第265話 後悔と懺悔。それと醜い悪人
ありがとうございます!目標であった275ポイント達成しました。
次は、300ポイントが目標ですで。
あっ、あと、多分今作の殆どの話に良いねを押してくれた人が居るように思います。
本当にありがとうございました。突然、いいねが一気に増えて驚きましたが、大変に嬉しかったす。
私は死にかけの男の側で立っていた。
男は虚ろな生気がない、死んでいるのか分からない瞳を宙に向けているだけだった。
だが、私はそこに縛り付けられるように動くことは出来なかった。
(・・・何故、私は此処から動かないのだろう)
今すぐに此処から、脱兎のように逃げ出したいはずなのだが、動かない足に、体に思いを漏らす。
・・・・思いを漏らした後、数秒の後、男の顔が動いた。
動いた男の瞳には、やはり生気などは存在しなかった。
だが、彼は私の方に両方の腕を伸ばし、声を出した。
「ローズ」
と。
呼ばれた名前は知らない。
誰かも知ることが出来ない。
知るよしもない。
私は迷った。
彼の言うローズという人を演じるべきなのか、はたまた演じないべきなのか。
私には判断できなかった。
・・・そして、迷っている間に、
『ガクッ』
と彼の頭が落下し、留まることなく地面にぶつかった。
「あっ」
私は急いで彼の元に近づく。
そこで何となく分かった。
この男が、死んだことが。
それでも色々と調べた。
だが、結局は私の予感通り、彼は死んでいた。
失血死か、栄養失調か、餓死か、はたまたそれ以外か、私には判断が付かない。
「・・・・すまない」
演技をすることで、彼に最後の希望を見せられたかも知れないのに。
もっと他に助ける方法があったかも知れないのに。
何故、私は動かなかった?動けなかった?
・・・私には分からない。何もかもが。
「・・・探すか」
私は最後に彼が漏らした名前の人物を探すことにした。
もしかしたら、此処ではない何処かに行っているのかも知れない。
もしかしたら、見つけられないかも知れない。
もしかしたら、そんな人物存在しないのかも知れない。
でも、私にはそれ以外の選択肢がないように思えた。
だって、私は彼に何にもしていないのだ。出来なかったのだ。
救えたかも知れない。苦しめずに済んだのかも知れない。
それなのにも関わらず・・・・。
せめて、せめて最後に何かをしてあげたかったのだ。
「・・・地獄だな」
思った事を呟きながら、街中を歩き回った。
気付くことは出来ていなかったが、どうやって死体をローズさんと見分ければ良いのだろうか。
見切り発車なんてしなければ良かった。
後悔と、過去の自分への侮蔑の気持ちを抱きながら街中を歩いた。
一時間程度歩き、若干の諦めの気持ちを抱きながら男がいた場所に戻る。
・・・すると、男が見続けていた場所に遺体が見えた。
(あれなのではないか)
心中でも思いながら、駆寄り吊されている既に腐りかけの物をゆっくりと地面に降ろす。
そうして、微かな月光に反射する指輪、薬指にはめられた指輪に刻まれている名前を見る。
刻まれている名前は、
『ローズ』『パウル』
だった。
「当たりか」
小さく呟いた後に、その遺体を男の近くに運びゆっくりと降ろした。
「安らかに眠れ」
願うように呟き、そこを後にした。
・・・・腐敗した死体の匂いが原因なのか、それとも当たりの死臭が原因なのか、はたまた街の雰囲気が原因なのか、それは私には定かではないが、強い吐き気が湧いてきた。
そして、
「うっ、おえぇ」
と胃の中の物を戻した。
気持ちが悪い。
(あぁ、ヤベ)
心中で呟いていると、自分の吐瀉物の匂いにやられ、
「うっ、ぐえぇ」
また吐き出した。
(あぁ、冷や汗が。鼻水が。つれぇ)
小さく呟きながら、イガイガと針を飲み込んだように痛む喉を心配しながら、口を押さえた。
また戻しそうになったから。
「あぁ、駄目だ」
冷や汗、脂汗のせいで気持ち悪く張り付く服、死臭、腐臭、吐瀉物の臭いに声を漏らしながら、足を動かした。
・・・多分、足取りはフラフラとしていたと思う。
(頭が痛い。気持ちが悪い。辛い)
そんな思いで必死に逃げ出すように、足を動かし続けた。
そして、数分か、数十分歩き続け、私は最初にワープしてきた丘で空を見上げていた。
空には来たときと同じで、真っ暗であった。
だが、月光や星の光は、いつの間にか現れた雲に遮られてしまって見えることはなかった。
「・・・雨。降りそうだな」
当たりに漂う湿気に思った事を呟きつつも、どんよりとした鈍重な黒い雲を見つめる。
(まるで・・・いや、なんでもない)
思ったことを呟こうとしたが、なんだか嫌になったので呟くのをやめた。
「お酒でも飲もうかな。嫌なこと全部、ぜーんぶ忘れること出来るし」
心中で呟きながら、お酒の瓶を魔法から取り出しコップに注いだ。
一気に飲み込もう、と思いコップの中を覗き見る。
暗くて見えづらいが、自分のやつれたような顔が映っていた。
なんか逃げようとしているのが、凄く馬鹿らしく感じた。
(ハハハ、何を言ってるんだか)
嗤いの言葉を漏らしながら、コップの中身を地面にぶちまけて、
「やめだ。やめ。酒なんて飲まない」
小さく声を漏らし、コップに注いだ後地面に置いた瓶を思いっ切り蹴っ飛ばし、呟く、
「やめだ。やめ。考えるな」
と。
そして私は、今日の出来事を考えないことにした。
だって、怖いだろう。
それに、自分が醜くて、愚かしくて、気持ちが悪かったんだ。
・・・・ハッハッハ。私、とんだ悪人だな。
そんな理由で、考えないことにするなんて。
・・・ハッハッハ。ハッハッハ。
ハア。
主人公がお酒に逃げなかったのは、まだまともだったからです。
あと、今回の回で亡くなった人の閑話を作るかも。




