第226話 荒れ狂う炎
「う~ん。・・・イレーネさん」
私は若干の緊張、恐怖を抱きながら、私の前を歩いている人に声を掛けると、
「なっ、なに。アリス」
彼女も声に緊張を漂わせていた。
(まぁ、怖いわな。精神年齢的に年上の私だってスッゲぇ怖い。だって、前世でも今世でも殺し合いなんてしたことないんだし)
と思いながらも、
「だっ、大丈夫ですか」
こう問いかけるように言うと、
「もっ、勿論よ」
強がって返してきた。
(まぁ、強がれるだけの元気があるなら良いか)
と思っていると、
「イレーネさんも、アリスちゃんもそこまで心配しなくて良いよ。私達は、戦わずに逃げるだけだからね」
イレーネの更に先を歩いているイリナが、振り返りながら言った。
「でっ、でも、怖い物は、怖いじゃないですか」
私が反論をするように言うと、
「うん。そうだね。それは我慢だよ」
根性論的なことを言ってきた。
(えぇ、根性論かよ。私、根性無いんだけど)
と思いながらも、
「はい」
こう納得の声を適当に返した。
(ふぅ、落ちつけぇ。落ち着くんだぁ)
と心中で、深呼吸しながら、
(まだマルコとロベルト、カシワギは来ないのか・・・・別の班説が濃厚になってきたな)
こう考えていると、
「よっ、イリナ、アリス」
丁度よく、マルコの声が聞こえてきた。
(あぁ、私の考え、違ったんだな。やっと来たか)
と思いながら、マルコの方を向くとロベルトとカシワギもいた。
・・・・それと、彼らが来なかった理由も納得できた。
(そう言うことね。違う班説ってのも案外間違えじゃなかったな)
彼らの腰に掛かっているサーベルを見ながら心中で呟き、
(・・・死ぬつもりなのかな・・・・まぁ、止めるつもりはないけど。死ぬ自由、生きる自由を奪うには、私は少し幼すぎるし、彼らとも距離が遠すぎる)
と小さく呟いた。
(ふぅ)
一息ついて、
「どうかしましたか」
彼らに声を返すと、
「一応は、声を掛けておくべきだと思ったんだ」
カシワギが私にそう返し、マルコが私に近づいてきて、
「イリナを頼んでも良いか。そのお願いをしたかったんだ。あいつ、少し前からあんな調子なんだ」
小さく私の耳元で囁いた。
「良いですよ。勿論。でも・・・まぁ、頑張って下さいよ。流石に、彼女を死ぬまでおもりなんて出来ませんからね」
私がふざけた調子で彼に返すと、
「あぁ、勿論」
ちょっと大きめな声で、私から離れながら言い、
「イリナ。無事を祈ってるぞ~」
マルコがそう言い、彼らはどっかに行った。
(・・・えぇ、マジ。お前、ロベルト。お前、一言も発してないじゃん。良いのかよ。死ぬかもなんだぞ)
唯一、言葉を発することはなかったロベルトに思いながらも、
(さぁ~てと、私も覚悟を決めないとな。まだ、ローブの魔法使いはいるわけだ。あいつの警戒をしないと)
と心中で呟いた。
…………
そこからは、案外あっさりと進んでいった。
多分、カシワギがどうにかして作った外部の仲間が、扉を開き、囮の部隊が先に出ていって、私達、脱出を最優先にする部隊が、その後に進み出した。
「・・・・」
辺りには、一つも声が木霊することはなかった。
響くのは、足音それと、遠くから聞こえる叫び声と銃声、金属音程度だろう。
(・・・それにしても、気になるんだが、こいつ何者なんだ。確か、『フンダトル』って名乗ってたよな・・・何か、名前っぽくないんだよなぁ、・・それに、顔をフードで隠し続けてるし)
私はそう思いながら、流れに任せて歩を進めていくと、
「見つけたぞ!此処にもいるぞ!」
男の怒鳴る声が聞こえてきた。
(ヤバっ。見つかった。どうする魔法で蹴散らすか。・・どうする)
と考え、焦っていると、フンダトルは男に近づき、腰に差していた剣で切りつけた。
「ぐあぁ」
叫び声が響き、血が舞ったが、直ぐに叫び声はなくなった。
再度、フンダトルが剣を再度刺したために、絶命したのだろう。
(えっ、マジかよ。こんな感じかよ。はぁ、こんな感じか)
私がそう思いながら、絶望のような物を抱いていると、男の怒鳴り声、叫び声に呼ばれてきた兵士達が現れた。
フンダトルの行動に、唖然とした様子だった、自由解放軍の何人かの少年が、
「うわあぁああ」
やら、
「うらああ」
やら、
「ああああ」
等を意味もなく怒鳴り、突っ込んでいった。
(良くないな。これは)
驚いた兵士が、少年達に切られているのを見ながら、
(・・・これは、本当に良くない。相手は、多分、兵士だ。多分、正規兵だ。落ち着きを取り戻されたら、駄目だろこれ。はぁ、悪い状況だ)
と考えながら、突っ込んでいた少年達に、感化されたように他の、唖然と見つめていた少年、少女達も戦いに行った。
(ああ、駄目だ。これは)
と思いながらも、人の流れに押され、私は前に進んでいくのだった。
…………
そこからは味方も、敵も可笑しな様相を呈し、段々と狂っていったと思う。
意味も無く突撃をし、殺していたし、死んでいた。
何もかもが、めまぐるしく進んでいった。
二割が、死んだ。
五割が、フンダトルの元を離れ、何処かに行き。
三割が、指示に従い、走ったり歩いたり、時には、斬りかかったりした。
私は、ていうか私達が、属しているのは、三割の指示に従った人間だ。
一応は、無事に脱出することが出来た。
何層か存在する壁の門を混乱に乗じて、突破し、そのまま街を走り、街の門を突破し、そして外の屋敷が見える丘にいた。
一部、PTSDになってたり、いかれてそうな人間はいるが、死んでいないだけましだろう。
はぁ、本当に嫌になる。多分、五割の人間は、殆ど死んだだろう。
囮の部隊も、多分、殆ど死んだだろう。
殆ど、カシワギの組織した自由解放軍は、壊滅したといっても過言ではない。
私はそう思う。
・・・・人も殺していなければ、この戦いで、傷も負っていない。
私はそんな希有な人間だ。
話は変わるが、私達が、脱出して丘について、直ぐのことだ。
案内人フンダトルは、空に花火のような何かを打ち上げていた。
次話からは、カシワギ視点。
それと主人公視点で語られるのが少なかったのは、めまぐるしさってのを表現するため。
『喜劇的恋愛』っていう恋愛小説を『事故恋愛』に改名しました。
良ければ、見て欲しいです。




