第304話 ありがとうございます。・・・それと、先生!お願いがあります。
銃の内部機構を魔法で代用したところ失敗し、右手が血まみれになってしまった。
そんな状況で、呼んだ先生が私の右手に掛けられた元々は白かった布を見つめ、小さく漏らす。
「・・・嗚呼、そういう事ね」
と。
血腥い部屋の匂いに頭がクラクラする。
痛みと相乗で頭が可笑しくなりそうだ。
「そう、ですよ」
先生が何のことを言っているのかは分からない。
けど、返事をする。
もし機嫌を損ね、助けて貰えなければ状況は不味くなる。
信用はしてるが、『もしも』が怖い。
「・・・」
「助けて、くれ、ませんかね?」
「良いけど、・・・」
「お願い、しますよ」
(損切り、されるかも知れないな)
脂汗の量より、冷や汗が多くなるように感じ、
(だいじょうぶ、大丈夫だ。先生の主目的にみても)
恐怖感をどうにかして打ち消す。
先生の主目的は、
『才能のある闇・創造魔法の使い手を育成する』
っていう物だ、現状の私が死んだとして、彼の主目的には反すはずだ。
「・・・うん、決めた」
少年の声とも少女の声とも取れる声が目の前から響き、
「なにを、ですかね?」
切られるか、と恐怖をすると、
「どうやって治療するかを、だよ」
ありがたい事を言ってくれた。
(やっぱり!やっぱり助けてくれるよな。疑ってごめん)
心の中で謝っていると、
「あっ、目を瞑ってくれないかな?」
思い出したように言ってきた。
「瞑ったら、意識、飛ぶ自信ありますよ」
「・・・まあ、大丈夫だよ」
「本当に?」
「放置したら死ぬかもだけど」
「そう、ですか。分かりました」
「信用、しますよ。先生」
声を漏らし、瞼を閉じるとほぼ同時に意識を手放した。
仄暗い心配になる深淵に落ちていく感覚だった。
…………
・・・・・
・・・・
・・・
・・
「・・・眩しい」
声を漏らし、深い呼吸をする。
汗と鉄の匂いがした。
「くっさい」
感想を漏らし、頭を起こす。
部屋の中では、ユラユラと揺れる蝋燭の火が自己主張をしていた。
何をしていたのだっけか?
定かではない記憶を辿っていく。
暗い赤色に染まった絨毯とスカートを見ながら。
「・・・学校から帰ってきた。・・家からの手紙を貰った。・・銃の魔法の実験をした」
右手を顎に当てる。
「右手?」
・・・顎に当てられた利き手を上に上げ、手の甲を見て裏返す。
そして、
「・・・思い出した」
短く呟き、目の前に掲げられた手をもう片方の手で触り、
「・・・ありがとうございます。先生」
次に会ったときになにかしよう、出来る限りのことを、と心中で決めた。
・・・えーと、そうだな、全力で御礼を言って・・・思い付かない。
とっ、取り敢えず、何かして欲しいことを聞こう。
その後、一通り先生への御礼を口に出し、
「銃の魔法については多分もう大丈夫だ。パーツの強度十倍くらいにあげて、その後はそうだな・・・魔法の威力を抑えよう」
と考え始めるのだった。
…………
そんなこんなで時間が数日過ぎました。
この数日で、先生とも会い、御礼と
「何でも言ってください!」
何でもするよ、と言う旨を言ったら、
「それじゃあ、魔法を頑張って欲しいな」
と返答をされた。
「いや、あの、私にして欲しいことはないんですか?何でもしますよ。御礼に」
「特にないかな。君に出来ることは、余裕で僕にも出来てしまうからね」
「えっ、あっ、ああ、そうですか」
「うん、そう言うことだね」
という会話があり、少しだけ悲しくなったりもしました。
年期の違いというのか、人間と神様という種族の違いというのか、難しい物です。大変に。・・・メイドの格好でもして、奉仕でもしてやろうか?・・・これは、最終手段だな。
あっ、ちなみに本日は、私に嫌がらせをしている連中の親玉を呼び出した日です。
いやあ、大変に怖いですね。
(よーし)
「頑張るぞ」
・・・あっ、そう言えばまだ終わってない準備あった。
「忘れてた」
短く漏らし、手に持ったトレーに気を付けつつ、空いている席を探し、急いでご飯を食べた。
そして、急いで学校の敷地内にある研究棟へ歩いた。
・・・学生の方や、働いてる職員の方の視線が辛かったです。
(ああ、恥ずかし。恥ずかしい)
逃げたくなる気持ちを抑えつつ、急ぎ足で歩いて行き、一つの扉の前で足を止めた。
『コンコンコン』
三度扉を叩き、扉が音を立て開いたところで、扉に書かれた1-Aの担任の名前を呼ぶ、
「こんにちは、マティアス先生」
と。
_____別視点______
「アレナ様、本当に大丈夫ですの?」
少女、サヴィア伯爵家の令嬢アレナ・サヴィアは、そんな戯れ言に返す、
「ええ、勿論ですわ。下賤な元男爵風情に恐れることなどありましょうか」
と。
「そっ、そうですよね。っで、ですが、お気をつけを」
返された言葉が癪に障り、
「どういう事ですの?私の事を馬鹿にしますの?」
と返す。
あり得ない話だ。
平民を庇い、その上で私を侮辱する痴れ者に恐れを抱くなど。
・・・癪に障る話だが、私には何人か憎い人間がいる。
一人目は、平民の分際で次期『聖女』の立場を嘯かれる才女。
二人目は、その平民を庇う気鋭の侯爵家を語る頓馬な田舎者の駑馬。
一人目の方は、正教会のおじさま方に止められた為に、多少の折檻しか許されませんでした。
けど、二人目、愚鈍な侯爵令嬢の方は、
「挫いてやりなさい」
と許可を貰えた。
本当は一人目の方の愚者もお父様に頼んで、この高潔な学院から追い出したいのですが、お父様も教会のおじさま方に頭が頭が上がらないようだ。
・・・本日は好機だ。
二人目の侯爵令嬢に呼び出されたのだ。
私の執事を味方に引き込もうと画策していたようだが、忠臣である彼が裏切るはずなかろう。
奴が準備した物を完膚なきまでに挽きつぶし、奴の尊厳を完全に折り、そして一人目の者よりも教会へ尽くせる事を証明するのだ。
こんな好機で恐れるはずがなかろう。
「そっ、その、アレナ様の顰蹙を買うような愚か者ですし、奴、エミリー・ブランドーは腐っても侯爵です、お家に頼って何らかの下劣な行為を仕掛けてくるかも───」
ああ、そう言うことか、目の前に居る彼女らの懸念は。
「大丈夫に決まっていますわ。私は、サヴィア家はこの帝国でも古株、それに何より、私の執事には彼奴奴の策を完璧に崩し、彼奴輩が私に敵わない事を証明する手段があるのですわ」
それは?と問いかける彼女らに私は誇らしげに返す、
「魔法ですわ。私の執事には、常人の力を優に超え、人間を凌駕するほどの怪力を出せる魔法があるのですわ」
と。
次回から視点が変わります。
伯爵令嬢さんの方に。
理由については、主人公の動向が分からないのも面白いかな、と思ったので。




