度言って貰えます?」
再度確認を取ると、
「冗談よ」
聞いた言葉と同じ言葉だった。
「・・・詳しいお話を伺っても?」
再度椅子に座り、どうしてまた騙したのか、という旨を問いかけると、
「貴女が国賊になり得る可能性のある人に出会ったら、どんな対応をするのかが気になったの」
少し笑ったように返された。
「はあ、はあ。なるほど」
状況を何となく理解し始めた。
どうやら再度騙され、試されていたようだ。
「複数個質問したいのですが、宜しいですね」
「ええ、構わないわ」
「一つ、どうしてこのような事を」
「フフフ、少し前に貴女が考えたとおり、貴女を試す為よ」
「二つ、どうして試すような真似を?」
「他の大公家の人と陛下にね、言われたのよ。貴女がどんな子なのか調べて、って」
(だからって、他に手段があったのでは?』
ちょっとした疑問を抱きつつ、
「・・・それで、お眼鏡にかないましたかね?」
少し怖くなりながら、質問をした。
「私は良いと思ったわ」
「ハハハ、ありがとうございます」
(・・・嘘かな。怖いなー。何処までが嘘だったのかが分からない)
相手の発言が信じられず、少しだけ緊張しながら、会話を続けた。
だが、その後は特に危ない発言もなく、嘘らしいものもなくお茶会はお開きになりました。
私が思うことは一つです。
嘘か本当かが分からず、フォルティナは信用することが難しい、と。
「はあ」
という短い溜息を馬車で漏らしていると、
「どうしました?お嬢様」
心配を掛けたのかアリアさんより声を掛けられるのだった。
_____視点変更______
「フォルティナお嬢様、件の娘はどうでしたか?」
お茶会がお開きになり久しい会場で、一人寂しくお茶を口にしていると、執事の声が響いた。
「うーん、そうね。・・・悪い子ではなさそう」
彼女の言葉や態度から考えたことを返し、
「でも、少し甘くて、考えが足りないように思えるわ」
欠点を続けた。
「そうでしょうか?」
「あの子、自分を危険に晒す警告もするし、それに短絡的でしょう」
「悪性は少ないが浅はか、と報告すれば宜しいでしょうか?」
「ええ、でも『短絡的だけど愚者ではない。経験が足りないように思える』と付け加えて頂戴」
「承知致しました」
会話を終え、部屋を出て行こうとする執事に、
「そういえば、貴男の目にはあの子はどう映った?」
と声を掛けた。
「私めには、危険な関わらない方が良い少女に思えました」
「どうして?」
「表情に出やすく、そのうえ周りを見ることが出来ていなかったため」
「そうかしら?あの子、殆ど感情を見せなかったと思うわよ。何も思ってなかっただけの可能性もあるけど」
私が言葉を返すと、
「どうして擁護を?」
一切分からない、と言った様子で問われた。
「だって、私はあの子のこと結構好きなんだもの」
疑問に答えると、執事はこちらを振り向いた。
「だって、可愛らしいでしょう?無駄にませた私に比べ、大変に可愛らしい子よ」
理解が出来ない、と語るかのような表情に、
「それに、あの子、本調子じゃないように思えたわ。緊張していたし、たぶん体調が悪かったのかしら?少し顔色が悪かったわ」
と言葉を続けるのだった。
再来週、2023年11月20日まで休載です。
理由は諸事情。




