第286話 申し訳ありません。光栄なことなのですが・・・・あっ!
「くっぅ」
欠伸をしながら考える、
(・・・疲れた。お腹空いた。はあ、正教会の使者に会わないと)
と。
現状を三行で纏めると、
『お昼ご飯を抜いた。
正教会って所から、舞踏会どう?って誘われた。
立場的に問題あるので、断る為に使者と会うことにした。手紙持って』
となるだろう。二行目、三行目が異常に長い気がするが、そんな事は知らない。面倒臭いし。
現状を纏めたり、纏めた物に対し多少毒を吐いていると、
「あの、お嬢様どうしました」
使者の元に案内してくれているアリアさんが、私の様子がおかしい、とでも思ったのか問いかけてきた。
「大丈夫です。特に何もありません」
と返しつつ、
(私、変な様子だったかな。ちょっとだけ考え事してただけで)
疑問符を浮かべたりもした。
一通り先程から考えていたことを考え終わり、掃き捨てたところで、
(使者ってどんな人だろうな)
と考え始めることにした。
本当は面倒臭くて考えたくないのだが、どんな人が来ても対応できるように、と思ったのだ。
(多分、ヒルビア正教会の信者って事は確定で良いよな)
一端、その事を断定した後、
(えーと、青年とか、少年とかはないよな。多分)
等々、色々な事を考え範囲を絞っていき、
(おじさんになるのかな来るのは)
と考えに至った。
来る人がおじさんと仮定し、その人がどんなタイプのおじさん
(多分、前世の私くらいかな。汚かったり、キモい人は嫌だな)
ちょっとだけ嫌な人の事を想像していると、
「─────様、お嬢様、お嬢様」
耳の近くから呼びかける声が聞こえた。
「えっ、あえっ、はい」
突如聞こえた声に混乱しつつも、返事を返すと、
「お嬢様。応接室に到着致しました」
アリアさんがそう言ってきた。
「あっ、はい。分かりました」
若干の緊張を抱きながら返事をし、
(よーし。頑張るぞ。多少の悪印象は与えるかもだけど、出来る限り抱かせないように)
深呼吸をしながら考え、
「開けてください」
とお願いの声を小さく出し、アリアさんに扉を開けて貰い、
「お待たせ致しました。使者様」
何時もより数トーン高い、外行きの声を出した。
「構いませんよ。貴方様がエミリー・ブランドー様で宜しいでしょうか」
私の声に返答する声が直ぐに返され、
「はい。仰る通り私が、ブランドー侯爵家当主ルイ・フォン・ブランドー侯爵の娘、エミリー・ブランドーです」
一応、自己紹介をしておいた。
「突然のご訪問となり、申し訳ございません」
と言う使者の人に、
「いえいえ。構いませんよ」
等々と返しながらも私は思う。
(何かこの老人見たことあるな)
と。
燕尾服を涼しそうに着こなし、首からは正教会の象徴が垂れ、髪は真っ白に染まっていて、顔は優しそうで、紳士っぽい。
あげた特徴に当てはまる人を思い出しながら、ふさわしい返事をする。
そんな事をし続け、
「それで招待に、良いお返事を頂けますでしょうか」
と言う言葉が投げかけられたところで、その既視感の正体を突き止めることが出来た。
「お誘い頂けたことは、光栄なことですが、開催の時期は学校があり、勉学に励まなければなりません。その為、今回はご期待に添えず、申し訳ありません。またの機会がありましたら、その時是非お声かけください」
申し訳なさそうな顔、声で言いつつも、
(この人、あれだ。あの時の人だ。自由解放軍の皆から別れて、領に戻って、暑くて死にかけた時に助けてくれた人だ)
と昔の出来事を思い出した。
(嗚呼、昔の知り合いの顔が出て来たな)
何処かに行っちゃった人、死んでしまった人の顔が頭に浮かび、若干感傷的な気分になりつつも、残念だ、と言う使者の顔を見た。
「申し訳ありません」
謝り、その後は意味のなさそうな言葉を何度も交わし、手紙を渡し、使者は帰って行った。
…………
部屋に帰り、私は色々と考えていた。
「何か、懐かしいというか、寂しいていうか、悲しいていうか、不思議な気持ちだな」
今のよく分らない感情を漏らしつつ、
(どうしてだろうな。懐かしい顔を思い出したせいかな。・・・地味に、生き残ってた自由解放軍の皆は、大丈夫かな。最近手紙も送ってない気がするし。会いに行こうかな)
と次の休日の予定を決めた。
「・・・はあ。何か、らしくねぇな」
今の自分の表情や、感情、その他諸々に思い、
「よーし。寝よ。疲れたし、お腹は・・空いたけど知らん」
椅子から立ち上がり、
「ふぁあぁ、ふ」
欠伸をしながらベッドの中に飛び込んだ。
(今日はどんな夢かな。悪夢じゃないといいな)
心中で呟き、瞼を閉じた。
煩い先生の声も聞こえないし、今日はよく眠れそうです。
そう言えば、最近先生を見ていないような気がします。
あの人、いや神様は、大丈夫なのでしょうか。
非常に、と言うわけではありませんが、ちょっと心配です。
私が心配性なだけかも知れませんがね。
色々と心配をしていると、すぐに眠気が湧いてきて、私は眠りに落ちていった。
(まっ、心配事は起きた後に考えれば────)
と考えつつ。
…………
・・夢の中です。多分。
私は雨に打たれています。
心地良くはありません。
「気持ち悪い」
声を漏らしてしまうほどには不快です。
「さて」
(此処は何処だ。多分、悪夢だろ)
苛つきを覚えながら呟き、適当に辺りを散策した。
私が居るのは、小高い丘のような所だった。
建物や人は近くに見えない。
(どうしてこんな所にいるんだ。私の記憶には存在しないから、理想の場所的な奴かな)
疑問に思いながら歩き続けていると、意識が覚醒し始めた為、それは終ぞ分かることはなさそうだ。
次回、時間が少し飛ぶ。
それと、多分次回から、主人公のクズさが目立つかも。
主人公、最初以外終始苛ついてます。
諸事情により次回から、新しい編になります。名前は、
『仔羊狩り』




