第233話 ブランドー領それとおじいさん
色々あって商人のおじさんの馬車に乗せて貰い、ブランドー領に帰還した私は、嬉しい気持ちをしながらも、おじさんの指に付いている指輪を見ながら後悔した。
(はあ、やっぱクソッ)
私の後悔を知らずおじさんは、嬉しそうに声を上げていた。
酷いよ。あの人。そんな笑い声上げるなんて、悪者みたいじゃん。
「ありがとうございました。ここら辺で降りますね」
馬を牽くおじさんにそう言い、馬車から飛び降りる。
着地しようとしたところで、体全体から力が抜け、私はそのまま頭から転んだ。
『パチーン』
と鋭い音が豪快に響き、辺りに居た人間の視線が私に集中し、馬を牽いていたおじさんですら心配したのか、こちらを向き、
「もう少し乗っていくかい。お嬢ちゃん」
と心配の色を混ぜた声で言ってきた。
「遠慮しときます」
「そう」
彼は残念そうに声を漏らした。
あのおじさん・・・ジジィは多分私を乗せ、乗せた分の報酬を得ようとしていたのだろう。守銭奴が。
私が内心恨めしい気持ちを抱きながら、彼の馬車から離れようとすると、
「ありがとな。お嬢ちゃん。あんたの指輪は高く売り払ってやるよ。これからもご贔屓に」
と叫ばれた。馬鹿か?こんな人通りが多い場所でそんな事を叫ぶなんて。クソ守銭奴ジジィが。
恨めしさを超え、まじめに怒りそうになりながらも、
「さようならおじさん。今後一生貴方と会わないことを祈っています」
若干の怒気を声に混ぜながら言うと、彼は指輪を見せつけるようにこちらに手を振ってきた。
(間違いだったかも知れねぇ。24金で頑張って、気絶しそうになりながら作った物をあんな風に扱われるなんて)
心中で叫びながらも、私は彼に手を振り替えした。
彼の交易をする場所が運良く此処だったらしい。
・・・まあ、たぶん嘘だろう。
本当は別の所に行くつもりだったが、進路変更したのだろうと思う。
私みたいな小娘のお願いを聞いてくれた彼に、そこの所は感謝するしかないだろう。
私は彼が見えなくなるまで手を振り続け、見えなくなったところで路地裏に入った。
「もう髪の毛の色。落としても良いかな」
小さく呟きながら、髪を持ち上げ指と指で挟むように擦った。
私の指から落ちた髪の毛は、ボトボトと重力に従い自由落下を始め、私の腰辺りで止まってユラユラと揺れた。
「まだいっか。白色なんて特徴的すぎるし、バレかねない」
目に掛かった髪の毛を耳の後ろに動かし、呟いた。
「よし、取り敢えず少し遊ぶか。新聞でも探して」
攫われる前に新聞を読んだ公園に遊びに来た。
(落ちてないかな。新聞。ポイ捨て野郎が居て欲しいな)
心中で呟きながら、
「暑いな」
と感想を呟いた。
今は快晴である。それにこの公園には、陽光を防ぐ木の葉や屋根が一切無い。
そのせいで太陽光がまっすぐ降り注ぎ、非常に。ひっじょ~~に暑いのだ。
あぁ、水飲んどけば良かった。これ、直ぐ見つけられんかったら熱中症だな。
…………
一時間半くらい。燦々と延々と刺すように降り注ぐ太陽光に耐えながら、私は探し続けた。
結果。手に入れる事は出来た。完璧な泥の汚れも一切ない新品を。
まあ、拾ったわけではないが・・・順序立てて説明させて貰おう。
ちょっと前に遡る。
「あぁ、あづい。死ぬ゛ぬ゛ぅぅ゛ぅ~」
朦朧とする意識と視界で呟く。
視界は言葉に表すのは難しいのだが、紫のような黒のような、赤のようなよく分らない色に染まり、脈動するかのように色を濃くしたり、薄くしたり変色したりを繰り返していた。・・・ついでにいうが、吐きそうにもなった。てか、ちょっと吐いた。
そんなこんなで辛そうに、フラフラ歩いていると、
「大丈夫かい?お嬢さん」
シルクハットを被り、燕尾服を涼しそうに着て、首からはネックレスを垂れさせていた、髪が白く染まりきった紳士のおじさんが居た。
(すごいなぁ。大丈夫なのかな。暑くないのかな。すごいなぁ)
素直に思いながらも、吐きそうで、
「しんっ、ぶん」
と何故か、今探している物を声に出す以外のまともな返事が出来ずに、倒れそうになると、私は彼に支えられ、そこら辺の木の下に運ばれた。朦朧とした意識の中でもちゃんと御礼は言ったはずだ。多分、声に出てたはずだ。分からないけど・・・えぇと、私を運んだ紳士のおじさんはその後、若干の早歩きで、水を持ってきてくれた。
死にそうなほどだった。
てか、たぶんほうすぐ熱中症か、脱水症状でぶっ倒れていた私は、それを直ぐ飲んだ。
そして、気管支に思いっ切り入った。
「ぐふっ、ごほっゴホッ、ぐっ、ゴホッ」
何度も咳を漏らす。
「お嬢さん。落ち着きなさい」
落ち着いた声で言われ、背中をさすられた。
「ごめっ、ぐフッ、ゴホッ、ごほっ」
御礼を言おうにも、咳が出てまともに言えずに居ると、彼は、
「落ち着きなさい」
と背中を何度もさすられた。
そんなこんなで数分。
「ありっ、がとうございました」
微妙に未だに出そうな状況で御礼を言うと、彼は特に何も言わず私の頭を撫で、踵を返すようにして、私の方を去って行こうとした。
「あっ、くふっ、その」
咳が出たが、取り敢えず頑張って、
「その御礼を・・・」
私が彼の背中に言うと、
「構わないよお嬢さん。老骨になんぞ、御礼をくれなくても」
と私に言い、去って行ってしまった。
(なんだったんだろう。あのおじいさん。ありがたいな)
と思いながらも、立ち上がろうとすると、私の近くには新聞が置いてあった。新品の。
っで、今の状況に戻るって訳だ。
「ありがとぉ、おじいさん」
小さく呟きながら、
(なんかまた会うようなそんな気がする)
と心中で呟き、私は新聞を開いた。
皆様の中には、
『何で中世くらいなのにシルクハットあるんだ?お前、馬鹿だろ?無知か?』
と疑問に思う人が居るでしょう。答えます。
主人公の同類が伝えました。
あと、作中は中世とルネッサンスのどちらかは微妙なのです。私にも分かりません。
宗教組織が強いので、中世の可能性が微妙に高いかも。




