第240話 我、行くわ帝都の屋敷、それとついでに明日は、試験だぁ。入学の。あぁ、怖ぇ。
先生を回収した私は、玄関に歩いて行き、お父様に連れられ馬車の中に入れられた。
私の馬車の中には、特筆すべき点はなかった。
強いて言うのならば、椅子にクッション材がしっかりと付いていた、その程度だろう。
「あっ、結構ふかふか。なんだろこれ。羽毛、羊毛どっちだろう」
辺りに響く喧噪を聞きながら、呟き、私はクッションを撫でた。
「・・・先生は分かりますか」
撫でた逆の手で抱きかかえてられてる先生に問いかけると、
「分かるわけがないだろう。馬鹿じゃないのかい」
怒ったように言われてしまった。
「我慢してくださいよ。嫌なら籠の中に入れることになりますよ」
本当は籠に入れるべきだし、そうして欲しそうなお父様が居たのだが、私が頑張って説得したのだ。文句なんて言わないで欲しい。
「そうですか」
私はそう言いながら、馬車の扉を閉めた。
お父様も同乗すべきなのだろうが、私が頑張って説得・・脅迫的なことをしたため、お父様は一個前の馬車に乗っている。
「あぁ、眠いな」
心中でそう呟きながらも、窓から見える自分の屋敷を、今まで人生の殆どを過ごした屋敷を見つめた。
・・・まあ、見つめたところで何かあるわけではないのだが。
だって、屋敷はただの屋敷であって、生命体でも何でもない思考能力を持たない、そんなただの建物でアルのだし、当然だろう。
現に屋敷は、いつも通り日光に照らされた白い外壁、ピカピカに磨かれた窓、鮮明に視界に映る煉瓦の天井がアルだけなのだから。
(感傷的な気持ちになるべきなのかな)
ふと思ったのだが、
(別に良いか。今生の別れって訳ではないし、たぶんこれから最低6年くらい帰ってこないだけだろ。そんくらいなら別に・・・悲しみなんて気持ち抱けるわけないよな)
と思い、感傷的になる努力をやめ、
「くっん」
小さく欠伸をした。
(ハア、眠い。ホンマ眠い。具体的には・・・・う~ん。難しいな。・・・思い付かんわ、強いて言うなら気絶寸前くらい)
心中で呟きながら、瞼を擦った。
瞼を擦って数分後、辺りに続いていた喧噪は、なりを潜め何故だか、感傷的な雰囲気を一部感じた。
私は殆どブランドー侯爵家の従者、従僕とかと関わっていないから不思議だ。
多分、お父様が付いていくために、皆そっちの方を心配しているのだろう。
何たって、皆にとって私は、心配を掛ける価値のない存在なのだから。
『コンコンコン』
眠たくなりすぎて、舟をこいでいるとそんな叩く音が、前方の窓から響いた。
そして数秒後、窓は開かれ、
「お嬢様。出発しても宜しいでしょうか?」
問いかけるおじさんの声がした。
「あっはい。構いませんよ。私は大丈夫です」
言葉を一つ一つ反芻し、噛みしめるように考えた後に返すと、
「ありがとうございます。お嬢様」
と何故だか御礼を言われ、一分か、二分くらい後、馬車は、
『ガタガタ』
その車輪から大きな、煩い音を響かせながら、延々続くかのように長い道をゆっくりとした速度で進んでいった。
(これ、何日くらい乗ってることになるんだろう。一週間とかは、無理だよ。飽きる)
心中で呟きながら、起きるのを諦め、先生を太股の上に置き瞼を閉じた。
なんか煩い声が聞こえが無視だ、無視。人生、気にしたら負けな事もあるんだ。
…………
えぇと、たぶん一ヶ月と少しかな。
そんくらい馬車に乗り続け、無事私のお尻は死亡。
座ってるのが苦痛になりだいぶ時間が経ったところで、馬車は帝都に到着した。
そのあとは淡々と進んでいって、お父様の帝都の屋敷に行って、挨拶とかをして、部屋で眠りました。
馬車でもアホほど眠りはしましたが、そこまで深い眠りに付けなかったんですよ。
っで、そのあとはお父様と帝都に出て、少し遊びました。
楽しかったです。お菓子もちょっと貰いました。美味しかったです。本も買って貰いました。面白かったです。あとお肉も食べました。固かったです。
・・・・あとは特筆すべき事もなく、勉強をし続け、時間が過ぎました。
そして何事もなく入学試験前日。
「先生。明日起こして貰っても良いですか?」
結構高い点を取れる自信はあるのだが、何か非常に怖いので、先生に言うと、
「良いけど。どうして?」
と問いかけられてしまった。
「いやぁ、覚えてるんです。覚えてるんですけど、最後に復習をしておきたいなぁ~って。何て言うか、試験でクラス決まるらしいんですよ」
どうやらお父様、元騎士団長様の話によると、点数よって、A~Fクラスに分けられるらしい。
っで、大体その内訳が、
Aクラス:皇族、大公、公爵、侯爵、辺境伯
Bクラス:公爵、侯爵、辺境伯、伯爵
Cクラス:伯爵、子爵、男爵、大規模な商家
Dクラス:子爵、男爵、準男爵、中規模な商家
Eクラス:準男爵、騎士爵、勲功爵、中規模~小規模な商家
Fクラス:準男爵、騎士爵、超小規模な商家、平民
って感じになっているらしい。
希に居たり、居なかったりってのはあるらしいけど。
まあ、適当な事情は置いといて、私的には、Bクラス程度には入れれば良いかなぁ、と思っている。たぶんやろうと思えば、Aクラスいけるだろうけど、色々怖いし、公爵、大公、皇族なんだよ。
私より、爵位が上の人が沢山居る場所なんて、行きたくないよ。怖いから。
私は明日への恐怖を抱きながら、
「お願いしますよ。絶対に」
と言い眠りについた。
勿論、先生の返事は聞かず。




