第329話 いえーい、嬉しい誤算です。
さて、昨日も色々と調べ物をしました私です。
本日はですね、魂のようなものが複数個見えたことがあったじゃないですか、それが見間違えなのでは、という気がしてきたので、以前レイとルナへのお金の工面のために、月桂樹商店にやって来ました。
出来ることならば、複数個の魂がある、というのが事実、もしくは私の勘違いより生まれた虚構なのかを確認するために、出来そうな魔法が載っている魔法書を見つけたいな、って思います。
(流石に、もう入るか)
先程より、延々と扉の前で右往左往していた私は、
『コンコンコン』
扉を叩き、
「ごめんください」
と声を出しながら、扉を開いた。
(うへぇ、ヤニくせぇ)
文句を声に出さないようにしつつ、店内を見渡し、店主を探した。
そして、
(・・・あれは?なんだ?ギロチンの刃か?)
不思議な物が増えていることに気付いた。
斜めの刃の中央部は錆びて、思い切り叩いたら壊れそうに見える。
・・・これは使用済みのものなのでは?
一体全体、どうしてこんなものが置いてあるのでしょうか?
使用済みのものを買い取ったのでしょうかね・・・何のために?
(何か怖ーい)
と思いつつも、店主の方に歩き、
「こんにちは、あのギロチンって何なのですか?」
質問をした。
「どうも、・・あのギロチンは、お得意様からのもらい物でね。聞く話によると、北方にある大陸の英雄、ヴァイキングの先王の首を落としたものらしい」
「へっ、へえ、そんな物騒なものが・・・。そのお得意様とは?」
「教えられねーな」
そう言う彼は、親指と人差し指で輪を作っておりました。
(さて、これはお金を要求してるわけだよな・・・それとも、侮辱か?)
逡巡した後に、
「分かりました、お金ですね。どれくらいですか?」
と問いかけると、
「五十万だ」
流石に無理な金額を提示された。
「無理ですね。もっと安くして下さい」
「そりゃあ、無理な話だ。こっちも、命が掛かってるんでね」
「・・・えーと、三万は払いましょう。目配せで答えることくらいは、それくらいで出来るでしょう?」
「いや、二十だ。それ以下では、飲むことは出来ない」
「ドケチな事で」
「どうも」
(商人相手にケチは褒め言葉になるだろうか?)
少しそう思った後に、
「買いたいものがあります」
本題を切り出した。
「何を?」
「魔法の本です」
「どういった?」
「魂に関するものです」
「あるにはあるぞ」
(あっ、あるんだ。あるかなー、って来たけど、あるんだ)
若干の予想外に驚きつつ、
「なんだか含みのある言い方ですね。ナニカあるのですか?」
彼の発言に不信感を抱いた。
「ああ、勿論ある」
「どんなことですか?」
「とんでもなく高い」
(・・・マジかぁ、まあそうよな。専門書みたいなものだろうし、それに魔法自体使う人は少ないわけだし)
溜息を漏らしそうになりつつ、
「一体如何ほどですか?」
値段を問いかけると、
「相場は軽く百万は超えたはずだ」
少し嫌になる返答をされた。
「なっ、何故ですか?」
「人口が少ないのと、多少法に触れてる黒魔術だからだ」
「・・・マジですか」
「勿論だとも」
(さて、無理だぞ。流石に、百超えは無理だぞ)
本当に不味いな、と思いつつも、
「値段交渉できませんか?」
と提案をした。
返答としては、
「大丈夫だ」
というものでした。
「えっと、ですね。一万なんてどうです?」
「安すぎる。無理だ」
「それでは、十万。この店では、立地的都合とか色々の影響により、陳腐化することになるでしょう。故に、少しでも早く損切りした方が良いのでは?」
「十万も無理だ。せめて、九十万」
(あっ、のっかってくれた。ありがとう)
感謝をしつつも、
「二十万」
と声を出した。
返答としては、
「八十」
短いもので、その後も値段交渉を続けた結果ですが、五十万になりました。
(よっ、よし。大体二分の一に)
と一瞬喜んだのですが、よくよく考えると、とても高いように感じます。
・・・これ以上の値段交渉は悪手になる気がするので、流石に行いはしませんがね。
「それで金は用意できるのか?」
「・・・えーとですね。ものを売ることは可能ですか?」
「嗚呼、勿論」
「えーと、五十万なので、・・・えーと、骨董品とお酒とタバコと葉巻とって感じになりますけど」
(・・・果たして、私の魔力は持つのだろうか?)
甚だ疑問ではあるのだが、頑張って準備を始めた。
そして、
(これは一日では不可能だな)
という事に気付いた。
「あのですね。名も知らぬ店主さん。お願いなのですが、用意に時間が掛かりそうなので、数日ほどキープして下さいませんか?」
「構わない」
「それで名前はなんと?」
「ローレルだ」
(あっ、教えてくれるんだ。・・・偽名かな?)
驚き、本名なのかそれとも偽名なのかが分からず、聞こうと思ったのだが、やめることにした。
「それでは私は帰ります」
「毎度どうも。アンタが次に来るのを待ってるよ」
「さいですか」
といった感じに、屋敷に帰りました。
・・・毎度どうも、っていう言葉って、二度目の来店の客に使うものなのだろうか?もっとお得意様の人に対して使うものではないのだろうか?と疑問に思ったのは別の話です。
…………
さて、その後屋敷の中で、沢山の物を創り出しました。
久しぶりに魔力切れで気絶したり、全身の痛みに悶えたり、頭痛で泣きそうになったりしましたよ。
それで、ですよ。
商品達を創り出すのにはですね、三日ほど掛かりました。
(まだキープしてくれてるかな?)
不安になりつつも、月桂樹商店に向かうと嬉しいことにキープをしてくれていました。
そして、作った物達は計八十万くらいで、三十ほど手元に残りました。嬉しい誤算です。
っで、目的の魔法書を手に入れ、ホクホクとした気持ちで帰ろうとしたところ、店主のローレルがサービスをしてくれました。
前に訪れたときに気になった、ギロチンを売ったお得意様を教えてくれたのですよ。
どうやら、ヒルビア正教会さんの下部組織である『審問会』とされる組織のようです。
アッシュに貰った本の著者でもあった、という驚きが一つと、結構ヤバい組織かもな、という驚きが一つ。
そして、もう一つ店主のローレルは何者なのだろうか?と単純に疑問を抱きました。
店主のローレルさんについて
女性の名前では?もしやローレルって女性だったの?と思った方への返答です。
勿論『オトコ』です。
由来については、花言葉の『勝利』『栄光』『栄誉』と『裏切り』『不信』と『私は死ぬまで変わりません』って奴ら全般から。




