第237話 お嬢様の嘘
お嬢様に呼び出された。
アルフレート・ブランドー様の、お嬢様のお相手をしていると、
「アンリマ・ウィンズリーさん。あとで私の部屋に来て貰っても構いませんか」
と声を掛けられたのだ。
「はっ、はい」
私は若干の緊張を抱きながら、お嬢様に返答をした。
お嬢様は、何時もの柔らかな雰囲気とは異なり、冷たい何処か人を引き寄せる雰囲気を纏っているように思えた。
そのあと、お仕事を終わらせ、お嬢様の部屋に向かって歩いた。
部屋を出ようとしたところ、
「あう、あう」
とアルフレート様に止められるように声を掛けられた。
「ごめんなさい。アルフレート様。お嬢様に呼ばれていますので」
私は彼に声を返し、暇そうに歩いていたメイド長様に、
「あっ、あの、ララメイド長様」
と声を掛けた。
メイド長様はいい人だ。少し変なところもあるが、沢山お手伝いをして頂ける。
「なに?アンリマちゃん」
彼女は最初は、様を付けないで、と私にお願いをしてきましたが、私はメイド長様に沢山お世話になっておりますし、沢山参考にさせて貰っているため、頑張って様を付けて呼ぶ許可を貰いました。
「その、お嬢様に呼ばれてしまったので、その、私の仕事を代わって頂いても構いませんか?」
彼女に、私の仕事。アルフレート様の身の回りの手伝いをする仕事を代わって貰えないか、と頼む。
すると、
「勿論良いわよ」
メイド長様は私に言ってくれた。
「あっ、ありがとうございます!」
私が感謝の気持ちを頑張って口にすると、
「だいじょうぶ。だいじょうぶ。わたし、暇だったし」
彼女はヘラヘラとした様子で言ってきた。
(何時も忙しそうなのに、凄いなぁ、きっともう全部仕事終わらせたんだ)
憧れのような物を抱きながら、
「ありがとうございます。ありがとうございます」
何度も頭を下げながら、お嬢様の部屋に歩いた。
そして私は、お嬢様の部屋に入り、お嬢様と対面する椅子に座るように指示された。
「はっ、はい」
何時もと様子の違う彼女の様子に、怖さを抱きながらも私は椅子に腰を下ろす。
お嬢様は座るのを見ると、立ち上がり、扉に鍵を掛け、再度私の目の前の椅子に座り、
「どうもおはようございます。アンリマ・ウィンズリーさん」
と挨拶を掛けてくださった。
今はもう昼ではないのだろうか?
と思いながらも、
「はっ、はい。おはようございます。お嬢様」
挨拶の言葉を返す。
そのあと、お嬢様は
「約束をして欲しい」
とお願いをしてきた。
どのような約束かは教えてくれなそうですが、私はお嬢様のことを信頼しているので、
「はっ、はい。勿論です。お嬢様」
と直ぐに返した。
その後、誰にも話さないで、と言われ、私はそれにも勿論同意した。
お嬢様は少しだけ、口角を上げたように見えた。
お嬢様は近くで座っていた真っ黒な猫を持ち上げ、
「目を瞑って貰えるか」
とお願いをしてきた。
私は目を瞑った。
数分の間、私は目を瞑っていると、
「目を開けてください」
お嬢様の声がした。
だが、私の目の前にはお嬢様はいなかった。
そこに居たのは、私を助けてくれた人だった。
「あっ、おねぇさん!」
私が立ち上がり、駆寄ろうとすると、
「ストップ。すっと~ぷ。青髪」
と何時ものお嬢様の声が聞こえ、私の体を押さえた。
___________
私は髪を、折角白色に染め直した髪を、再度黒色にして、奴隷の女の子・・今は、もう違うのか・・・えぇと、アンリマの前に座っていた。
(先生、貴方はどっちを選びますかね。私はどっちでも構いませんよ。だって私、関係ないんですもん)
心を読んでいる先生に、迫るように呟いた。
先程した、私の姿を真似るか、アンリマの記憶を消すか、この2択をさっさと選べと。
「ハァ」
先生は本当に小さく呟き、その姿形を変え、私の姿に化けた。
(何か、不思議な感じ)
心中で思いながらも、
(ありがとうございます。それじゃあ、貴方も頑張ってくださいね)
と続けて心中で呟き、
「目を開けて良いですよ」
目の前でずっと目を瞑っていたアンリマに声を掛ける。
彼女はゆっくりと目を開け、
「おねぇさん!」
と驚いたように言い、立ち上がろうとしたところを、先生に押さえられた。
「ふふふ。お久しぶりですね。何日ぶりですかね?・・まあ、どうでも良いことなのですが」
私はそう呟きながら、足を組んだ。
(あぁ、何て話そうかな。面倒くさ)
特に何も考えていなかった私は、そう考えながら、興奮しているような彼女に聞かせるように、
「さて、先生。嘘を明かしましょうか」
と声に出した。
彼女は、
「嘘って?」
何を言っているのか分からない、と言った様子だった。
「あぁ、分かったけど・・・」
先生は、
『もっと方法あったあろう。馬鹿野郎』
とでも言うように、私の事を睨んでいた。
(思いつけなかったんだ。しょうがないだろう)
心中で返事をしながらも、私は先程まで染めたばっかの黒色を、再度白色に染めて、
「私。エミリー・ブランドーとして。初めまして、アンリマ・ウィンズリーさん」
と笑顔を浮かべながら、名前を名乗り挨拶をした。
彼女は、
「どういう意味ですか、おねぇさん?」
分らない、と言った様子で問いかけてきた。
「貴方の横にいる人は、エミリー・ブランドーではないって話です」
「はっ、はぁ?」
何処か分かって居なさそうに見えた、てか感じたので、
「先生、魔法を解いてください。姿は何時もので良いですよ」
と先生にお願いをした。
たぶん次話で、第一部完です。




