第220話 革命的演説
イレーネを落ち着かせ、その後は、普通にお話をし、そんなこんなで時間が過ぎ、二日間が過ぎて、ロベルトが言っていた事が気になったので、
(明日は、早く起きて、カシワギのテント行こ)
と心中で呟き、いつも通りの場所で眠りに落ちた。
…………
記憶では、と苦難の夢も見ず、
「・・・ふっぅ」
と声を漏らしながら、睡眠から目覚めた私は、驚愕した。
(あっ、あれれぇ、何か、おっかしいぞぉ)
と。
理由としては、寝る前にも居たし、此処では、何処であろうと目に入る人の姿が、影も形もなかったからだ。
(あれれぇ、待って。本当に、えっ。待って。待って。マジで待って。えっと、その、これって、あれだよね・・・いやいや、違う。絶対違うよね・・・ねっ、ねっ。えっ。違うよね)
非常に焦った。沢山の言葉を意味も無く、心中で呟き続けるほどには焦ったし、ビビった。
それで、私は、
(いやいや、きっと、きっと私は寝坊してない。そのはずだ。うん、きっと)
と思いながら、カシワギのテントに向かって走って行った。
…………
・・・・っで、結果としては、寝坊しました。
いやぁ、思ったより快眠できてしまいましたよ。ハッハッハ。あぁ、クソ。
まぁ、途中からになってはしまうけど、私は、沢山の観衆の前にただ一人で立ち、声を張り上げる少年を見つめた。
すると、
『さて、自己紹介も終わったところだ』
と声が、出された。
どうやら、一応は、本題に入る前までには来られたようだった。
良かったぁ。
『諸君らに問おう。・・諸君らは、今の生活に不満はあるか?』
と声が出され、間髪入れずに続けられた。
『・・・・私は知っている。諸君らが、貴族に!悪魔に虐げられ、侮辱され!人間としての尊厳を踏みにじられ、夢を!人生を!未来を!生命を奪われそうになっていることを。
────私は、我らは、その事を黙って見過ごすことは出来るのだろうか?
否!出来るはずがない。我らは、同胞が、虐げられ、全てを失うのを許容できるはずがない。
我らは、我らには、もはや我慢も、黙認も逃げの道も存在し得ない。存在し得ないのだ。
・・・我らの夢を、人生を、未来を、生命を、自由を、平等を、平和を奪う者には、鉄槌が下る。
そう、我らが下すのだ。我らが、神の。全てを見過ごし、看過し、黙殺してきた。
その存在に変わり、我らこそが、正義の鉄槌を、暴力に悪に、看過できないほどの巨悪に下すのだ。
そして、我らが、賽を振らない神が定めた未来を覆すのだ!』
彼は、声高々に続けた。
『・・・今しかないのだ。その時は。我らが、鉄槌を下し、悪を罰する。
その時は、今しかないのだ・・・────諸君。今こそ。今この時こそ。今日まで貴族に虐げられ、侮辱された。そんな、我らの革命の時なのだ。我らが、我らこそが、貴族達を打倒し、全ての奴隷を解放する。正義を。我らの正義を下すのだ!』
と叫び、
『・・・諸君は。諸君らは、私に付いてきてくれるか。私と共に、神の定めた。理不尽で、許せるはずがない未来に抗うことを望むか』
見ている観衆に問いかけた。
(・・・これは、答えるべきなのか・・・それにしても、不気味だな。そこまで上手い演説って訳ではないのに、全員に何かが伝播しているように感じる)
と思いながらも、様々に聞こえる、肯定の声に耳を傾けた。
『そうだ!今こそ!我らが、我らの正義を果たすのだ。
巨悪を破壊する鉄槌を下すのは我らなのだ。
自由と平等、夢と未来、人生と生命、平和を私は、諸君らに誓う。
諸君らの、消えかけに見せかけた、轟々と音を立て、燃える復讐の炎を、勇気の心を、自由を求める心を今こそ燃やすのだ。
さぁ、立ち上がれ。自由を求める人々よ。
何者にも縛られず、何者にも変えることを出来ない。
私の、我らの信念を心を見せつけるのだ』
とカシワギは言い、
『我らの革命は、いまこの時なのだ!
我らの力を奴らに見せつけ、必ずや悪魔を、貴族を破壊するのだ』
こう言い、演説を締め括った。
(・・・変な、人心掌握能力だ。カシワギに対する反対意見が見えない。なんだこれ。賛同する者だけ集めたのか。いや、な訳がない。こんなにカシワギの賛同者はいないはずだ)
と思った私は、彼の人心掌握能力に対して、強い恐怖を抱いた。そして、
(天性の才能なのか、それとも魔法なのか、魔術なのか、呪いなのか・・・それとも、名前的に私の同類なのか)
心中で小さく呟きながら、彼に対する警戒を強めた。
(・・・・・此処から、離れよ。気分悪いわ)
数分間経っても、操られるように熱気に満ちたテントの周りにそう思い、私は適当に離れていった。
その後は、ただただ歩き続けた。
知り合いでもいないかなぁ。最悪、知らない人でも。
と思いながら。
まぁ、でも結局は、誰一人として、人を見つけることは出来なかった。
(・・・ノラは何処だ。テントの周りでも見なかったぞ。他の知り合い、イレーネを含めて全員居たのに)
と思いながらも、異常な寒気、・・悪寒を感じた。
(多分、あの子。死んだかもな。公開処刑でもされて)
こう末路のような物を考え、適当に、誰も居ない寂れた壁際に腰を下ろした。
・・・『裏切り者に死を』と合唱する声や、『死ね』『裏切り者』『阿婆擦れ』等々の単純な暴言が聞こえてきたが、気のせいだろうか。
・・・・・私は、知りたくないな、真実は。だって、怖いし、後味悪いじゃん。
そして私は、逃れるように目を閉じ、眠りに落ちた。
まだまだ早い時間だが、きっと眠れるだろう。
だって、現実は、怖すぎるんだから。




