第314話 幸いなことに貴女は行尸走肉ではない。どうだろう?
私に嫌がらせをしている最後の奴、ルナに対し、隷属の魔術を掛けるために通学路で待機し、奴を数時間待っていると、やっとルナが現れた。
(やっと来た)
一人で、辺りを無警戒に歩く少女を影から見つめる。
(・・もう少し、もう少しだ)
あと数歩奴が踏み込んだら、腕でも掴んで奴をこっち側に引き込もう、と決めて、
(・・・・よし、今だ)
と呟きながら、奴の手を掴み、引っ張ろうとした。
だが、動かなかった。
・・・何て言おうか、体重が重かった。相手の。
(どうする!どうしよう?)
ヤバと焦燥を抱き、ぬかるんだ床に足を滑らせた。
そして、運良くも彼女をこちら側に連れ込むことに成功した。
まあ、私が押し倒される形でだけど。
「ぐえぇ」
お尻と尾骨の痛みに声を漏らすと、
「はっ?へっ?」
驚いたような声が頭上から響いた。
・・・ヤバい。どうしよう。
今、抑えられてる。・・不味い。本当に不味い。
失敗した、失敗した。失敗した。失敗だ。
体格と体重を考慮に入れてなかった。
(どうするべきだろうか?どうやって挽回する?)
必死に頭を回し、ゆっくりと目を開くと驚愕に染まった顔、それと恐怖の視線を向けられていた。
「あのっ、───」
退いてくれないだろうか、と頼もうとした。
だが、その言葉は遮られた。
「貴女、・・・何のよう?」
「えっと、ですね・・・」
「貴族の令嬢様が、こんな辺鄙なところに」
「えーと、ですね。・・・一端、退いて貰っても構いませんか?」
「まず、目的を話しなさい」
(いやあ、不味い)
手の方をチラッと見て分かったが、完全に抑えられてしまっている。
不味いな。非常に不味い。
「目的、目的ですか。そうですね・・・」
「早く言ってよ」
「・・・そうですね。えーと、目的、目的」
「ふざけてるのかしら?」
「いえいえ、そんなわけではありませんよ」
「それじゃあ、早く行って頂戴」
「えーと、ですね。・・・ルナさん。貴女、私に対して嫌がらせしていますよね?」
「はっ、はあ!何言ってんの!言い掛かりはやめて!」
(・・・驚愕から、焦りに表情が変わったな)
表情の変化に漏らしつつ、
「どうして私の私物を隠したり、学校から貸し出されているロッカーの破壊などの行為を行ったのでしょうか?私は、貴女に対し何らかの干渉を行った記憶はございませんが?」
こんな姿勢のために威厳はないが、予定では威厳たっぷりだった言葉を言う。
「・・・」
「何かお答え頂けませんか?」
「・・私が。私がやったと?言い掛かりでは?」
「そうでしょうか?でも、色々と私の動かせる権限の限りで調べたところによりますと、貴女に行き着きましたが?」
「誤捜査で、冤罪を掛けてるだけでしょ?」
(私、人を論破するの苦手なんだよな。論破を出来る物証と証言はないわけだし)
自分の弱点を嘆きつつ、
「ロッカーに仕掛けられた黒い絵の具、あれにはですね、一流の魔法使いによる魔法が仕掛けられているんですよね」
私が出来る最大の脅しの文句を使うことにした。
「どういうこと?」
「ハハハ、随分と呆けた顔してますね。・・実はですね。あれって絵の具を浴びた人を特定する魔法があるんですよね」
「・・・」
(まっ、浴びた人を特定するって言うのは嘘だけど。別に、この魔法の性格の能力を知ってるのって私だけだし、嘘を言っても問題ないよな)
「さて、何かお言葉を貰っても構いませんか?」
(レイに頼る、先生に頼るのは無理、だよな。・・・自分でやるしかないか。魔法で、どうにかするしかないか。・・・どうした物かな・・・)
「・・・私は、やって、ない」
苦虫を噛みつぶしたような、白を切りきれないと思ったのだろうか?
「そうですか、そうですか。・・・確かに、魔力は残っておりませんね。それに、物的証拠も残っていません。魔法の術士の証言のみです。ですがね、貴女は平民、私は貴族ですよ」
「最低!さいってい!最低!」
語彙が焦って出てこない、って感じなのかな。
まあ、そんな事は一端おいておいて、交渉でもするか。
「ルナさん、交渉でもしましょう」
「どんな?」
「私の仲間になって下さい。そうすれば、今回のことをなかったことにしますよ」
「・・・脅迫するなんて、最低ね」
「そうですね。最低ですよ。でもですね。例え、下劣な最低な畜生になろうとも、貴女の能力が欲しいのですよ。無能な人間ならば、注意をして放置したでしょう。ですがね、貴女の能力、姿を隠す能力が私の為に欲しいのですよ」
「貴女、気持ちが悪いわ」
「ハハハ、そうかもですね。・・・さて、考える時間をあげましょう」
まるで自分が彼女の上に立っているように感じるかもだが、現在私は彼女に押し倒されてマウントを取られています。
なので、暴力を振るわれたら非常に、ひっじょうに不味いのです。
逃げることも出来ませんし、何らかの予防策も用意してないのでね。
相手は何らかの能力を持ってはいるが、ただの平民であると舐めていたのでね。うん。
「・・・そうですね。三分です。三分あげましょう」
自分に絶対の自信がある、この状況も計画通りである、と言わんばかりの自信を込めた声で彼女に言い、そして、
「あっ、良ければ私の上から退いて頂けませんか?」
とお願いをした。
まあ、一切退いてくれそうになかったのだが。




