第243話 気になる噂話
メイドさんに服を着替えさせられ、そのあとは不味いご飯を食べさせられ、馬車に詰め込まれ、私は学院の前に降り立った。
不思議と視線が刺さる。奇妙な物を見る視線だ。
(なんで。私にそこまで注目するんだよ。怖いんだけど。恐怖なんだけど。なんでなん、私、可笑しいところないでしょ。多少、他の皆と髪の毛の色が違う程度じゃん)
と思いながらも、顔には薄ら寒い笑顔を貼り付け、適当な人に道を聞き、1のAのクラス前までやってきた。
(いやぁ、緊張するな)
心中で小さく呟きながら、扉を開く。
教室内の人達に、ジッと見つめられたが、そのすぐあとに何もなかったかのように、教室内には喧噪が現れた。
(・・・皆、仲いいな。小等部からのエレベーター勢かな。ぼっちの人いないけど・・・どうしよ。私、終わった気がする)
若干の恐怖で、冷や汗をかきながら、適当な後ろの方に座った。
クラスの手紙と同封されていた手紙によると、どうやら前世の大学とかと同じで、席は自由らしい。
(うぅ、胃が。胃が痛くなってきた気がする)
心中で感じながらも、呆然と教壇を見つめた。
友達は居ないし、友達を作ろうにも、人に話しかけるのは怖い。
あれっ、これ。本当に終わってないか?私の6年間。大丈夫か?春の訪れない永遠の冬にならないか?
先程まで感じていた緊張の冷や汗とは異なる、恐怖の汗が流れた。
(うぐ、胃が。もう、うぅ)
心中で呟いていると、本当に胃が痛くなり始めた。
吐きそうだ。
(気を、気を紛らわそう。マジで、気分悪くなる)
恐怖感と、緊張で若干、気分が悪くなり、適当に気分を紛らわすための方法を考えた。
・・結果、私はそこらの人の話を盗み聞きすることにした。
盗み聞きするのは、結構やめた方が良いように思えるのだが、まあ、他の皆はエレベーター組なのか、友達で固まってるっぽいし、しょうがないよね。
コミュ強の人に話しかけて貰うの待とう。
話しかけて、『何コイツ』みたいに見られるのは、ちょっと、ていうかだいぶ、辛いからね。うん。本当に、リアルマジで。
前世の経験が、ヒョコッと少しだけ出てきた。
泣きそうな気分だ。本当に悲しくて、辛いわ。笑える。
…………
まあ、そんなこんなで辺りの話を盗み聞きした。
っで、話されている内容は、結構噂話が多い印象を受けた。
例えば、『今年入学予定の生徒の中には、外国からやってきた勇者がいる』『その勇者が新入生の挨拶をする』という噂話や『皇子殿下が、挨拶をする』と言った『新入生代表挨拶』関係の話が多かったように感じる。
多々、ヒソヒソ話で、結構危うい話をしてる馬鹿もいたが、そいつらは気にしないことにした。
だって、あいつら、クソみたいなんだもん。
クラスは違えど、同じ学び舎で学び、後にお世話になる可能性のある平民、商人を侮辱する発言をしてるんだよ。絶対、あいつら未来に失脚するよ。
まあ、失脚とか、楽しくない話はおいておいて、私にはスッゴい気になる話があるのです。
もうその話は出ていますが、『勇者』ですよ。勇者。
お父様とともに戦った英雄と、同じ役職の人。
スッゴい気になりますね。一体、誰なのでしょうか。
私は心を躍らせ、
(新入生代表挨拶。勇者さんであって欲しいな。凄い誰なのか気になる)
と心中で小さく呟いた。
・・・そのあとは特に何もしませんでした。
ていうか、何も出来ませんでした。
だって、お話をする友達は居ませんし、他人と他人の話を盗み聞きするのは、飽きましたし、何か虚しくなったから、やめました。何故でしょうね。本当に虚しい気分になりました。
数分間、ボーと過ごすと、
『ガラガラ』
と大きな音を立て、ゆったりとしたローブを着た初老程度の男が、教室の中に入ってきた。
そしてすぐに、
「よし、揃ってるな。それじゃあ、廊下に適当に並べ」
と指示をして、教室から出て行った。
(誰だ?あの人。てか、指示雑くね。前世では、中一の歳だぜ)
心中で思いながらも、特にやることはないし、他の人達も皆、廊下に出て行ってるので、私も廊下に出て、一番後方に並んだ。
っで、そのあと並び終わって、二分くらいのあとに、再び初老の男が現れ、
「付いてこい」
と短く指示をした。
(この学校って、こういうスタイルなのかな)
心中で思いながらも、前の人に合わせ歩を進めた。
っで、私達は、オペラの会場みたいな場所に通された。
(どうして私達は、こんな所に通されてるんだ)
一瞬、馬鹿みたいな事を考えたが、確か今日の予定では、入学式をやるはずなので、それ関係だろうと思い出した。
適当に前の人に付いていき、適当な席に座った。
そして凄い後悔をした。
理由としては、前の席の人の座高が高かったからだ。
(クッ、私の身長が低いせいで)
小さく呟きながらも、前の人の頭の端から見える光景を見続けた。
っで、そのあとは退屈な入学式が始まったのか、
「国歌斉唱。全員ご起立願います」
と声が響いた。
(・・・はっ?国歌?国歌・・えっ?私、国歌知らないんだけど。ヤバクネ。えっ、っ?えっ?マジ、えっ?あれっ、えっ?)
国歌を知らないので、歌詞が分からなかったが、私は急いで椅子から立ち上がり、
(くっ、口パクで行こう。そうしよう。それじゃないと無理だし)
心中で呟き、演奏されるパイプオルガンの音に合わせ、口パクをしていくのだった。
2023/06/20、22:34
語句の修正
『小六の歳だぜ』→『中一の歳だぜ』
『入学式兼進級式』→『入学式』




