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閑話4 とある男視点

264,265話の男視点です。

書きたかったので書きました。

本編に関係ないので、興味がなかったら全然読み飛ばしても構いません。

いつからだろうか?


俺の視界には、赤々と存在を主張する炎、黒々と空を隠す黒煙が映っていた。


どうしてなのだろうか?


何故に俺の故郷は、破壊され、穢されなければならなかったのだろうか?あいつは、ローズは死ななければならなかったのだろうか?

消えゆく意識の奥で轟々と音を立て、燃え盛る怒りを感じた。


既に涙も、声も枯れ久しい。

だが、頰には涙が伝い、口からは嗚咽が漏れ出ているような気がした。


かつての美貌を、健気さを感じさせない腐りかけの物を睨むように見つめる。

どうして?どうして?どうして?

脳内から身体中に伝播するように疑問が湧いてくる。


どうして俺が、ローズがこんなめに。


潰えぬ疑問に、怒りに答えを見つけるため。

はたまた過去に縋り、現実を忘れるために俺はあの日のことを思い出した。


…………


あの日もいつもと同じように、俺、パウルの生活は始まった。

ただあの時は、昨晩、子宝に恵まれず思い悩んでいたローズを散々と励ました為に若干の寝不足ではあった。


「ローズ、起きてくれ。もう朝だ」

隣で眠っている妻の方を揺らすと、

「あと、もう。ちょっと」

如何にも眠そうな声が返された。


「そうか、それじゃあ、そうだな。それじゃあ適当に暇でも潰してるよ」

その言葉を後にし、俺は寝室より出て、

(さて、何で暇をつぶしたものか)

と頭を悩ませた。


だが、

「散歩にでも行くか」

適当な暇つぶしの方法を思いついてしまった。


色々と準備をして、外に出る。

家の外は、淀みのない空気、澄み渡った快晴により清々しいものだった。

「ふぅ、ちょっと肌寒いか?」

普段に比べ、若干の肌寒さは感じたが。


「まあ、これくらいなら大丈夫か」

まるで忠告するかのような寒さに声を漏らし、俺は家の周りから門の側へと沢山歩き続けた。

側から見れば、久しぶりの帰郷に懐かしさを感じている者、門出に故郷を噛み締める者に見えたかもしれない、と思う程には歩き続けた。


「人も増えてきたな」

太陽が昇り、すれ違う人々が増えてきた。

(帰るか)

流石のローズも起きたであろう、と家に引き返そうとしたところ、地を駆ける馬の足音が聞こえてきた。


(なんだろう)

純粋な疑問とともに背を向けた門に向き直る。

すると、数秒後に、沢山のざっと数えただけでも三十は超える乗馬した人々が入ってきた。


(本当に何なんだ?パレードでもあるのか)

さらなる疑問を抱きつつ、綺麗に太陽の光を反射させる鎧を纏った馬と人を見ていると、鎧を纏った人々をかき分け、正装を身にまとった太々しい、口髭を整えた男が出てきて、口を開いた。


「アーレー男爵家領主及び一族、領民、貴君らは神の寵愛を受けし自覚を持たず、我らが父なる神の教え、人類は皆平等である、それに反し、子羊達を束縛し、弾圧し、それでもってして隷属とした。貴君らに何故にその資格があろうか。我らが父の御言葉を反し、それでいてその自覚を持たず、のうのうと神の下の平穏、安寧を甘受する。何故にそれが許されようか。神の導きを外れ、それに加え信奉者を愚弄し、益を甘受する。何故にそれが看過できようか。貴様ら邪教には、我らが父なる神の名の下、最高神ヒルビアの名の下、我ら正教会が天誅を下す!」


終わったか、終わらなかったか、それが定かではないが、馬は駆け出し、槍と剣が突き出され、先頭にいた野次馬であろうか?分からないが、叫び声が木霊した。


(ヤバイ)

その言葉が頭を支配し、俺は必死に駆け出した。

けれども、逃げ出す群衆の奔流、それに巻き込まれ、床に伏した。


「ぐあ、くっ」

声を漏らしながら、阿鼻叫喚の声を、軍馬の駆ける音を耳に入れる。

(不味い。不味い。不味い。早くローズの元に戻らなければ)

焦燥感にかられ、過ぎ行く群衆、追いかける奴らの背を見つつ立ち上がろうとした。


その時、俺の足に痛み、とはいえない熱さが走った。

「ぐああぁあ、ああ!」

叫び、のたうつように体を動かすと、ケタケタと笑う人とは思えない者共を見た。

恐怖に支配された思考の中、何故?どうして?意味が分らない、隷属?何を言って、混乱と疑問が頭を支配した。


…………


それから時は素早く過ぎていった。

日が沈み、日が昇り、泥水を啜って生き延び、這って家へ帰ろうとした。

だが、それも途中でやめた。


可笑しな事に、最愛の人のような物が吊されていたのだ。

可笑しい、あり得ない、人違いである、と分かっていた、確信していた。

だけど、もう身体が動かなかった。


刺された足が妙に痛んだ。

踏まれた身体が妙に熱を発した。


どうして?どうしてこんな目に?




…………



見ていた過去の情景が遠ざかり、ただ無情な現実が押し寄せる。

あり得ない、あり得ない、こんなの絶対に。


そして、意識が途絶えた。



…………



足音がした。

声がした。


だが、意識は遠くの、既に過ぎ去った過去から醒めることはなかった。


…………


また足音がした。

嗚咽のようで、何かを我慢するような声だ。


ローズの声だろうか?

一瞬思ったが、その声は幼かった。

幼く儚い、消えてしまいそうな声だった。



本編も出ます。十二時に。

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