第340話 舞踏です。とても、とっても緊張しますね。はい
皇帝陛下と少しお話をして、今はカイル皇子殿下と対面しています。
話す内容がなくて、気まずくて、気まずくて仕方がありませんがね。
・・・婚約者、としての仲は悪くはない、と思います。
でも、決して良くはないのですよね。
殆ど話したことはありませんし、互いのことをよく知っている訳ではないのですし。
「・・・えっと、・・・」
何か話そう、と思い声を発したのだが、特に後先考えなかった見切り発車のために、挑戦は潰えた。
そして、焦燥に駆られ、そう言えば、と話題を思いつき、
「皇子殿下!」
「そういえば」
声が被ってしまった。
あっ、と自己の過失を呪いつつ、
「どうぞ」
話を譲ると、
「いや、構わない、君が最初に話してくれ」
譲り返された。
気を遣わせてしまった事を後悔しながら、
「ありがとうございます」
とお礼を言い、
「カイル皇子殿下、今回はこのような場に招待して頂き、ありがとうございます。私めの身に余る幸福です」
招待してくれてありがとう、という旨を伝えた。
「・・・そこまで卑下しなくても構わないよ」
「分かりました。申し訳ありません」
少し悲しそうな顔を見ながら、
(流石に私自身のことを落としすぎたか。・・・反省点です。貴族なのですから、下に見られぬよう考えなければいけないのに)
焦った故に出た発言を反省した。
「大丈夫だ、問題ない」
との謝罪に対する返事を聞き、少し沈黙が流れたあと、
「そっ、それで、お話、というのは?」
先程言おうとしていたことを問いかけた。
「・・・僕と一緒に踊ってくれないか?」
「はい?勿論構いませんが・・・」
(婚約者なんだから、当然だと思うのだけど・・・)
心中で思いながら、
「まだ少し時間がありますね。・・・お話でもしましょうか。・・・そういえば、会場に来るのが少し遅かったように思いますけど、何を行っていたのですか?」
と時間つぶしのために、少し気になっていたことを問いかけた。
「裏で少しばかり話をしていたんだ。父上と母上、議会の議長、副議長、三大公の皆で」
「皇后様と副議長達、それと大公の当主の皆様は、此処に出席していないようですが、何か問題でもあったのですか?」
「いや、母上達は色々な調整をしてるらしい」
「調整ですか?」
「ああ、詳しくは教えて貰っていないが」
(皇帝ではなく、皇后であることから、祭事とかかな?)
色々と考えつつも、その後もお話を続けていると、皇帝陛下の元に一人の女性がいつの間にか現れていた。
丁度話も一区切り着いていたので、
「あの、カイル皇子殿下、あの方は?」
問いかけると、
「あれは・・・母上だな」
少し目を凝らし、教えてくれた。
(あっ、と言う事はもう少しで始まるんだな)
察しつつ、アリアさんに、
「少し飲み物を持ってきて貰っても構いませんか」
とお願いをした。
了承の返事を聞き、
「ありがとうございます」
お礼を返しつつ思う。
(いやあ、緊張する)
と。
さて、この国の舞踏会の踊る順番は、偉い人順である。
なので、まず皇帝陛下と一番地位の高い女性、今回は皇后様が踊ります。所謂古典舞踊を。
そして、私は侯爵家と結構な地位でありますし、それに相方である皇子殿下の地位が相当に高いので、たぶん二番目くらいに踊ることになるのではないでしょうか?
手持ち無沙汰に、皇帝皇后両陛下がご歓談なさっているのを見ていると、
「お嬢様、お飲み物をお持ちしました」
とアリアさんから頼んだものが手渡された。
「あっ、ありがとうございます」
お礼を言いつつ、飲み物を口に含んだ。
そして、嚥下した後、
「もう少しですね。カイル皇子殿下」
と声を掛け、少しでも緊張を和らげよう、と努力をした。
「あっ、ああ」
私と同様に少し緊張した声を聞き、
(私だけではなかったんだな。良かった)
ちょっとばかし安心をした。
そんなこんなで時間が経ち、皇帝皇后両陛下はお話が終わったのか、玉座らしき椅子、少しだけ他よりも高いところから降りてきて、ホールの中央に歩いて行った。
そして、音楽が流れ始めた。
(うわあ、凄いなー。緊張しないのかな)
無表情に演奏する奏者に思いつつ、皇帝陛下達を見て、再度同じ感想を抱いた。
緊張しないのだろうか、と。
色々と感嘆を抱いていると、いつの間にか舞踏が終わり、両陛下は玉座らしき椅子の辺りに戻っていた。
(いっ、いつの間に!?)
呆けていると、
「えっ、エミリー嬢、いっ、行くぞ」
と手を引かれた。
(えっ、あっ、もう?・・・あっ、そうか)
少し驚きつつも、
「はっ、はい」
と声を返し、手を引かれるままに歩いて行き、そしてホールの中央にたどり着いた。
他にも何組かが周辺に集まったところで、音楽が演奏された。
(えっ、えーと、こうやって、こうやって)
次の動きを忘れぬように、次々と思い浮かべながら踊っていった。
そして、順調だ、と調子に乗り始め、躓いてしまいました。
後ろに転びそうになりながら、あっ、終わった、諦めを感じていると、手を引っ張られ、復帰することが出来ました。
「あっ、ありがとうございます」
恥をかかないようにしてくれた殿下にお礼を言うと、
「いや、構わない。・・・大丈夫か?」
心配性に問われてしまった。
「大丈夫です。すいません」
と返して謝ると、微笑まれるだけで終わってしまった。
私の返答に何か間違えはあったのだろうか?
そして、一度の失敗を犯してからは、色々と気を付けたので、特に失敗を犯すことはなく、舞踏は終わりました。
特に会話をすることもなく、互いに失敗しないように真剣だったのように思うので、特筆すべき事項は特にありませんでした。はい。きっと。
終わった後、他のペアの邪魔をするのも申し訳ない、と思い少し外れの方に移動した。
そこで、
「ありがとうございました。皇子殿下」
とお礼の言葉を皮切りに、声を掛けるのだった。




