第346話 お茶会の始まりです!・・・怖いな。よく分らない。
少しだけ頭バグってたから、可笑しいかも
「はあ、ふう」
大欠伸をしながら、ベッドに後頭部から倒れた。
・・・本日は、ファイアウェル大公家のフォルティナとの茶会の日ではあるのだが、とても眠い。
昨日、少しだけ遅く眠ったのは事実ではあるのだが、不思議と眠すぎる。
「・・・睡眠が浅かったのかな?」
ありえそうな可能性を考え、
「まあ、それ以外の可能性はないだろうな」
と納得させた。
「ハア、はあ」
溜息を繰り返しながら、ベッドから起き上がり、姿見に映る姿を見た。
隈が浮かび、何時もより小さく見えた。・・・なんというか、少しだけやつれていた。
「・・・何でだ?」
流石にこれ程やつれる心当たりはなかった。
高確率で寝不足のせいなのだろうが、寝不足だけでこんなになるのか?
「ハア。まあ、いいや」
きっと化粧でごまかせるだろうし、それにまだ一応大丈夫そうなので、そう信じ込むことにした。
ヤバい、ヤバい、と騒いで、わざわざ無駄に心配事を増やしたくはないですしね。
「・・・ヨシ、頑張るか」
頬を叩き、部屋から出て行った。
そして、
「アリアさん、アリアさーん」
少しだけ捜すのに時間が掛かったが、無事お化粧をして貰い、見せたくないものは全て隠した。
(うん、完璧、完璧)
鏡に映る姿に思いつつも、
「えっと、あとどれくらいで出発ですか?」
髪を弄くってるアリアさんに問いかけた。
「あと・・・一時間ほどです」
「まだ結構時間ありますね」
(化粧とかして貰うの早すぎたな)
少しの後悔を抱きながら、ただ呆然とされるがまま髪の毛を弄られ、その後は色々と行い、時間を潰し、時間になり、馬車に揺られてファイアウェル大公家の屋敷に到着しました。
(うわぁー、デカい)
ブランドー家の屋敷より二周り、・・・いや、もっとデカいな、えーと取り敢えずデカかったので感想を漏らしていると、
「ごきげんよう、エミリー様」
といつの間にか目の前に現れた人に挨拶をされた。
(ごきげんよう、って・・・)
使い慣れていないために少し戸惑いつつも、
「ごっ、ごきげんよう、フォルティナ様」
頑張って、出迎えてくれた方に返答をした。
すると、
「フフフ」
不格好だったのか、少し笑われてしまった。
(くっ、うっ、恥ずかしい)
少し使う機会を増やそう、と思いながら、
「申し訳ありません、言い慣れていないもので」
弁明を行った。
「いえいえ、こちらこそ笑ってしまってごめんなさい」
少しぼやっとした様子で返し、
「ついてきて下さいます?」
と私に言い、返答を待たずして歩き出してしまった。
(・・・つかみ所がない、と言おうか、自己中心的と言おうか)
だいぶ戸惑い、
「えっ?」
疑問を呈しながら、彼女の背中を追った。
そして、一つの円卓が置かれた部屋に入ったところで、
「えーと、ここに座って下さらない?」
椅子を指し示された。
「あっ、はい。分かりました」
返事をしながら、
(・・・なんで机が一つしかないんだ?ていうか、椅子も二つしかないし)
まるで、私とフォルティナが二人っきりになるように謀られた状況に、疑問を抱き始めていると、
「座って下さらないのですか?」
キョトンした表情で問われた。
「いえ、申し訳ありません。直ぐに座ります」
「フフフ・・・どうかしたのかしら?落ち着かないようだけど」
「あのっ、私とフォルティナ様以外の方はいらっしゃらないのですか?」
考えるよりも、聞いた方が早い、と考えて返答をすると、
「ええ、そうよ」
予想外の返答が成された。
(・・・たいして交友関係のない人間と二人きりになり、何か利益があるのか?)
訝しげに彼女を見ていると、
「お茶、飲むかしら?」
あっけらかんとした声で問いかけられた。
(少し怖いな)
若干の恐怖を感じながらも、
「宜しいのなら下さい」
お願いをすることにした。
「そう、嬉しいわ。私、お茶が好きでたくさんあるのだけど、どれが良いとかあるかしら?」
「いえ、ありません。殆ど味が分からないもので」
「そう?それじゃあ、適当に入れて貰いましょうか」
言葉を句切ると、彼女はベルのようなものをならし、すぐに近づいてきた執事によく聞こえなかったが、たぶんお茶に関する事を頼み、再度こちらに視線を戻し、
「少々待って下さい」
笑顔を浮かべていた。
(よく分らない。この人のこと、苦手かも知れない)
人間的な箇所、なんというのか、感情的な部分が見受けられずにだいぶ怖かった。
これまでの人生の中で、一度だけ目の前の人間と同類を見たことはある。
だが、それに勝るほどに相手が何を考えているのかが分からなかった。
「かっ、構いませんよ」
「どうかしたのかしら?さっきから、少しぎこちないけれど・・・。調子でも悪いの?」
「大丈夫です」
「そう?それなら良いのだけど」
(会話を続けるのが難しい。・・・相手側に主導権を握られているから、いや、そう思っているからか?)
話を振って人間的側面を見つけよう、と考えていると、
「こちら、極東の─────」
突然、近くから声が響き、ビクッと身体を跳ねさせた。
(うっ、へっ、はっ?)
よく分らない言葉を漏らしつつ、声の方を向くと、壮年の男が立っていた。すぐには気づけなかったが、先程の執事だ。
(驚いた。寿命が縮まる・・・)
ドクドクと大きな鼓動を鎮めようと深呼吸を繰り返し、冷静さを取り戻していると、
「大丈夫?ごめんなさいね、貴男も謝りなさい」
「申し訳ありません。エミリー様」
のように謝罪をされた。
「はい、大丈夫です」
「そう、それなら良かったわ」
(少し焦ってたのかな?)
彼女の若干安堵したような声に気付き、
「あっ」
と声を漏らした。
「どうかしたの?」
「いっ、いえ、何でもありません」
「そう?それじゃあ、どうして声を?」
「アハハ、気にしないで頂けると嬉しいです」
「フフフ、じゃあ忘れるわ」
彼女との問答をしながら、
(感情は確かにあるなら。・・・良かった)
少しだけ安心するのだった。
やっぱり、人には当然感情があるよな。良かった。
はあ、怖かったー。良かったー。ふぅ、ヨシっ。
安堵し、更に感情を露呈させようと考えていると、
「・・・お茶、飲まないの?」
よく分らないことを問われた。
「お茶?」
「ええ、さっき置かれたでしょう」
「・・・へっ?」
驚きながら、テーブルを見ると確かに紅茶が置かれていた。
先程の執事が置いた以外には考えられないのだが、
(・・・いつの間に?)
と思いつつ、
「あっ、頂きます」
紅茶を啜るのだった。




