第225話 暴力革命
色々あって、イリナとイレーネの3人は、カシワギのテントに来ていた。
(結構、人いるな。だいぶ賑わってて)
と辺りを見渡しながら、イレーネさんが逸れ、迷わないように、手を少しだけ強く握った。
・・・いやぁね、違うんだよ。イレーネさんが逸れて迷うかもだろう。
別に私は、『逸れて迷うかも』何て心配は、微塵もないんだよ。マジだよ。嘘じゃなくて。
「えと、どうします。私達は待っていた方が良いですか」
ふざけたことを考えるのをやめ、現実に戻った私が、
「う~ん」
と悩むような声をあげているイリナに声を掛けると、
「どうしようね。・・・私、一人でカシワギに報告すれば良いかな」
問いかけるような、そんな調子で彼女は、言ってきた。
「イリナさんがそれで良いのなら、お願いしても良いですか」
と問いかけるように言うと、
「うん。勿論良いよ。・・イレーネさんだっけ、イレーネさんは何か希望はあるかな」
私に手を握られていたイレーネに声が掛けられた。
すると、
「あっ、はい。大丈夫ですよ」
若干の緊張を纏わせながら、イレーネが返答を返した。
(・・・この雰囲気は、あれだ。友達の友達と遊んだり、話したりするときの雰囲気だ)
と思いながらも、
「それじゃあ、お願いしますね。イリナさん」
こう声を掛けると、
「うん。それじゃあ、私、行くね」
彼女はこちらを向きながら、小走りをして人混みに、突進していった。
(凄いな、よく入れるな。何か、汗臭そうで辛そうじゃね)
と思いながらも、
(・・・あの子、あんな性格だっけ。大人しくなっていないか。何かあったのか)
等々のイリナに対する疑問が湧いていた。
(何だ。どうしたんだ。本当に。何かあったのか)
と思いながら、手を握るのに使っていない方の手を、顎につけ考えた。
(何だ。何があった。彼女の性格。ていうか、元気をなくすような出来事)
こう考えながら、思案を続けていると、
「あっ、危ない。アリス。周りを見ないと」
と言う声と共に、私の体が引き寄せられ、人肌の暖かさを感じた。
「えっ、あっ、はい。すいません」
(あれ。・・・・あぁ、多分、人とぶつかりそうになったのかな)
(考えに戻るか。別に抱かれてる状態で、頭を回せないわけではないし)
と思いながら、私は先程の思考を続けた。
そして、数分の後、
「どうかしたの、アリス」
イレーネが問いかけてきた。
「あっ、いや、その、気のせいなのかも知れませんが、その、何というか。・・・イリナさんが少し、元気がないように思えるのです」
と彼女の質問に返答を返すと、彼女は何とも言えない表情をした後、
「多分、裏切り者がされたことで、衝撃でも受けたのじゃないかしら」
こう返答を返し、その後も彼女は、何とも言えない表情をしていた。
(・・・ノラの処遇。・・・多分、処刑だよな。・・どんな処分は、されたかは知らないけど、多分、拷問されて殺されるか、・・・・下品だけど、集団強姦か。もしくは、絞首かギロチンかな)
と思いながら、
「そう。ですか。・・教えてくれて、ありがとうございます」
こう彼女に御礼を言うのだった。
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アリスの様子が、可笑しく見えた。
起きた頃には、少しパパを思い出す動きをしたり、何か、性格が変わったように思えた。
初めて会った頃は、『守らなくてはいけない存在』といった印象を抱いた彼女は、今や『守らなくても構わない存在』に変わったように思えた。
多々、心配になる部分はあるが、彼女は友達を作り、自分から話しかけ、私の先導をしようとしたり、努力をしている。成長している。
・・・・それなのに、私は成長できているのだろうか?
弱々しい彼女は、私を超えるほどの人間に成長しているのに、私は?
私はどうだろうか?成長しているのだろうか?
していないだろう。していたのなら、こんな感情を抱くことはない。
嫉妬と愛執を。憎愛を抱くことはないはずなのだから。
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そこからは、淡々とトントン拍子で進んでいった。
イリナが戻ってきて、カシワギが最後の演説をした。
未だなお、マルコとロベルト、それとカシワギは、来ないが何かあったのだろうか。
・・・もしかしたら、3人は別の人と組んでるのかな。それか、3人だけで組んでるのかな。まぁ、女の子がいたら、話せない話題もあるだろうし当然か。
「アリス。重くない。大丈夫」
イレーネが心配の声を掛けてきた。
「大丈夫です。これくらいもてますよ」
私は先程の演説の後に配られた、短めの剣を持っていた。
(心配しなくても良いのに、私でもこれくらいはもてるってのにな。てか、杖はこれよりも少し重いし)
いつか拾った杖のことを思い出しながら、心中で呟き、
「本当に、本当です」
多分、心配の視線を向けてきたイレーネに返した。
「そっ、そう。なら良いけど」
彼女はそう言ってきた。
「本当です。本当」
と返しながら、遠くにいる『志願兵』とカシワギに呼ばれていた人達を見つめた。
名誉の戦死やら、生より名誉を選んだ等々と、言葉を選べば美化できるが、あの人達の役割を端的に言い表すとするならば、ただの『囮』とか『捨て駒』になるだろう。
その人達は、ついでに言うと、カシワギが何処からか手に入れたらしい、『特別な武器』であるマスケット銃や、サーベルも持っていた。
多分、彼らの持っている武器や、名誉を選ぶ精神を、それ以外の人達の鼓舞に使ったり、安心感を与える柱にしたいのではないかな。
と私は考えているが、カシワギとは一切話せていないので、真意は分らない。
まぁ、そんなこんなで、もう直ぐ革命は。暴力を用いた『暴力革命』は始まろうとしていた。
もはや、誰しも望んでいないのだ。対話による解放や、平和的な解決法は。
・・・まぁ、そんな物が存在しないのも大きな要因だろうが。




