第244話 自己紹介と新入生代表挨拶
頑張って、国歌斉唱をロパクでやり過ごした私は、ホールに流れるアナウンスに従い、椅子に腰を下ろした。
っで、そのあとは、十円と言うには大きすぎる、そんな禿げ方をしている校長先生や、その他先生が挨拶をし、生徒会長と名乗った人物から新入生歓迎の言葉が贈られた。
っで、此処からだよ。私がスッゴい気になってたのは。
なにか、それは至って簡単で、新入生代表挨拶それを誰がするのか、それがスッゴい気になっていたのだ。
だって、気になるだろ。勇者か、もしくはずっと会っていない、そんな状態の婚約者のどちらかなんだぜ。
あっ、そういえば、婚約者である。
・・・あっ、っれぇ、名前なんだっけ・・・・・あっ、思い出した。
ゴホン。婚約者である、カイル・ハインツベルン皇子殿下は、前回会って以来、少しの間手紙を送ってきてくれていたのだが、一ヶ月くらい経つと、完全に手紙もなくなって、関係性は終わったような気がしてたよ。
(さて、さて、それで結局誰なんだろうな。勇者であって欲しいな。そっちの方が見てみたい)
心中で呟きながら、アナウンスに耳を傾けると、
「新入生代表挨拶。カイル・ハインツベルン皇子殿下」
と名前が呼ばれた。
(チッ、まあ、良いか。勇者の方が気になっては居たけど、皇子殿下も気になってたし)
心中で思いながらも、前の人の頭が邪魔でよく見えない舞台の上を見た。
「暖かな春の訪れとともに─────────」
と結構長い挨拶が続いた。
私が抱いた感想としては、普通、だった。
まあ、しょうがないよね。だって、失敗したら、結構その後の学校生活詰むもんな。
…………
っで、その後も面白みのない入学式が進んでいき、そして終わった。
流れるアナウンスの声に従い、立ち上がり適当に進んでいき、1のAのクラスに戻ってきた。
出て行く前と同じ席に座り、ただ呆然とし続けていると、初老の男が入ってきて、
「初めまして、Aクラス」
と声を上げた。
(意味分かんねぇ)
彼の最初の発言の意味が分らず、てか何か口調変わってね?と思いつつも、初老の男を見つめていると、
「1のAクラス担任になった。マティアスだ」
と名乗った。
(マティアスね。・・・貴族かな?平民かな)
気になりながらも、問いかけるのは面倒だし、利益はないので問いかけないことにした。
っで、まあ、マティアスは名乗りを上げ、すぐに、
「これから、お前らの実力が十分にあれば3年、もしくは6年間、君らと過ごすことになるだろう」
何故か煽るような事を言ってきた。
(馬鹿なのかな、この人。一応は反感を買うべきではないだろう。利益がない)
心中で思いながらも、何故か若干の闘争心のような物を、クラス全体から感じた。
(程度の知れた煽りに乗るのか、はあ、先が思いやられるかも)
「さて、取り敢えず最低1年は、ともに学ぶ仲間に自己紹介をしろ。まずはそうだな・・・・最前列の俺から見た、右側だ」
何故か再度、煽るような口調で言ってきた。
(・・・この口調に何の意味があるんだ?)
よく分らないので、適当に、
(煽ることによって、クラス全体の結束力でも上げようとしてるのかな)
と考えを纏めることにした。
面倒臭かったし、適当でもしょうが無いじゃん。許してよ。
っで、そんなこんなで自己紹介が始まった。
今の私の感情を端的に言い表すのなら、絶望だろう。
前世での自己紹介。
スベったことはなかったし、たいして盛り上がることもなかった。
色々と苦手だった。
失敗したら、って考えるとお腹が痛くなるからね。
(あぁ、お腹痛ぇ。あぁ、つっら)
心中で呟きながらも、級友の声を聞いた。
そして、数人聞いたあとに、私は結構驚いた。
・・・初めて知ったのだが、どうやら皇子殿下も同じクラスだったらしい。驚きだね。
・・・・・地味に、当然か。あの人、皇族だったね。
(コネかな。それとも相応の実力かな)
心中で呟きながら、
(たぶん私は、コネだよな。だって、倫理は結局、全部適当だったし)
と自分の事を呟き、若干悲しくなった。
あと、悲しみと同時に、試験問題に対する。
『倫理ってなんだよ!そんなの人によって解が異なるだろ!理不尽だろ!』
という思いが、復活してきたが、隣の隣の隣の人が自己紹介をし始めた頃に、完全に再度倒すことが出来た。激戦だったよ。
・・・あれ?待てよ。
さっきサラッと流したけど、もう隣の隣の隣の人なの?
えっ、早くね。待って、あっ、お腹痛くなってきた。
うっ、辛い。本当に辛い。特に胃痛が辛い。
あぁ、緊張してきた。
っで、すぐに隣の人の自己紹介が終わった。
(・・・あっれ~~?世の中って、こんなに時間が早く流れる物だっけぇ。早過ぎねぇか。・・・えっ、マジかよ。早くね?)
心中で呟きながらも、椅子から立ち上がり、
「ブランドー侯爵家。ルイ・フォン・ブランドー侯爵の娘。エミリー・ブランドーです」
と名前だけを名乗り、椅子に再度座った。
(あぁ、緊張したぁ~)
心中で呟きながら、キリキリと音を上げるように、痛むお腹を撫でた。
・・・・分かってるよ。本当はもっと紹介するべきが有ること何て。
っで、でも、でもさ、しょうがないじゃん。私、コミュニケーション弱者なんだよ。
同い年の友達、一人も居ないんだよ。婚約者はいるけど。
だっ、だからさ、しょうがないじゃん。しょうがないじゃん。
もっと、出来るかもだけどさ、しょうがないじゃん。
そのあとの自己紹介は、私が心中で無限に、言い訳をするだけだった。
あぁ、お腹痛ぇ。胃薬作ろうかな。正露丸。




