第341話 あっ、名前だけは聞いたことのある貴族!
カイル皇子殿下と踊りました。
そして、終わった後、
「ありがとうございます」
と声を掛けました。
「こちらこそ、ありがとう・・・それと、大丈夫か?転んでいたが」
踊っているときにも聞かれたことに、
(心配性な人だな)
申し訳なくなりつつ、
「先程言ったとおり、勿論大丈夫です。少し躓いただけですから」
答えた。
「ああ、そうか」
少し適当に思える返事に、
「ええ勿論です。・・・カイル皇子殿下も大丈夫でしたか?」
との質問をしてみた。
すると、
「何がだ?」
と返された。
「えっと、体重とか、大丈夫でしたか?腕とか、痛めていませんか?」
心中で、
(色々とドレスのせいで体重マシマシになってるから、少し怖いな)
と思いながら質問をすると、
「大丈夫だ。僕は力持ちだからな」
笑ったように返答された。
「ふふふ、そうですね」
少し笑いながら、話を続けようとしたら、執事の人が近づいてきて、
「皇子殿下、ご歓談をお邪魔して申し訳ありませんが」
と声を掛け、少し耳打ちをした。
そして、
「・・・エミリー嬢、申し訳ない。他の人とも踊らなければならなくなった」
苦虫を噛む潰したような苦々しい表情で言われた。
「いえ、大丈夫です。そこまで気に病まなくても」
「ありがとう」
と言う感じに少し話した後、私達は別れました。
…………
(・・・さて、誰か話しかけれそうな人)
皇子殿下と別れ、少し歩き回り、暇そうな人を探した。
ちなみに、誰にもダンスの誘いを受けることはなかった。
遠巻きに見られたり、少し私のことについて話しているのを見ましたが、たぶん不利益を被りたくないのでしょう。
私の家自体は、中立といっても少しだけ皇帝派閥の敵、ヒルビア正教会に寄っている印象がありますし、それに今現在、色々と危うい事もありますのでね。
それに、私自身のスタンスがしられていないために、関わりづらいと言うのもあるでしょうし。
「はあ」
少し溜息を吐き、
(本当に誰か居ないかな?話しかけれそうな人)
再度辺りを見渡す。
そして、
「あっ」
暇そうな人を見つけた。
(何か俯いてて、一人っきり。・・・私と同類かな?)
特徴的な人間的ではない、暗い朱に近い髪を垂れさせ、俯いた少女に思い、
「ねえ、アリアさん。あの人って、ブラット公爵家の令嬢様ですか?」
万年金欠で、色々と厳しい状況の公爵家ではないか、と問いかけた。
「・・・そのようですね。あの髪色から考えて」
「やっぱりそうですよね。・・・どうかしたのですかね?」
「さあ、分かりかねます」
どうして一人で、俯きがちに過ごしているのだろか、と考えてみると、直ぐに理由が思い付いた。
たぶん公爵家自体に金がないからだろう。
関わったところで、たいした産業もないためにメリットが少なく、それに加えて妙に仲良くなってしまったら、金の無心が来るかも知れない。
そして、爵位が高いために無下にするのも問題がある為に、そのままズルズルと金を貸し続けて、双方が潰れる可能性も捨てきれないし。
「・・・話しかけても良いですか?」
不利益は色々と被る可能性はあるのだが、もし勘当されたときに助けてくれそうだな、と思いアリアさんに問いかけると、
「お嬢様がお決め下さい」
委任の言葉が聞けた。
「ありがとうございます」
微笑み、少女の元へ歩いて行った。
「楽しんでいますか?」
「ええ、まあ・・・」
(愚問だったな)
と思いつつ、
「えーと、貴女はブラット公爵家の子女ですよね?」
確認をすると、
「そうだけど」
お前誰だ、と言わんばかりの顔で言われた。
「あっ、私、ブランドー侯爵家の娘、エミリー・ブランドーと申します。貴女は?」
「アイビー、アイビー・ブラット」
「へぇ、良い名前ですね」
(植物の名前だっけ?)
記憶を辿りながら、いまだ不審を抱いている顔をチラッと見た。
「えーと、・・・何か話しませんか?アイビー様」
「どうして私が貴女と?」
「何と言いましょうか、・・・お父様から度々お話を伺っていたので、興味がありまして」
(侯爵家の名前に少し関係してる、って話聞いたし、嘘ではないな)
少しの罪悪感と、バレてしまった時の恐怖があるが、今は目を瞑っておくことにした。
なんだか可哀想だ、という少しの善意と、甘受できそうな利益から考えて。
「それで、お話はしてくれますか?」
「・・・良いわ」
なんだか少し調子が悪そうだな。
人に酔いでもしたのかな?それとも、お酒でも飲んだのか?
「えーと、アイビー様は学生ですよね?」
「ええ。中等部三年よ」
「中等部三年、ですか・・・勉強とか難しいのですか?」
「いや何も難しくないわよ」
「そうなのですか?頭良いんですね」
「頭なんて良くないわ。ただ出来るだけだもの」
(それが頭が良い、って言うと思うのだけど、違うのかな?)
少し言っていることが分からないな、と思いつつも、
「アイビー様、いつか勉強教えてくださいませんか?私、少し勉強が苦手で」
つまらない嘘を吐き、彼女に頼み事をした。
(唐突だけど大丈夫だったかな?・・断られるだろうな)
何とかパイプを創り出し、勘当されたときに擁護してくれるように、と考えるのと、会話が苦しいな、と思い提案した事への返答は、
「良いわよ」
と予想外のものであった。
(あっ、良いんだ)
少し驚きながら、ぼそっとした。
「どうせ、私に出来ることは限られてるでしょうけど」
自嘲的な言葉を耳にした。
(自己肯定感が過剰に低いのか、それとも諦観かな?)
不得意な心理分析などと言う事をしながら、
「えーと、アイビー様はいつ予定が空いていますか?」
と予定を決めていくのでした。
・・・さて、勉強会の予定は今日から二日後に決まりました。
そして、決めた後は別れて、私は大公家に話しかけたり、少しだけ帝国議会の両議長とも話しました。
まあ、殆ど話が出来なくはありましたが、ファイアウェル大公家のフォルティナさんとは茶会の予定が取り付けれました。
「今度お茶でも飲まない」
と誘われたので、四日後に予定が決まり、その後はアタックしてもたいした収穫がなく、パーティーは終わりました。
・・・話しかけた諸貴族には、多少は顔と名前を覚えて頂けたら嬉しいのですが。
あっ、そういえば皇帝陛下とは、もう一度対面する機会があって、三日後には王城へ参ることになりました。
なんの話をするのかが気になります。
政治が関わるらしいので、だいぶ怖いですね。
次回から『コネ作り編』です。




