第338話 お久しぶりに出会う方々。聡い、ですか?
目がチカチカする程明るく、音楽だったりだとか、話し声が大変に煩いパーティー会場に到着しました。
そして、
(こっ、これは・・・、一体どれ程のお金が掛けられているんだ)
予想すらしたくない思いに駆られた。
「えっ、えーと、皇帝陛下は何処にいるんでしょうかね」
辺りを見渡すと、私と同じ学生くらいの人、小太りの狸みたいな人、がたいのいい軍人さん、と皇帝陛下らしきお方が見つからず、アリアさんに問いかける。
「まだいらしていないようですね」
「そうなのですか、まだ、ですか・・・。大公殿下に先に挨拶しに行くべきでしょうか?」
「お嬢様がお決め下さい」
(ぐふぅ、せっ、責任転嫁が出来なくなってしまった)
自分でも嫌になるクズ発言をしつつ、
「そう、ですよね。ごめんなさい」
助言を頂こうとしたことと、卑しい考えを抱いたことを謝った。
(自分で決めないと、・・・一応上級貴族なのだから)
深呼吸をしながら、大公殿下達を探した。
探したのだけど、いなかった。
(・・・あれっ?来るって話だったけど・・・)
殆ど言葉を交わしたことはないのだが、一応大公家の子息、子女の顔と名前は知っている。
学院に通ってたら『あれが誰々様よ』みたいなヒソヒソ声を聞いていたし、それに大公家の一つファイアウェル家のフォルティナさんとは話したことがある。
・・・まあ、お茶会に誘われて断った、ってだけだけど。
どうしていないのだろうか、だとか色々と考えていると、
(もしかして、当主さんが来ているのかな)
あって欲しくない可能性を考えた。
当主さん達は年が離れているために、話しかけづらいですし、それに名前も顔も知りません。
新聞にも載っていることはありませんし、噂話でも出てくることはありませんのでね。
それに、大公家の方々、権力はあるのに基本は皇室の一歩後ろで、足並みを揃えているので、突出して目立つことがないですし、それに単純に表舞台に立つのが少ない印象です。
派閥の貴族がなにかをやった、だとかは聞くのですが・・・。
(さて、どうしたものかな)
皇帝皇后両陛下、大公殿下達がおらず、誰に話しかけるべきかを少し考えた。
そして、
(えっ、えーと知り合いは居ないかな)
と辺りを見渡し、
「あっ」
知り合いを見つけた。
(うわあ、久しぶりに見た)
昔、幼い頃に会って以来の人に近づいていき、周りから人が離れたところで、
「お久しぶりです。エーゼフ様」
と、幼い頃の教育をして下さったお方、帝国騎士団の元騎士団長エーゼフさんに声を掛けた。
「おお、其方は・・・久しいな。何日ぶりだったか、それにしても大きくなったな、エミリー嬢よ」
「少し不満はありますが、少しずつ成長しております」
「いや、しっかり成長しておるよ。最後に見たときは、このくらいであったのだから」
エーゼフはそう言うと、親指と人差し指で十センチもないほど開いた。
(うー、ひっ、酷い。流石にそんなに小さくはなかったのに!)
心中で笑いつつ、
「私も慎重は低い自負はありますが、それほどではなかったですよ」
本気で思われてたら怖いので訂正した。
「ホホホ、冗談じゃよ」
「やはりそうですか・・・」
(うん、やっぱりそうだよな。良かった)
少しだけ安堵していると、
「話は変わるが、勉学は捗っておるか?」
と質問をされた。
「勉学ですか・・・人並み程度には、としか言いようがありませんね」
捗っているか、と聞かれたら否であるし、滞っているか、と聞かれても否である状況のために、相応の言葉を返した。
「ほう、難しい、ということはあるまい」
「何を言いますか。一般的には難しいと思いますよ」
「聡いお主には、という話じゃよ」
「お褒め頂けるのは嬉しいですが、私はそう聡くはありませんよ」
事実を彼に返す。
(聡くはないんよな。前世と今世で沢山勉強してるわけだし)
と思いながら。
すると、
「謙遜も使いようじゃよ」
よく分らないことを言われてしまった。
(はて、謙遜とな。・・・私、してないと思うのだけど)
少しだけ戸惑っていると、
「お主は、儂が見てきた人間の中でも、相当に聡い、賢い人間じゃよ。そんなお主が、それを否定するのは持たざるものに些か不憫じゃよ」
との答えを頂いた。
「そう、ですか。承知しました」
納得する返事をしつつも、
(うーん、そうなのかな?)
若干納得できず、モヤモヤとした思いを抱いていると、
「それで、お主から見て学院の勉学はどう思う?」
話が最初の方に戻っていった。
「私、から見てですと、並程度でしょうか。難しい訳ではありませんが、決して簡単という訳ではない、用に思えます」
「ほう、それでは一番難しいものは?」
「いっ、一番難しいものですか?」
少々ちょっと考えてみる。
そして、
「政治についてでしょうか。帝政、共和政、民主政と色々と難しいことがありますので」
と答え、
「その、一体どうしてこのような事をお聞きに?」
気になった事を問いかけた。
「ただ気になっただけじゃよ」
「そっ、そうですか・・・」
という感じで話が終わり、離れて飲み物を貰い、一息吐いていると、
「エミリーちゃん」
再び久しい声が聞こえてきた。
「あっ、お久しぶりです。フラン様」
(本当に久しぶりの人によく会うな。今日。・・・というか、なんというか・・・)
心中で呟きながら、幼い頃にマナーを教えてくれていた人、元聖女のフラン・マイヤーさんに顔を向けた。
「大きくなったわね。エミリーちゃん」
「ハハハ、どうも・・・。あの、出来ればなのですが、その『ちゃん』付けを遠慮して頂けないでしょうか?」
「どうして?」
「なんだか、この年になってまでそのように言われるのは、少し恥ずかしい、と言いましょうか・・・」
「そう・・・それじゃあ、エミリー女史とでも呼べば良いかしら?」
(さっ、流石にそれも・・・)
女史、などと呼ばれるような立場にないので、
「ただ単に『エミリー』とでもお呼び下さい」
とお願いをするのだった。
あっ、返答としてはオーケーを貰えました。
これでちゃん付けで呼ばれなくなりましたね。うん、嬉しいです。恥ずかしくなくなって。




