第264話 エゴと月光と黒い煙
サブタイトル語呂よくないですか?
よくない、そっ、そうですか
夜の帳が辺りを包み、月光と火の光以外は見えない、そんな現状。
アーレー男爵家の領地に来た私は、丘に腰を下ろし、
「ビンゴ」
小さく格好付けながら呟き、とある心配に心を満たされていた。
私の心配というのは、
(あれは人居るのだろうか)
だ。
何故ならば、私の記憶が正しければ街だったところからは、結構ヤバ目の色の炎、煙が上がっていた。
それに加え、暗くてよく分らないだけかも知れないが、門は壊れているように見えるし、私が囚われていた屋敷も壊れているように見える。
(・・・これは、住民が全滅したって言うのはマジだったかもな)
昔読んだ新聞の内容を、思い出しながら呟き、
(それじゃあ、一体何者があの街をあそこまで破壊したんだ)
このことが気になりだした。
新聞の記事によると『奴隷の反乱』によって壊された街。
だが、肝心の奴隷達は、新聞で言われる反乱が起きていたときには、この街から遠く離れたところに居たはずだ。記憶が正しければ。
・・・それならば一体何者だ。
私は考えた。
記憶の底から辿って沢山考えた。
結果、
(宗教。確かヒルビア正教会だっけ。あれじゃないか)
と結論づけた。
何故ならば、あそこは無駄に強固だった。
多分、並の山賊程度では落とせない。
それに私が行方の知らない奴隷でも無理だ。
彼ら程度の人数では落とすことは出来ない。
逃げ延びたカシワギ達も同じだ。
此処まで考えた所で、私は『奴隷の制圧』を理由に派兵をした奴らしかないのではないか。
と考えたのだ。
それに、新聞を出していたのは、あの宗教さんだからね。
(とりま人の有無を調べるか)
髪の色を久しぶりに黒色に変え、服装も貧民風に変え、待ちに近づいていく。
(臭いな、危ないし)
私は街に近づいていくとそう思ったりした。
何たってそこら辺に尖った鉄、木片が落ちてて危ない。
それに加えて血の臭い、あとなんだか分かりづらいけど、マリファナっぽいハーブ臭がする。
(もしかしたら薬売りさばかれてるかも)
心中で思いながら鼻を撮み、街に着実に近づいていき、門があったところを通った。
・・・案の定、門は壊れていた。粉々という程ではないが、不自然に大穴が空いてたりした。
大砲かな?と疑問に思いはするが、結局分からなかったので考えるのをやめた。
考えるのをやめる前の予想では、射石砲か、もしくはトレビシェットとかじゃないかな、と思った。よく分からないけど。
(・・・それにしても臭い。血生臭いし、腐臭が酷いし、あとマリファナ臭すぎ)
幾ら鼻を撮もうと突き抜けてくる、そんな匂いに思いながらも、黒々と燃えた道を歩く。
(あぁ、あぁ、グロいグロい)
吊されている物、貼り付けられている物を見て思う。
(非人道的すぎ。・・・死んでから貼り付けられたことを願う)
カラスに啄まれている所を見ると、そう思わざる終えない。
吐きそうだ。気持ちが悪い。
来たことを後悔しながらも、歩を進め続けていると、人の腕を持っている犬やら、ブクブクと醜く太った鼠が居た。
(うわぁ、これは)
結構な吐き気を催したが、耐えた。
(気持ちが悪い)
心中で思いながら、街の中心部に歩いて行く。
・・・此処まで遺体は見かけたが、生きている人間は見ていない。
此処で商売をするのは難しいのかも知れない。
と言うか、此処で商売するのは色々と痛むな。特に良心が。
そんなこんなで良心の呵責に苦しみながらも、足を動かし続けた。
結果、生きている人は見つけたっちゃ見つけた。
だが、まあまともな人ではない、そのことは遠目でも分かった。
(何か目がトロォってしてるし、よく分らないところ見てる。気持ち悪。この男)
と思いながらも、これ以外は生きている人を見つけられなかったので、
「あのっ、その」
男に声を掛けると、こちらを一瞬見た後に、また空に視線を戻した。
彼の向いている空は、夜の帳のせいなのか、はたまた炎から上がった黒煙なのか、どちらか定かではないが、吐き気のするほどにどす黒く染まりきっていた。
(あぁ、この人。多分、壊れてるんだな)
何となく気づきながらも、彼の体を見る。
・・・あぁ、グロい。
(多分、あの人はじきに死ぬだろうな)
何となく分かった。
苦しみを長引かせるべきなのだろうか。
今すぐに彼の苦しみを断った方が良いのではないか。
私の頭にはそんな事が浮かんだ。
だが、私は彼に何をするでもなく離れた。
私に人殺しは難しすぎる。
だって、怖すぎる物。
自分で、自分のせいで人が死ぬなんて。
・・・それにこんなので、彼を殺したとしても、それはエゴではないか。
彼が死にたい、と思っているのかは私は分からない。
それなのに殺したのだとしたら、そんなの私のエゴを押し通しているに過ぎないではないか。
・・・・私は彼のことを考えないことにした。
・・・・・まあ、無駄に記憶力の良いこの頭のせいで、目を瞑っても、瞑らなくても、彼の損壊した四肢、やつれて壊れたような顔、死んだ魚のような瞳は、脳裏に浮かんでしまうのだが。
(あぁ、気分が悪い。気持ちが悪い)
頭がクラクラする。
あぁ、吐きそうだ。吐きそうだ。吐きそうだ。
嗚咽を漏らしそうになりながら、私は暗い元々街だった所を歩いた。
色々な遺体を見た。
だが、結局は人間を見ることは無かった。
(あぁ、来なければ良かった。こんな所)
心中で感じながら、歩いてきた道を帰っていく。
胸糞の悪いこんな所から、さっさと逃げだそうとしたのだ。
でも、何故か。何故かは分からないのだが、私は死にかけの男のところに来ていた。
自分にも分からない。分からないのだ。
でも、でも何故か、何故か引き寄せられてしまったのだ。
《お知らせ》
新作『正義は何処へ』と言うのが書ききれました。
色々と確認した後、出しますので良ければ読んでみてください。
多分、絶対に万人受けはしないと思います。
……ついでなので、次に書く題材でも置いときます。
『シンギュラリティ』題材にちょっと頑張ります。
理由はportal楽しすぎて、似た題材で書きたかったからです。
多分、メルトダウンとか、論理的矛盾で終わらせると思います。




