第311話 よくやりました。自由にしていて良いですよ。
さて、昨日罠を張って一日目の報告をしよう。
敵が掛かることはなかった。
昼休みの時間ですら相手が動かなかったのだから、そんな気はしていたのだが、やはりというか、なんというか、悔しい訳ではないが、なんだか不思議な気分だ。
それに、もう一日ロッカーが使えない期間が延びるのは、面倒くさい。
あの罠はその構造上ロッカーを使えなくてしまうのだ。
扉を開けると、扉に立てかけられてる棒が倒れて、棒に付けられている紐によって絵の具と魔法の入ったバケツが倒れるっていう設計だから。
「もうちょっとより良い設計出来たかもな」
思いつくことはないだろうし、現に思いつけなかったからこんな設計になってしまったのだが、たらればの妄想を吐く。
けれど、いつまでも妄想を吐く愚蒙では私はないと思いたいので、昨日までの過去ではなく、今日からの未来に目を向ける。
(本日で、相手がかからなければ策を変えなければな)
新たな手法を考えよう、と頭を回す。
けれども、無理だった。
新しい策を思い付くことは出来なかった。
新たな手を思い付くことはないし、新たな品を思い付くこともない。
思い付いたり、思い付くことが出来そうにもない。
完全に手詰まり、詰みを感じた。
「・・・はあ」
深く溜息を漏らし、手を変え品を変えの戦法を諦める。
現状の策を続行し続けよう、と。
「もう時間だな」
時計を見て呟き、教室に帰っていった。
・・・ちなみに、私がずっといたのは体育館と校舎の間にある森みたいな所だ。
…………
さて、二日目の報告だ。
端的に言おう、失敗だ、と。
「くっそぉ」
あと何日間もロッカーが使えない期間が延びたことに声を漏らす。
非常に、ひっじょうに面倒臭い。
「はあ、クソぉ」
現状の気持ちを声に漏らす。
そして、昨日も考え、結局思い付かなかった新たな策を考える。
(うーん、何か出来ないものか・・・思い付かぬ。うぬぬぬぅ)
頭を掻き、考え続けていると、
『コンコンコン』
扉を叩く音が聞こえた。
「あっ、はい。どうぞ」
「失礼します。お嬢様」
「・・もう学院に行く時間なのですか?」
「その通りでございます」
「そうですか」
(いやぁ、思ったより時間が流れるのが早い。もうちょっと策を考えたかったんだけど)
早く流れる時間に恨み言を吐き、メイドのアリアさんに付いていき、馬車で学院に到着しました。
(うーん、今日であの罠に掛からなかったらマジで露呈しているのか、バレたのかして失敗した、と考えるのが妥当かな?そうだったら、本当に別で露呈し辛く、その上で相手の正体を特定できる罠を考えないと行けないのか・・・ああ、面倒だぁあ!)
面倒くささ、と言うよりも不可能な予感を感じた。
あっ、登校してすぐにロッカーを見に行った結果、罠は発動していなかったよ。
…………
さて、退屈な授業も終わり、お昼の休みになりました。
此処で掛からなかったら、本当に面倒だぞぉ、頼むぞ神様!と神の力は信じていないのだが、神頼みをしながらお昼ご飯を食べた。
そして、暇つぶし兼報告待ちに昨日と同じで森のような所を歩いていると、
「あっ、相手の人っ!とっ、特定しました!」
若干興奮したような声が私の直ぐ側で響いた。
(みっ、耳がぁああ!)
大きな声に驚きつつも、
「ほっ、本当ですか!誰ですか?」
目の前に現れたレイに詰め寄り、問いかける。
「ちょっ、ちょっとだけ、その、離れて貰ってもぉ~?」
「あっ、すみません」
一端、彼女から二歩下がり、
「それで、誰ですか?」
興奮も落着いた声で問いかける。
「えっ、えーと、『ルナ』と呼ばれてる平民の女の子です」
「顔を絵に描き写すこと出来ますか?」
「はっ、はい。出来ます」
「それではお願いします。・・あっ、ルナさんは何年の何クラスですか?親の職業も分かりますか?」
「えっと、一年生のFクラス。親の職業は、母親が売春婦、父親は・・・よく分りませんでした」
(仕事で身籠もって生まれた子、そう考えるのが妥当かな。・・・ルナ、えーと、確か意味は『月の女神』だっけ?)
売春婦、夜職だから夜繋がりかな?名前の由来は。
・・・まあ、構わないか、家庭に関わる必要性はないわけだし。
「・・あっ、そう言えばその人、ルナさんは何処に住んでいますか?あと、徒歩で登校していますか?」
「えっと、此処から北の外れにある風俗街の外れ、そこから徒歩で登校してるようです」
「そうですか、分かりました」
(・・・よし、決めた。下校をしているときに、話しかけるか。そして、交渉でもしよう。相手にはどのような手段を用いているのかは不明だが、透明化して魔力も誤魔化し、身元を特定できないようにする能力がある、隷属でもさせようか。私が自由に使える、新たな駒を手に入れるためにも)
「レイ、貴方の仕事は一時的にではありますが、これで終わりです。今日からは、自由にして下さい」
「かっ、構わないのですか!」
「勿論、呼んだら直ぐに来て下さいよ?」
「わっ、分かりました!」
彼女は目を輝かせながら何処かに走って行き、
「あっ、渡し忘れてました!すみませんでした」
と言いながら、戻ってきて、可愛らしい顔が描かれた紙を渡し、再度走り去って行った。
(何をしようとしているのだろうか?遊びにでも行っているのかな?)
と疑問が残りはしたが、まあ良いだろう。
「さて、まだやることがあるな。・・・方法分かんないな、先生に聞くか」
レイに施した不完全な隷属の魔法、コイツを完全の物にしよう、と考えるのだった。
・・・そう言えば、レイにお金渡してあげた方が良かったかもな。
私、持ってないけど。どうにかして工面できないかな。
うーん、どうにかして貰えないかな、お金。
・・うーん、アリアさんは厳しいから無理そう。
と言う事は、こっちに来て早々に仕事をサボり始めたロナルド君の兄さんのアースベルトに頼むしかなさそうだな。
『ルナ』って名前登場しましたね。
書いているときには『レイラ』でした。
でも、『レイ』と『レイラ』って似てたので、名前が変わりました。
ちなみに言うと、変更前の名前は、『夜』という意味です。




